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95 スキルと魔界への滞在者


 前回の、突如魔物が溢れた現代日本世界への召喚に関しては色々と思う所があり、事後処理も幾つか行う事になった。

 例えば世界に縛られる神性が、他の世界でも神性として認識された場合、実際にはどういった存在になるかの検討等だ。

 そもそも本来なら世界に縛られる神性にはそんな事をしようって発想自体が無い筈なのだが、前回の様に悪魔王が唆して力を貸せば、実現する可能性は多分にある。

 僕の話を聞いたグラーゼンが、真顔で同盟の悪魔王の全員招集を掛けた位だから、割と大きな問題なのだろう。


 しかしまあ、今の僕が考えてる問題、事後処理は其れじゃ無い。

 其れはもうグラーゼンに投げたのだから、同盟会議でも問われた事に答える位で、後は彼に任せる心算だ。

 では一体僕が何に関して考えて居るのかと言えば、其れは『スキル』に関してである。


 前回の世界で発生していたスキルの正体は、神性の加護が、個人の適性に応じて変化した物だった。

 神性の加護って言うのは、突き詰めて言えば魔法付与の一種だろう。

 加護を与えた神性が消滅したので、人間達が得たスキルも全て消滅したけれど、それ以前に僕に捧げられたスキルに関してはキチンと保存してある。

 だからどの様に付与された魔法が、どんな要素でスキルに変化したのかも、ヴィラと一緒に解析中だ。


 何せスキルを手放さない為に他所の世界へ行く事を決意した人間達は、今は僕の魔界の実験区域に一時滞在しているのだから、彼等には失ったスキルをもう一度与える必要があった。

 ごねたが故に異世界に直接飛ばした連中は兎も角、魔界に一時滞在している彼等とは話し合いの上で待遇を決めたので、僕は約束を破らない。

 因みにスキルを再付与した人間達は、一部の物好きは実験区域の環境が気に入ったらしく、魔界に残りたいなんて希望しているが、其れ以外は今僕等が千年計画中の世界にある、アプセット大陸に送る心算だ。

 あの世界ならば多少の異能を持った人間を送り込もうが、世界のバランスを崩すなんて事は不可能だし、寧ろ良い刺激になるだろう。

 もっと別の世界が良いと言われれば其の当てを探さなくも無いのだが、その場合は選んだ世界の神性に、常時監視される事になる筈である。



 けれどもスキルのデータは解析出来たが、其れは其のまま真似して人間達に付与するには、少しばかり危険過ぎる代物だった。

 スキルは限定されてるとは言え、悪魔や天使、神性の扱う力である魔法の一端だ。

 単なる人間が此れを扱うのは、実際かなり危険であった。

 例えるならば、器の足りて無い人間を無理矢理に勇者に仕立てるのと同様の行為である。

 余程特別な才を持たない限りは、力に潰されて破裂するか消し飛ぶだろう。


 あの世界であの時与えられたスキルは、魔力から生まれた魔物を討伐するって条件を満たす事で、無理矢理器を拡張して付与されていた。

 尚且つ個体の適性、より正確に言えば個体の耐性に合わせて方向性を変化させていたので、スキル所持者に掛かる負担は出来る限り抑えられていたのだろう。

 勿論、幾ら負担を抑えた所で、スキルを多用すれば遠からず限界を迎えて崩壊して居ただろうけれども。

 多分このスキルって発想は、『虚飾の鏡』アウルザルが異世界の神性に吹き込んだ物だ。

 育てて力を与え、そして破滅に導く悪魔であるアウルザルの性質に、このスキルって力は実に合致している。


 結局あの異世界の神性は、スキルを付与した人間に関しては、降臨の足掛かりとしか考えて居なかった。

 少しの間、過ぎた力を振う快楽に溺れたならば、破滅しても本望だろう。

 そんな意図が透けて見える力が、スキルの正体である。

 この僕が、アプセット大陸に送る人間や、此の魔界に留まる人間に、そんな危なっかしい物を与える訳には当然いかない。

 しかし、ならば一体どうすれば良いのか。

 悩んだ末に僕が考え出したのは二つの方法だった。

 


 一つ目は、スキルの力を直接人間に与えるのではなく、道具にスキルを付与し、其れを引き出す形で力の行使を行わせる方法。

 此れに関しては勇者の力を与える際に良く行われる方法でもある。

 聖剣等の特別な宝具に力を付与し、適性のある人間が持つ事で其の力を引き出して振るう。

 こうすれば直接的に勇者の力を与えるよりも、力を得る人間の負担は軽くて済む。

 勿論その道具の力は当人や、或いは血筋の者にしか扱えない様に調整をするが、この方法なら比較的安全にスキルの力を人間に与える事が出来た。


 二つ目は、与えるスキルの力に段階的なロックを掛け、初期段階ではささやかな力しか引き出せない様にする方法。

 所謂レベル制って奴になるが、此れなら器に無理のない程度の力しか引き出せない様に出来る。

 問題は器が広がらなければ何時まで経っても強い力が出せない事だが、アプセット大陸は破壊神の力から生み出した魔物が居るので、その肉を摂取すれば少しずつでも器は広がって行くだろう。

 尤も人間の寿命では、スキル本来の力を発揮する前に死んでしまう可能性が高いけれども。


 其れ以外にも死ぬのなんて怖くないから、すぐさまスキルの力を戻してくれと言う者が居たならば、その時は望みに応じる心算だったけれども、幸いそんな無謀を望む者は滞在者の中には居なかった。

 


 さて方向性が決まれば、後は実験あるのみだ。

 アプセット大陸へ行く心算の者、魔界に留まる心算の者を問わず、被験の希望者を募る。

 勿論無報酬では無い。

 と言っても試作に造ったちょっとした火魔法を扱えるスキルを付与した道具や、或いは魔界に留まる者になら生活の便宜を与える程度のささやかな報酬だけれども、被験希望者はとても多かった。

 何と滞在者の九割が、被験を希望したのだ。

 流石はスキルの為に他の世界に行く事を了承した人間達である。

 力への渇望や未知への好奇心が非常に強い。

 被験者は多ければ多い程に信頼出来るデータが取れるので、別に希望者を全員採用する事に問題は無かった。


「ん、やってるね。経過は如何?」

 実験は幾つもの班に分かれて行っているが、僕はその一つ、魔界に滞在希望者を被験者とする、スキル付与道具実験班に顔を出す。

 僕の声に、実験班のリーダーである中級悪魔、ファフリーが此方を振り返る。

「あら、養父様。はい、人間の方々も非常に協力的で、楽しそうなので、実験は順調です」

 にこやかな笑顔を見せるファフリーだったが、うん、養父様って言葉に関しては突っ込まない。

 僕をグレイの父親だと見て、自分が伴侶だと主張してるのか、或いは単に悪魔として生み直したのが僕だからそんな風に言っているのか、触ると面倒なのは確実なので頷きながら聞き流す。


 実験場を見れば設置された的に向かって、被験者達が楽しそうに火球を投げていた。

 火を出す事自体は、配布している火魔法のスキルを付与した道具で行えるが、其れを投擲、更に的に命中させるにはイメージとセンスが必要となる。

 故に的を外す者が大半なのだが、其れでも投げれるだけでも優秀と言えるだろう。

 突如として湧き出した魔物を、幸運が手伝ったとは言え工夫して倒してスキルを得た者達だけあって、彼等はかなり優秀らしい。

 中でも、的に対して的中を繰り返す数名、一色・紗英、渡瀬・岳哉、柳・仁之は頭一つ飛び抜けて優れていた。

 優秀な人間が魔界に留まると言うのなら、出来る限りその才能は活かしたいが、……さて彼等にはどんな役割を与えるのが良いだろうか?



 班分けは大雑把に、アプセット大陸へ行く者と魔界に留まる者を分け、其れを更にスキルを道具に付与する事を望む者と、レベル製にしたスキルを直接付与する事を望む者に分けている。

 では何故この四班に分けるのかと言えば、道具への付与と直接付与は実験内容が違うから当然として、行き先で分けるのは完全に僕の個人的な都合だ。

 僕、グレイ、イリスの三人は、アプセット大陸に行く者とは極力接触しない様にしていた。

 情が湧くと言うのもあるけれど、アプセット大陸に渡った後に、あの地で伝えられる神の正体が僕等であると知られてしまうのが些か面倒臭いが故に。

 でも僕はこの実験に結構強い興味と期待を抱いているので、魔界に留まる者達を別班とし、其方には結構な頻度で顔を出している。


 今回の実験の中でも僕が特に興味を抱くのは、道具へ付与したスキルの実験だ。

 もしこの実験が成功して、道具に付与したスキルが安全に使用出来るようになれば、僕は『悪魔召喚』のスキルを付与した道具を造りたかった。

 前回の世界で中野・遊馬が用いた様に、どの悪魔が呼ばれるかわからず、更に契約魔法陣も無しの召喚は非常に危険なので其処は改良するけれど、完成すればかなり有用な魔法の道具になるだろう。

 例えば僕の派閥だけとは言わないまでも、グラーゼンの同盟に所属する悪魔王の配下から選んで召喚される様な道具が出来れば、幾らでも使い道はある筈だ。

 そうなれば今までとは一風違った内容の召喚だって、舞い込んで来るかも知れない。



 僕はそんな未来を夢想しながら、実験に励む人間達を眺め続ける。


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