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35、中二病冒険者





 ダンジョンには時々変わった冒険者が訪れる。

 防御力があるのかないのか分からないビキニ型の鎧を着けた女、歩くのもやっとな杖をついた老人、年端も行かない子供の見た目をした割に古風な話し方をする少女……どれも戦いに向いているとは思えない見た目だが、舐めてかかると痛い目を見ることも多々ある。

 そもそも冒険者などを職業に選ぶ人間には変わり者が多いのだ。これは俺の体がまだ半透明でなかった頃からの持論である。


 だがさすがにこのタイプの人間が集団でダンジョンに訪れたのは俺にとって初めての経験であった。





*********





「ふん……ここがダンジョンか。奥から闇の力を感じるな」

「くくく、俺の剣が血を吸いたいってウズウズしてやがる!」

「可愛いアンデッドちゃんいっぱいいると良いなっ。キャハッ」

「ううっ、暗くて恐いよぉ……」


 ダンジョンにゾロゾロと足を踏み入れたのは恐らく十代前半と思われる少年三人と少女が一人。

 冒険者と言うにはあまりに若い。子供達が遊んでいるうちにここをアンデッドダンジョンと知らず入り込んでしまったのかとも思ったが、会話から察するにそうではないらしい。

 よく見れば確かに武器のようなものをそれぞれ持っているが、その服装は小綺麗でとても旅をしてきたとは思えない。そもそも彼らが着ている服は機能性というものが一切無視されていた。


「くくく、興奮してきちまった。もう待ちきれねぇぜ、お前ら早く行くぞ!」


 特徴ある笑い声を上げながら先頭に立ちダンジョンを進んでいく少年。目の周りには黒いクマが浮かび、さらに目を見開いていることもあってその眼力には凄まじいものがある。

 彼が着ているのは裾がズタズタに割かれた黒いロングコートだ。下には革のものらしきズボンを履いているが、上半身はコート以外なにも身につけておらず、胸に広がる黒い紋様を誇らしげに覗かせている。一歩間違えれば露出狂、そうじゃなくても森の中にあるダンジョンへ来るのに相応しい格好とは言えない。


「ふん……戦闘狂め。闇の力に飲まれるなよ……“奴”のようになるぞ」


 妙にスカした態度で先頭に続く少年。

 カッチリした黒の軍服にも似たデザインの服の上にさらに黒いマントを羽織っている。裸コートの少年に比べればマシな服装にも見えるが、暑さの残る今の季節にこの風通しゼロの服はかなりキツいらしい。顔中を汗で濡らし、肩で息をしている。顔色もあまり良くないように見える。

 だがもっともっと顔色の悪い人間がいるので、彼はそこまで目立ってはいなかった。


「みんなカッカしすぎ〜、もっと楽しもうよっ! キャハッ」


 わざとらしいほどにキャピキャピしてみせる紅一点の少女。

 フリルをふんだんに使ったゴスロリワンピースを纏い、左手首には意味深な包帯を巻いている。黒い服と対照的にその顔はアンデッドにも引けを取らないほど真っ白で、暗闇の中で彼女の顔だけが浮いて見えた。

 右手には黒いフリルの付いた日傘、左手には包帯を巻いたウサギのぬいぐるみが抱かれている。近寄りがたさで言えば彼女が一番だろう。


「ふええ、みんな置いてかないでよぉ!」


 暗闇に怯えながらおっかなびっくりダンジョンを進む少年。サスペンダーに半ズボンという「少年の制服」のような服を着ている。その服装も振る舞いも実際の年齢よりやや幼い印象を受けるが、他の三人に比べればいい意味で普通の子供といった感じである。



 少年少女はダンジョンをズンズン進んでいく。

 どうやら遊びではなく本当にダンジョンを攻略するつもりらしい。


「どう見ても子供だけど……」


 俺は一人呟く。

 彼らはまるで「英雄ごっこ」をしている子供のようだが、ごっこ遊びでアンデッドダンジョンにまで足を踏み入れるというのも変な話だ。

 その見た目からは考えられない強さを発揮した冒険者も過去にはいたし、その有り余る魔力を使って姿形を自在に操る魔術師もいると言う。油断は禁物だ。

 どちらにせよもうすぐかち合うであろう知能なきアンデッドとの戦いを見れば彼らの力量も自ずと分かる。冒険者の力量を見極め、作戦を立てるのも俺の仕事の一つだ。

 蠢く死体の気配を意識しながら小さな冒険者たちの動きを伺う。次の瞬間、曲がり角の向こうから三体の知能無きゾンビたちがその姿を現した。


「くくく、さっそく来やがった! オラァッ!」

「ふん……生ける屍リビングデッドか。我が剣の露と消えよ」

「君たち、私と遊ぼっ! キャハッ」

「ひやぁっ!? ゾ、ゾンビ!? どうしよどうしよ……うっ」

 

 他三人が武器を構える中、サスペンダーの少年だけが頭を抱えてなにやら苦しみ始めた。にも関わらず他の三人はそれに慌てることも騒ぐこともなくじっと少年の様子を横目で伺っている。


「お出ましね……キャハッ」

「くくく、久々にアイツとれるのか。興奮してきたぜ……!」

「ふん……“眠れる獅子”のお目覚めか」


 三人に見守られながら、少年は苦しみの声をピタリと止めた。そしてゆっくりと顔を上げ、邪悪な笑みを浮かべながら仲間たちの顔を確認するように見回す。先ほどまでの暗闇に怯える少年の顔はどこにもなかった。


「久しいな、我が同士よ。我を呼び起こしたと言うことは……“聖戦”か」

「ええ……また一緒に暴れましょっ。キャハッ」

「くくく、あの頃を思い出すぜ」

「ふん……あんな無茶をしたらまた“機関”から文句を言われるぞ。……まぁ俺は気にしないがな」


 四人はそれぞれ武器を取り、ヨタヨタと歩く知能無きゾンビと対峙する。

 戦いの火蓋はたった今切られた。





********





 遊戯室で待機をしていた吸血鬼は俺の姿を見るやサッと立ち上がって俺に駆け寄ってきた。


「レイス、冒険者はどうだ? そろそろ宝物庫前へ行こうと思っていたんだが」

「ああいや、宝物庫へは行かなくていいや。多分そこまでたどり着かないから」

「そうなのか? しかしまだスケルトンたちとも戦ってないんだろう?」

「そう、まだ知能無きゾンビとしか戦ってないよ。でももう弱くて弱くて……装備は良いんだけど」


 俺は無様に逃げ惑う小さな冒険者たちの姿を思い出す。

 あれだけ大口を叩いておいて、蓋を開けてみれば彼らの戦闘技術はそこらの訓練を受けていない子供と大差無かったのだ。

 持っていた武器の性能が良かったから無茶苦茶な攻撃でもなんとかゾンビを倒せたが、ゾンビの数には限りがない。サッサと倒して先へ進まなければどんどんゾンビが集まってきてしまうのである。

 自身の肉を餌にダンジョン中のゾンビを集めてしまった彼らに残された道は、脱出魔法でダンジョンを出るか、もしくはじわじわと体力を削られながらゾンビに食われるのを待つか、そのどちらかである。どちらにせよ俺達の出る幕はない。

 だが、吸血鬼はそんな最弱の冒険者に興味を持ったらしい。


「慎重な君がそんなに言うほど弱い冒険者なら逆に見てみたいなぁ」

「んー、なんて言うか……ちょっと変わった冒険者なんだよね」

「そう言われるとますます見たい! よしレイス、案内してくれ」


 吸血鬼はそう言うとサッサと遊戯室の扉を開いて外へ出ていく。俺も慌てて吸血鬼の後を追い部屋を出た。


「ええっ、本当に行くの?」

「行く! 良い装備を持っているならどちらにせよ回収もしておきたいしな」

「そう? 別に良いけど……こっちだよ」


 俺は吸血鬼を伴ってダンジョンを上へ上へと上がり、知能無きゾンビの蠢くダンジョン上階へと足を踏み入れた。

 だが上階は冒険者がいるとは思えないほど静かだ。地面を蹴る音も武器を振る音も悲鳴も怒号も聞こえてこない。


「もう死んじゃったかなぁ」


 吸血鬼は鼻をすんすん鳴らして首を傾げる。


「確かに静かだが新しい血の匂いはしないな。どこかに隠れてるんじゃないのか」

「そうなのかな?」


 どこかに冒険者の痕跡はないかと辺りを見回していたその時。

 前方から少年たちの押し殺したような悲鳴が上がった。


「おっ、やはり生きてるじゃないか。どれどれ」


 吸血鬼は軽い足取りで声のした方へ歩いていく。俺もそれに続いてダンジョンの迷路を進む。

 曲がりくねった迷路の先に位置する袋小路にて彼らの姿を発見した。

 彼らと対峙しているのは知能無きゾンビではなくツギハギだらけの少女だ。その顔には見覚えがある。


「あっ、ゾンビちゃん」

「小娘じゃないか、なんでここに」


 吸血鬼は眉間にシワを寄せて曲がり角から顔を出し、ゾンビちゃんと冒険者の様子を伺う。

 よほどの飢餓状態でもなければ知能無きゾンビのフロアにはあまり干渉しないのだが、ゾンビちゃんは空腹に負けて冒険者を迎えに行ってしまったらしい。


「知能無きゾンビの餌を盗っちゃダメだって言ったんだけどなぁ……」


 ゾンビちゃんと対峙した冒険者たちは顔をクシャクシャにして色んな汁を色んなところから流している。

 可哀想に、知能無きゾンビならまだしもゾンビちゃんとかち合ってしまったらもはや彼らに生きる道は残されていない。もちろん彼らはここをアンデッドダンジョンと分かった上で武装して足を踏み入れたわけだからこの結果も自業自得である。

 だが人生で最も馬鹿な時期に起こした馬鹿な過ちで若い命が散ってしまうのは少しだけ、ほんの少したけ哀れに思えた。

 ジリジリと追い詰められる冒険者たち。ゾンビちゃんが彼らに手を伸ばしたその時、吸血鬼がハッとした表情を浮かべて言った。


「あ、あの装備は……!」

「ああ、あの武器凄いよね」


 彼らはどこで手に入れたのか、普通の冒険者でもそうそう持っていないような魔法具のふんだんにあしらわれた高性能の武器を持っていたのである。これがなければ彼らもここまで生き延びてこられなかっただろう。まぁ高性能の武器だけではゾンビちゃんを倒すことはできないだろうが。

 しかし吸血鬼は俺の言葉に首を振った。


「違う、あの服だよ!」

「えっ?」


 俺は改めて冒険者を見やる。

 装備というより衣装のような凝ったデザインの服ではあるが、特殊な魔法具や素材が使われているようには見えない。


「あの服がどうしたの?」

「あの服は凄まじい服だぞ……すごく高いんだ」

「防御力が?」

「いや、値段だ」


 吸血鬼はそう言うと悔しそうに唇を噛んだ。


「吸血鬼にも愛用者の多いブランドなんだが、下手すると同じ重さの黄金よりも高価だと言われてる。あいつら相当のボンボンだぞ。僕もいつか手に入れたいと思い続けてもう百年は経ったな」

「そ、そんなに高いのアレ? ファッションって分からないな……」


 確かに凝ったデザインだし装飾も付いているが、そこまでの値段を出す価値があるとはどうしても思えない。

 一体どんな層が買うというのか、それこそ人型の魔物くらいにしか需要ないんじゃないだろうか。

 そんなことを考えていると、吸血鬼が押し殺したような声でポツリと零した。


「……剥ぐか」

「ええっ、剥ぐって……今?」


 放っておけばものの数分でゾンビちゃんが冒険者を食い殺すだろう。普通装備品を剥ぐのはそれからだが、吸血鬼はそれではダメだと首を振る。


「服に血がついたり破れたりしたら価値が大幅に下がるだろう。売るにしろ着るにしろそれでは不味い」

「な、なるほど……なら早くした方が」


 そう言い終わらないうちに吸血鬼は潜んでいた通路を飛び出し、今にも冒険者に襲いかからんとするゾンビちゃんを背後から蹴り飛ばした。


「ギャッ!」


 不意をつかれたゾンビちゃんは狭い通路を吹っ飛び、少々離れたところでそれを見ていた俺の下にまで転がってきた。


「だ、大丈夫ゾンビちゃん!?」

「ウー……」


 ゾンビちゃんは少し唸ると、地面に伸びたまま一切動かなくなってしまった。打ちどころが相当悪かったらしい。


「ちょっと吸血鬼やり過ぎ! どんな仕返しされても知らないよ」

「大丈夫大丈夫、干し肉でもやれば黙るさ。そんなことより冒険者諸君」


 吸血鬼は顔をドロドロにしてネズミのように固まる冒険者の少年少女を見下ろしながら言う。


「身ぐるみ置いて今すぐ出ていくと言うなら命だけは助けてやっても――」

「も、もしかして吸血鬼ですか?」


 吸血鬼の言葉を遮り、軍服の少年が顔から滝のような汗を流して言った。吸血鬼は話の腰を折られてやや困惑しながらも頷く。


「そ、そうだが」


 その途端、怯えきっていた少年少女は恐怖を忘れたように一斉に歓声を上げて吸血鬼に駆け寄った。


「うわあっ、ほ、ホンモノ!?」


 裸コートの少年が目をひん剥いて吸血鬼を見回す。目の周りのクマはメイクだったらしく、すっかり眼力は衰えてしまっている。誇らしげに覗いていた胸の紋様もシールかなにかなのか、その大部分が剥がれ落ちてしまっていた。


「すごい! すごい!」


 そう言ってぴょんぴょん跳ねるのは「覚醒」したはずのサスペンダーの少年だ。しかし今は至って普通の少年の顔を取り戻している。


「キャーッ! 牙見せてください、牙!」


 耳障りな高音の歓声を上げるのはゴスロリ服を纏った少女だ。白塗りは汗で大部分が落ち、本来の健康的な肌の色が露出している。だが化粧が落ちて目の周りが真っ黒になっており、暗闇で見るとギョッとせずにいられないことには変わりない。


「ええと……こ、こうか?」


 吸血鬼も勢いに飲まれて少年少女の要求に答え、薄く笑うことでその牙を露出させる。

 すると少年少女から一際大きな歓声が上がった。


「うおおおおお、かっけぇええええ!」

「ぎゃあああああ!! なんかもう……ぎゃあああああ!」


 子供特有の耳を塞ぎたくなる甲高い声がダンジョン中に響く。

 この様子だと彼らはどうやら吸血鬼に会いに来たらしい。


「まぁ……中二病患者の一つの理想の形だよね、吸血鬼って」


 なんだかやけに納得して頷いてしまった。不死身、強い、闇の中で生きる、血液を好む――吸血鬼は中二心をくすぐる要素がいっぱいだ。

 当の吸血鬼はというと、子供たちにアイドル扱いしてもらってまんざらでもないらしい。


「な、なかなか話のわかる若者じゃないか。将来有望だな」


 吸血鬼の態度が悪くないのを見てイケると思ったのか、少年たちは勢いに任せて吸血鬼に頭を下げる。


「あのっ、お願いします! その牙下さい!」

「ええ? くださいと言われても折れた牙なんて取ってないぞ」


 吸血鬼は困ったように肩をすくめる。だが、少年少女は子供らしく目を輝かせながらとんでもないお願いをしてきた。


「吸血鬼って怪我しても治るんですよね?」

「どんなに血が出ても死なないんですよね?」

「腕がもげても生えるんですよね?」

「なら、牙が折れても生えますよね?」

「……ま、待ってくれ」


 吸血鬼は引き攣った笑みを浮かべる。


「まさかとは思うが、今生えてるやつを折ってよこせと言うことか?」


 少年少女は悪びれる様子もなく満面の笑みで頷いた。




********




「どうだレイス、格好良いだろう!」


 吸血鬼は裾がズタズタのコートを翻してキメ顔をしてみせる。だが俺にはそのコートの良さがイマイチ分からない。


「いつもの服と何が違うのか分からないなぁ。それがそんなに高いなんて……」

「このセンスが分からないとは、君もまだまだだな。この服の価値を考えれば牙二本など安い安い」


 そう言って吸血鬼は口の端から新しく生えてきた牙を覗かせる。


 命を助ける代わりに装備を剥ぐという計画はいつの間にか消え、少年たちに求められるがまま吸血鬼の牙と装備との交換になったのである。

 吸血鬼ならば少し痛めつけて少年を脅し、装備を奪うこともできただろう。だが自分を慕うあどけない子供たちに乱暴なことをするのは気が引けたのか、もしくは子供達のキャバクラ嬢も真っ青のチヤホヤテクニックに気を良くしたのか、とにかく少年少女に手を上げることはしなかった。


 今は食料にも余裕があるし、か弱い子供が蹂躙される様を見ずにすんだ。俺は吸血鬼のした事に文句はなかったが、文句を言うだけでは済まない者もいる。

 食事を邪魔されたゾンビちゃんである。子供のものとはいえ、四人分もの肉を食いっぱぐれたのだ。

 ゾンビちゃんは嬉しそうにコートを撫でる吸血鬼を視界に入れるや、有無をも言わさず襲いかかる。


「うわっ、なにするんだ!」

「ニク! 返せ!」

「さっきから謝ってるじゃないか。ほら、干し肉やるから」


 吸血鬼はゾンビちゃんの攻撃から逃げつつ、犬にでもやるように干し肉を投げる。ゾンビちゃんは肉を空中でキャッチしてムシャムシャ食べ始めたが、だからと言って攻撃の手を緩めようとはしない。

 大事なコートが破れたら一大事だ。吸血鬼は冷や汗を浮かべてゾンビちゃんから逃げ惑う。


「まだ気がすまないのか! 一体どれだけ肉をやれば良いんだ」

「四人分のニク、お前の身体ニクでハラエ!」

「ゾンビに食われるなんてゴメンだ!」


 四人もの肉を食べ損なったのが相当悔しかったのだろう。ゾンビちゃんは執拗に吸血鬼を追い回す。

 だが四人を解放したのはゾンビちゃんにとって必ずしも都合の悪い行動とは言えなかった。俺はゾンビちゃんと吸血鬼の間に滑り込み、彼女を宥めるべく声をかける。


「大丈夫だよゾンビちゃん、あの四人はきっと食べ切れないくらいの冒険者を連れてきてくれるから」

「ホントにぃ?」


 ゾンビちゃんは疑り深い目で俺の透けた体を見つめる。吸血鬼も怪訝な表情を浮かべて首を傾げた。


「どういう事だ?」

「あの子たち、吸血鬼の牙を見せびらかして自分たちが退治したって吹聴してるらしいよ」

「はぁっ!?」


 吸血鬼は目を見開いて素っ頓狂な声を上げた。


 今朝早くにダンジョンへやってきた素人まるだしの冒険者が言っていたのだ。「あんなガキでも倒せたんだから俺達だって殺れる」というような事を。どうやらあの四人の話を聞いてやってきたらしかった。

 結局いくらも進まないうちに怖気付いて帰ったのだが、あの調子なら少年たちが吸血鬼を倒したらしいという噂は瞬く間に広まるだろう。なにせ彼らは「吸血鬼の牙」という証拠を持っているのだ。


 しばらくは「子供に攻略されたダンジョン」というレッテルを貼られるだろうが、それは必ずしも悪いことではない。今朝のような力不足の冒険者が押し寄せてくれれば楽して食料が手に入る。

 だが吸血鬼にそんなポジティブな考え方はできなかったらしく、その蒼白い顔が真っ赤に染まるほどの勢いで怒り始めた。


「あいつら、恩を仇で返しやがった。次来たら八つ裂きにしてやる!」


 「子供に殺られたダンジョンボス」の烙印を押された吸血鬼が悔しそうに地団駄を踏む。


「まぁまぁ、服は手に入ったんだから」

「くそっ、ボッタクられた気分だ!」


 吸血鬼はそう言って悔しそうに唇を噛んだ。



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