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俺の海!

 ブリッジは不思議な高揚感に包まれていた。シルヴァリオン粒子がコンソールや機器に染みわたり、優しく肌を撫でるように流れていく。


「整備班長、あれを頼む。理由は任せる……」


 ファルベリオスが何かを連絡し終えると、セントラルコアが大きく変形しヴェンディダール号を艦ごと飲みこもうと大口を開け四方八方から襲い掛かった。


 軽い衝撃音がするものの、放出されたシルヴァリオン粒子に弾かれ、複数に分かれた顎が焼き切れるように四散する。


「すごい! これがヴェンディダール号の本当の力なんですねキャプテン!」


「ここからが本番だ! 主砲 シルヴァリオンバスター 発射用意! 今度こそ頼むぞ副長」


「任せてください! 主砲発射用意!エネルギーチャージ率……!? 以前の3000%! は、発射準備完了! 撃てぇ!」


 ドンっとヴェンディダール号が唸ったような感覚を皆が共有したという。


 ターコイズブルーのエネルギー弾道がセントラルコアを見事に撃ち抜き、いや一瞬で蒸発させ火星のアステロイドベルト地帯の小惑星群を飲み込みながら深淵の宇宙を切り裂いていく。


「な、なんて威力だ!」


 ウォードが興奮と恐れで震えながらモニターを見ている。


 地球には影響なかったようだが、掠めた月の表面が溶けてマグマ地帯が生まれてしまったようだ。


「副長、ミフユと陽介に任務を頼みたい。艦載機のナイトリモーラで発進させてくれ」


「了解しました。しかし任務とは?」


「一時ロッドたちを帰還させている間、ヴェンディダール号の外観的変化について意見をもらいたい。俺はここで終わるとは思っていない」


「りょ、了解です!」


 すぐにパネル前にいたミフユと陽介が呼ばれる


「外観的変化を観察? まあ僕で役に立てるならって、ミフユは操縦もできるんだねすごい」


「だって突撃隊長だもの」


 格納庫に到着したミフユたちはナイトリモーラの3号機に搭乗する。ちょうど1,2号機が帰還しロッドが戦果を自慢していた。


「ミフユ! 16機撃墜だぜ!」


「ナイトリモーラの腕はあんたには敵わないよ、じゃあ行くわね」


「ああ、気を付けるんだぞ」


 全員がヴェンディダール式敬礼をしていた。


 いつもこんな感じなのかなと、陽介は丁寧にお辞儀をし手を振った。


『 ナイトリモーラ3号機 発進許可願います 』


< ミフユ、必ず生き延びてね。は、発進許可します! >


 カタパルトで加速されたナイトリモーラの前進翼が、シルヴァリオン粒子の尾を引きながら衛星軌道を染め上げる。


 ちょうどその時であった。ナイトリモーラに衝撃が襲い掛かった。巨大な重力波によって大波に流されるように吹き飛ばされていく。 


「陽介大丈夫!?」


「僕は平気! ヴェンディダール号は!?」



 陽介は言葉を失っていた。


 地球より巨大な漆黒の穴がヴェンディダール号の前に現れていた。


「あ、あれは、異空間ゲート!? キャプテン!」


 二人の前にエアモニターが現れた。


 皆が中央スクリーンの前で不敵に笑っている。


「え? な、何が!?」


< ミフユ、陽介。これから俺たちは異空間ゲートから押し寄せる界魔生物群に対し、攻撃を仕掛けゲートを閉じる。だからお前たちにはゲートが閉じるのを見届け地球のみんなに伝えて欲しい。陽介、俺の大切な部下を頼んだぞ >


「ミフユ! 私の分まで幸せになってね!」


 レティが涙をぽろぽろと流しながら手を振っている。


 姉と妹のように喧嘩したり笑ったり、一緒にすごした日々にミフユの悲鳴がコックピットに響く。


 ミフユは女児のように取り乱しながら必死に操縦桿を動かしているが、オートのために機体は地球へ向けて飛行を続けている


「キャプテン! 僕は!」


< 陽介、お前ほどの男だから頼むんだぜ。俺の大切な妹分をよろしく頼む、明日を未来を託したからな友よ 瑞萌先生に生き延びたら転校生として2年A組に帰ると伝えてくれ >


 そこからは音声通信だけが辛うじて聞こえてくる。


「みんああああああ!」


 陽介も左手で必死に状況を読み取とろうとしたが、反応がない。


 ただ静かに、左手であることを選んだのだろうことだけは理解できた。



 漆黒の闇から次々と浮かび上がる界魔細胞の群。


 いやそれは群れと呼んでよいものなのだろうか?


 まさに壁であったし、空間そのものが界魔だった。


 ヴェンディダール号は征く。


「行くぜ野郎共! 目標 界魔生物群! 噛みちぎれぇ!」


『『『了解!』』』

 

 シルヴァリオン粒子が闇を界魔を切り裂いていく。


 やがて、無数の爆発が起き、そして漆黒のゲートが閉じていった。



 残されたのは、ナイトリモーラ。


 そして慟哭する二人の少年と少女であった。

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