34、食材を買いに
その夜、ダンジョンは深夜にも関わらず大騒ぎを起こしていた。
「アーッ! もうどうしたら良いんだよ!」
「ドウシタライイノー」
俺が頭を抱えて叫びを上げるのをゾンビちゃんが真似する。スケルトンたちもあたふたを骨を鳴らしながら右往左往するものの、問題解決へのとっかかりは未だ掴めていない。何せ急な事だったし、タイムリミットはもうすぐそこまで迫っている。
「んー……何の騒ぎだ」
上を下への大騒ぎが棺の中にも届いたらしい。吸血鬼がパジャマ姿のまま目を擦りながら自室から出てきた。俺は慌てて不機嫌そうな表情を浮かべる吸血鬼に駆け寄る。
「大変なんだよ吸血鬼、食材が届かないんだ!」
「……食材? 血や肉なら貯蔵庫にあるじゃないか」
「違う、俺らの食材じゃなくて温泉客用のだよ」
いまいちピンと来ていないらしく、吸血鬼は怪訝な顔で首を傾げる。吸血鬼がそのような顔をするのも仕方のない話だ。温泉運営については吸血鬼はもちろん、俺もほとんど関与していない。だが温泉によって得られている資金は俺達の生活にも多大な恩恵をもたらしている。温泉のピンチが俺たちのピンチであることは間違いない。
俺は吸血鬼に真剣な表情と低いトーンの声で告げた。
「明日温泉に団体客が来るらしいんだ。それで食材をいつもの業者に頼んでいたんだけど、運ぶ途中で事故にあって……届くのは3日後だって今報せが来た」
「ふーん、なるほどな。他に頼れる業者はいないのか?」
吸血鬼は慌てず騒がず冷静に言葉を返す。
俺達ももちろん最初にそれを考えた。その上で俺はゆっくりと首を横に振る。
「食材を扱う魔物の業者はそう多くないし、その上明日の昼までに食材を届けられる業者なんてなかなかいないよ。注文書だってコウモリを今から飛ばして明日の朝届くかどうか……」
「魔物の業者でなければダメなのか?」
「えっ?」
吸血鬼の言葉に思わず目をパチクリさせる。吸血鬼はというと、それがなんでもないかのような顔をして続けた。
「近くに町があったろ。小さい町だが、特別なものじゃなければ揃うはずだ」
「いや、まぁそうだろうけど……」
「なんだ、特別な食材でもいるのか?」
俺は吸血鬼の言葉に首を振る。
必要なのはネズミの串揚げの衣に使う卵や小麦などごくありふれた物だ。確かにその辺の商店にいけばほぼ間違いなく揃うだろう。だが問題はそこじゃない。
「アンデッドダンジョンが近くにある町の商店でこんな真夜中に突然戸を叩を叩く音がして、玄関に顔色の悪い男が立ってたら住人はどう思うかなぁ……」
「大丈夫さ、暗いし。ただ少し透けているのが難点か。脚が無いのも……まぁそこを指摘されたら逆ギレしろ」
微妙な会話の齟齬を感じ、俺は怪訝な表情を浮かべて吸血鬼に確認をした。
「えっ、ちょっと待って。俺が行くの? 俺荷物もお金も持てないよ」
「ああそうだったか」
吸血鬼はまだ寝ぼけているらしい。
小さくあくびをし、眠そうな目を擦りながら次はゾンビちゃんに視線を向ける。
「なら小娘はどうだ?」
「ワー、行く行く! ニク食べホウダーイ」
ゾンビちゃんは恐ろしいことをサラッと言いながら歓声を上げる。まともな武器も持っていないだろう非戦闘民の寝静まる町なんかに彼女を放てば大虐殺が起こることは間違いない。
俺は慌てて今にもダンジョンを飛び出しそうなゾンビちゃんを止める。
「絶対ダメだからね、絶対ダメ」
「エー、ケチー」
ゾンビちゃんは口を尖らせながら恨めしそうな視線を俺に向ける。だがダメなものはダメだ。
「なら他に誰がいるんだ」
そう言って肩を竦める吸血鬼を、俺は何も言わずジッと見つめる。
かなりの不安はあった。だが多少の危険を冒してでもこのピンチを乗り切る必要がある。
「吸血鬼……おつかい頼むよ」
「えっ、僕!?」
吸血鬼はまるで想定していなかったかのように目を丸くする。
だが普通に考えれば適役は吸血鬼しかいないだろう。実体があり、見た目が人間により近く、そしてむやみに人を襲わない(多分)と3拍子揃ったアンデッドはこのダンジョンには彼だけだ。俺は吸血鬼に手を合わせ、必死に懇願する。
「お願いだよ吸血鬼、ダンジョンのピンチなんだ。吸血鬼しかできない任務なんだよ」
「そうは言われてもなぁ……」
顔にメンドクサイという文字を浮かべた吸血鬼は腕を組んで返事を渋る。恐らく何か行かなくて済むような言い訳を考えているのだろう。
吸血鬼が良い言い訳を閃く前に、俺は奥の手を出した。
「よし分かった。もし行ってくれたら特別ボーナス出す」
「ほ、本当か!」
吸血鬼は目を輝かせながら目の前にぶら下がった餌に食いついた。俺は満面の笑みで頷き、気が変わらないうちにとスケルトンたちへ指示を出す。
「誰かお金持ってきて。それから必要な物のリスト。ああそうだ吸血鬼、行く前に爪切ってね」
「ええっ、それは困る。爪は僕の武器なんだ」
そう言って吸血鬼はサッと手を背中へ隠す。
吸血鬼の言いたいことも分かるが、今は食料の調達が最重要事項だ。人の住む町へ行くに当たり、多少なりとも吸血鬼要素は排しておきたい。金の受け渡しをするときなどにその鋭い爪で相手を傷つけてしまったりしたら事だ。
渋る吸血鬼を根気よく説得すると、彼は肩を落としつつもようやく頷いた。
「分かった……が、片手だけにしてくれ。金や荷物の受け渡しはそっちでやるから」
「んー、分かった。絶対に爪を切った方の手でやるんだよ。あと不用意に口を開かない事。牙ができるだけ見えないように喋ってね」
「難しい事をいうな。努力はするが……」
「あとあんまり吸血鬼っぽい格好はダメだよ。特にあの赤いマント、あれ絶対ダメ」
「そ、そうか。まぁ田舎町にあの派手なマントでは浮くからな、夏だし」
「それから美味しそうな人を見つけても不用意に血を吸ったりしちゃダメだからね。ええと、それから――」
「分かった分かった! そう心配するなよ、人の住む町での振る舞い方くらい心得てるさ。僕が何年生きてると思ってる」
「そ、そうだね……」
俺は言いたいことを飲み込み、吸血鬼の言葉に頷く。確かに彼は俺の数倍、下手したら数十倍の時を生きているはずだ。近隣の町ではないものの、人で賑わう街まで出向いて新聞を買って帰ってきたこともあった。吸血鬼ならきっと大丈夫だ。
「じゃあ行ってくるぞ」
吸血鬼は彼が持っているものの中では比較的シンプルなシャツとズボンを纏い、食材を入れるための鞄と十分な金を手にダンジョンを発った。
俺たちは吸血鬼の背中が小さくなってやがて見えなくなるまでダンジョン入り口から彼を見送った。
「はぁ、余計なトラブルが起きないと良いけど。ご近所さんとの衝突は避けたいからなぁ」
「お土産にニク持ってきてくれるかな」
「ゾンビちゃん俺の話聞いてた?」
********
それから約1時間。
吸血鬼は無事帰ってきた。帰ってきた……が、彼は肝心な任務を果たせてはいなかった。帰ってきた彼の鞄はダンジョンを発った時と同じくペチャンコで、その中に食材は入っていなかったのである。
「吸血鬼……どういうこと? まさかお金使い込んだの?」
「そ、そんなわけないだろ! そう恐い顔するな」
吸血鬼は慌てたようにそう言ってポケットからコインの入った小さな袋を取り出す。ダンジョンを発った時と同じく、袋にはギッチリとコインが詰まっていた。袋を開けた様子すらない。
「じゃあどうしたの? 道にでも迷った?」
「いや、町までちゃんと行けたぞ。それから商店の戸を叩いて店主を起こした。そこまでは良かったんだが、あいにく今は商品が揃っていなくて欲しいもの全ては揃えられないと言われたんだ。だが朝になったら用意できると言われたからな、ちゃんと頼んでおいたから安心しろ」
吸血鬼は特に悪びれた様子もなくそう言ってのける。
確かに朝食材が揃えば団体客の食事には十分間に合う。が、問題はそこではない。
「ちょっと待ってよ、朝になったら外へ出られないじゃないか!」
日が昇れば吸血鬼はダンジョンの外に出られない。彼以外に町へ行けるアンデッドはおらず、必然的に食材を取りにはいけないということになる。
だが吸血鬼は「心配するな」などと言って胸を張ってみせた。
「そこのところもきちんと考えてある。店主に頼んで朝一番にこのダンジョンまで届けてもらうことになった」
「えっ……このダンジョンって……このダンジョン?」
「だからそう言ってるだろう」
吸血鬼は得意げな表情を浮かべて大きく頷く。
唖然としてしばらく言葉が出なかった。だがいつまでも黙ったままでいられるほどの時間的余裕はない。
「……ねぇ吸血鬼。近隣の住人ならここがアンデッドダンジョンって知らないはずないよね? 朝は町に出られないからアンデッドダンジョンの前まで届けてくれ、なんて言うやつがただの人間な訳ないって子供でも分かるんじゃないかな」
吸血鬼はその事に今初めて気付いたらしい。
目をパチクリとさせ、やがて視線を泳がし始めた。
「しかし店主はきちんと届けると言ってくれたぞ」
「断ったら何されるか分からないって思ったんじゃないの……」
「そ、それならむしろ好都合じゃないか! 『きちんと届けなければ何をされるか分からない』と怯えてくれれば問題なく食材は届く。相手がどう思おうが食材さえ届いてくれれば良い、そうだろ?」
確かに吸血鬼の言うとおりだ。食材が届いてくれさえすれば問題はない。
とにかくどちらにせよすぐそこまで太陽は迫っているのだ。今から他の町へ出掛けるには時間がなさすぎる。
「あとは食材が届くよう祈るしかないなぁ」
「大丈夫、店主はきっと来るさ。僕が言うんだから間違いない」
吸血鬼はそう言って根拠のない自信を胸に笑顔を浮かべた。
*********
朝、日が十分に昇ったころ。
結論から言うと店主は吸血鬼との約束を守った。指定したダンジョン入口に指定した食材を持って約束の時間ピッタリに現れたのだ。
「よく来てくれたな。さぁ、ここまで食材を運んでくれ!」
吸血鬼はダンジョンの影の中からにこやかに店主たちを手招きする。
だがやはりと言うかなんというか、彼らはなんの準備や警戒もなくこのダンジョンへやって来たわけではなかった。
「ダメだ、こっちへ来てきちんと品物を受け取ってくれ」
5人の屈強な若い男が店主らしき軽装の中年男を囲む様にしてこちらを睨みつけている。商店の若き従業員たち、という訳ではなさそうだ。店主以外はどう考えても田舎町の住人の普段着とは思えない銀色の鎧なんかを着こみ、これまた田舎町の住人には恐らく必要ないであろう剣を腰に差している。第一、頼んだ品物は屈強な男が5人もいなければ運べないような量ではない。
彼らは荷物持ちというよりは化け物退治にやって来た力自慢の若者たちといった様子である。
「完全に武装してるじゃん……どうする吸血鬼?」
店主たちからは見えないであろうダンジョンの天井付近を漂いながらそっと吸血鬼に声をかける。吸血鬼は俺に困ったような視線をチラリと向け、腰をさすりながら日の光の中にいる男たちに言った。
「さっき腰を痛めてしまってね、この状態から動けない。日向にいつまでも置いておいたら卵が腐るだろう? ここまで運んでくれたんだ、いまさら大した距離ではないだろう」
「なるほど、確かに顔色が悪い」
「あ、ああ。腰が痛くて痛くて、痛いを通り越して吐きそうなんだ。さっさと運んでくれよ」
「それは大変ですね、一体どこでこの食材を使うんです? よろしければそこまでお運びします」
一見客を気遣ったような言葉。
だが屈強な男たちの狙いが宅配サービスによる顧客満足度の向上でないことは明らか。彼らは吸血鬼の尻尾を掴もうと隅々まで目を光らせているのである。
吸血鬼はそんな彼らの視線から逃れるため必死に口を動かす。
「い、いや結構だ。目的地はここからかなり遠くてね、もうじき馬車が迎えに来るはず」
「ほう、こんな森の中を馬車ですか。ずいぶんと小回りの利く馬車で」
「な……なんだ? そちらの店では客が商品をどこで何に使うかまで説明しなければならないのか?」
吸血鬼は少々語気を荒げて男たちに言う。吸血鬼の言葉を借りるならば「困った時の逆ギレ作戦」である。
だが血気盛んな若者たちにこの作戦はむしろ逆効果だったらしい。彼らは剣に手を掛け、吸血鬼を鋭い眼光で睨みつける。
一人のせっかちな男が剣を抜きかけたその時、今まで沈黙を通していた店主がその手を押さえて剣を鞘に収めさせた。
「いい加減にしろ、お客さんに失礼だろ」
「で、でも……」
「運ぶぞ。手伝え」
店主の言葉に若者たちは渋々ながら頷き、剣ではなく荷物を手に持って恐る恐るダンジョンの暗がりへと足を踏み入れる。俺は慌てて壁の中に隠れてこっそりと人間達の様子を窺った。
「頼まれていた品物はキッチリ揃えた。お代は昨晩言った通りだ」
店主は臆することなく吸血鬼に近寄っていく。
「ああ、助かったよ」
吸血鬼はそう言って微笑みながらコインの入った袋を取り出し、請求通りの額を店主の手のひらに乗せようと腕を伸ばす。
その時、吸血鬼の青白い手首を若い男の一人が素早い動きで握った。
「……なんだ?」
怪訝な顔をする吸血鬼を睨みつけ、若い男が叫ぶ。
「親父さん、こいつやっぱり吸血鬼だ! 見ろこの悪魔のような爪!」
「あちゃー……」
俺は壁の中で人知れず頭を抱える。
吸血鬼が金を払うため店主に伸ばした手は、よりにもよって昨日爪を切らなかった方であった。
「こ、これはオシャレつけ爪だ。なんか文句でもあるのか」
だが吸血鬼も意外に諦めが悪い。男の手を振りほどき、なおも逆切れでシラを切る。
すると、吸血鬼を囲む冒険者の一人が懐から小さな小瓶を取り出して吸血鬼に中の液体を浴びせかけた。
「熱ッ!?」
その無色透明な液体が吸血鬼の皮膚に触れるや、まるでヤカンから出る蒸気のような白煙が吸血鬼の身体から昇る。恐らく中身はただの水じゃない、聖水だ。
その程度で吸血鬼の命を奪うことなどできはしないが、彼がアンデッドであると証明するには十分である。
「ほら見ろ、やはり吸血鬼だ!」
「い、いや。ちょっと体調が悪くて、熱があるみたいなんだ。これは熱さで水が蒸発してだな……」
「そんな訳ないだろ、くたばれ吸血鬼め!」
若者は今度こそ剣を抜き、吸血鬼に向かって力いっぱい振り下ろした。
だが吸血鬼はその剣を片手で易々と受け止める。いくら武装していようとも所詮は何の経験もない素人。ダンジョンを訪れる冒険者に比べればその殺気はすこぶる弱く、剣の扱いもどこかぎこちない。束になっても吸血鬼に敵わないのは明白、もし本当に吸血鬼がぎっくり腰だったとしても結果は変わらないだろう。
その圧倒的な力量の差が俺の心配を加速させる。もし吸血鬼が少しでもこの若者たちに攻撃を加えようものなら彼らはいとも容易く死んでしまうはずだ。冒険者でない彼らを殺してしまえば、彼らの家族や友人は冒険者が絶対にしないやり方で復讐してくるかもしれない。ダンジョンの爆破でもされたら大参事だ。
「客に手を上げるとはいい度胸だ」
流石の吸血鬼も突然の攻撃にとうとうキレた。もはや吸血鬼であることを隠そうともせず、その鋭い牙を剥いて若者達を威嚇する。それを見て若者たちは少々怯みながらもどこか嬉しそうに声を上げる。
「ほらみろ親父さん、やっぱり吸血鬼だ! 見てろ今討ち取って――」
その言葉を遮るようにして金属音が響き、次の瞬間若者のうちの一人は受け身も取らずに地面に倒れた。その背後には若者の捨て置いた鞘を握った中年店主が鬼のような顔をして立っていた。
「お前らいい加減にしろ。客になんて事するんだ」
店主の怒号がダンジョン内に響く。その声は幽霊である俺すら震え上がるほど恐ろしいものであり、そこらの若者がビビらないはずもない。だが若者たちは多少耐性ができているのか口を尖らして店主に言い返した。
「きゃ、客って……吸血鬼だぞ。化け物だ」
「化け物だってなんだって良いんだよ、商品を渡して金を貰えれば相手がなんだろうと客だ。俺は冒険者でもエクソシストでもないんだぞ。お前たちもだ」
店主はそう言って若者を叱り飛ばす。だが若者たちも納得がいっていないらしい。なおも店主に食って掛かる。
「でも親父さん、吸血鬼と取引なんて」
「あのなぁ、お前ら。町に来る冒険者を見て憧れるのは分かる。だが町に冒険者が来て金を落としてくれるのはこのダンジョンがあるからだ。飯屋が人で一杯なのも、ちっぽけな宿屋が潰れないのも、子供が薬草を売って小遣い稼ぎができるのもみんなダンジョン目当てに来る冒険者のおかげだ。お前らはみんなの飯のタネを潰そうとしているんだぞ。まぁお前らに潰される様なタネじゃあないけどな。分かったら剣をしまえ」
店主に捲し立てられ、若者たちは渋々ながら剣を鞘に納める。それを確認し、店主は改めて吸血鬼に頭を下げた。
「すまなかった、お客さんにとんだ無礼を働いちまった。こいつらは冒険者ごっこがしたかっただけなんだ、どうか許してやってくれないか」
「……ふん、まぁ良い。今日は時間もないしとにかく食材は手に入ったからな。ほら、代金だ」
吸血鬼は再び手に握っていたコインを店主に渡す。今度は邪魔も入らず、コインはしっかりと店主の手に握られた。
「毎度あり。アンデッドが食材を何に使うのかは知らないが、また良かったら利用してくれ。ただ次から注文は日没後すぐに頼む、あんな真夜中じゃさすがに俺も寝てるよ」
店主はそう言って小さく笑い、伸びた若者の一人を担いでダンジョンを出て行った。
どんどん小さくなるその背中を見つめながら俺は呟く。
「話の分かる人間もいるものだね」
「まぁあそこまで割り切れているのはレアケースさ。だが良い取引相手を見つけたな、あの商店はきっとまた役に立つぞ。馬鹿な若者さえ付いて来なきゃな」
吸血鬼はおつかいに伴うボーナスを期待してか、満面の笑みを浮かべてそう言って見せる。
もちろんあの人間を全面的に信用したわけではない。アンデッドと人間はやはりどう頑張っても似て非なる物であり分かり合うことを期待するのは無駄である。
だがもう一度こんなピンチに陥ったら、またあの店を利用するのも一つの手であるとは思った。