心の種火
船は征く。
白銀の凶鮫が雄々しく悠々と闇を切り裂き飛び立つ様を、台間フォートの住民たちが涙を流しながら見送った。
できることなら引き留めたい。
だが彼らを止めることが出来るのは、彼ら自身の決意であることのみは短い間であったが心と心で通じ合った住民たちの暗黙の了解であると言えた。
やがて空からオートで台間フォートへと着陸したナイトリモーラから全てを知ることに……
皆は決して忘れないだろう。
慟哭の叫びを上げるミフユと陽介の言の葉を。
台間フォート住民たちの心に深く刻まれた、ヴェンディダールの海賊たちの生き様。
日本人であるが故の、ヴェンディダール号の雄姿と生き様は復興に向けて、心にくべられた大きな種火へと変化していく。
皆は願った。
ヴェンディダール号が再びあの蒼穹の空を、白銀の魚影で悠々と雄々しく切り裂き帰還することを。
そしてその願いが天に届くことを祈って、台間フォートには大きな海賊旗が掲げられている。
不敵な笑みを浮かべる髑髏と、鮫の歯が意匠された誇り高い海賊旗が。
◇
あれから半年が過ぎた。
台間フォートにはあの日に掲げた海賊旗が今でも悠々と風になびいている。
子どもたちの元気な笑い声がグランドを駆けまわり、首都圏で生き残った23万人あまりが台間フォートの周辺に居住するようになっていた。
分解式重機によって不要な住宅や廃棄された車両の多くが除去され、大規模な土地が使用できるようになったこともありシュヴェンターナにより精製された水耕プラントや食料プラントが組み上げられていく。
少しずつではあるが、ヴェンディダール号にもらった種火が人々へ広がり復興は加速していく。
そしてミフユと陽介は、イクスが用意した疑似人格をコピーしたイクス二号機のサポートも借り、界魔細胞群になりそこねた劣化変異種 界魔獣の討伐任務に就いていた。
SAT隊員の多くが界魔獣の迎撃部隊へ志願し、サザンクロスとナイトリモーラを駆り周辺地域に現れた界魔獣の討伐へ飛びまわっていた。
界魔獣は人に感染せずもし噛まれてもゾンビ化はしないものの、2m~10mの強力な個体のためビームやブラスター兵器を持つ彼らは休みなく働いている。
陸上生物や海洋生物の被害もまた甚大であったが、緩やかに回復の兆しが見える。
陽介は休みなく戦い続けることで、拭いきれないほどの喪失感から背を背けてきた気がする。
それはミフユのほうがより強かったであろう。
「また陽介ったら空を見上げてばかりいるのね」
「うん、下を見ていたらキャプテンに怒られそうな気がしてさ」
「まったく、わたしを置いてきぼりにした落とし前はいつか必ずつけさせてやるんだから」
北海道に現れた界魔獣の討伐任務後、休憩がてら五稜郭を見物していた時のこと。
「陽介もそれの扱い、やっとまともになってきたね」
ミフユが秋風に靡く白銀の髪をかきあげながら微笑み、視線を向けたのは陽介の腰に下げたフォトンセイバーだった。
「左手のおかげでね、次にどう動けばいいか分かるんだ。キャプテンには遠く及ばないけど」
「あーあ、話したいこといっぱいあるのにな。寂しいけど寂しくない、だって陽介がいてくれるから」
そっと唇を近づけようとしたその瞬間であった。
< 陽介、陽介聞こえてるか!? >
本部待機していた元SATの守田からだったが、どうやら焦りが滲む声だ。
「守田さんどうしたの!?」
< 陽介、聞こえてると信じて話すぞ! アメリカ第七艦隊の……海兵隊‥‥…二人を…‥‥ 身柄を引き渡せって……戻ってくるな……――>
「え? 海兵隊??」
……
第一部 完
いままで読んでいただいたすべての方々にお礼申し上げます。
第一部 完 となりましたが、現状においてブックマークや評価などの数値を見る限り皆さまに望まれていない作品になってしまったと猛省しております。
二部のプロットはできておりますが、現状において中断という形をとらせていただくことにしました。
その中でも評価いただいた方々には本当に感謝しております。
このような形になり申し訳ございません。