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138 魔法少女とマスコットのレプちゃん1


「おい! やめろクソガキッ!! ふざけんなぁ!? 俺がそれを創るのにどれだけ苦労したと思ってんだ! テメェは黙って生贄になってれば良いんだよ!!!」

 男が口汚く罵るその言葉の裏に透けて見えるは、紛う事なき焦り。

 まぁ無理もあるまい。

 だってもう、手遅れなのだから。


 男の名前はマクガード・ランドゥス。

 この世界で最も力のある悪しき魔術師で、世界の支配者となる為に強大な悪魔の召喚を目論み、千を越える少女を犠牲にして、彼女達を素材とした召喚魔導書を完成させし者。

 強力な呪物となった召喚魔導書の力と価値は凄まじい物で、マクガードの願いは後一歩で達成される所まで来ていた。

 だがマクガードはその強大な悪魔を召喚する最後の儀式で、生贄とする筈だった少女に召喚魔導書を奪われて使われ、あぁ、そして僕は今ここに居る。


「頼む、聞いてくれ悪魔よ。その魔導書の主は俺だ! 俺の願いを聞いてくれれば、その魔導書を捧げよう!! 頼む! 俺の話を聞いてくれ!!!」

 僕に対して、必死に訴え掛けるマクガード。

 確かに彼の実力は本物だったし、この状況で僕に向かって言葉を発せる胆力は褒めて良い。

 けれども僕は、その訴え掛けには鼻で笑う程の価値も感じなかった。

 最後の最後で詰めを誤る程度の小物が、僕に何を願うと言うのか。


 あぁ、いや寧ろ、褒め称えるべきは生贄にされそうになっていた少女か。

 彼女は九割九分九厘、ほぼ絶対的に死の確定した状態でも諦めずに、最終的に状況をひっくり返した。

 世が世なら、彼女は英雄と成るべき人間だっただろう。

 ならば後は、最後の仕上げを行うのみだ。

 こんな危険な呪物を永遠に世界から葬り去る為、それを対価とするに相応しい願いを彼女が告げれば、この事件は終わる。


 更に喧しく喚こうとしたマクガードは、既に僕の威圧で心が砕けた。

 そして少女は、僕に向かってその小さな口を開く。


「悪魔さん、お願いです。どうか私を、とっても凄い、どんな悪者も倒せちゃう魔法少女にして下さい!」



 ……ぉ、ぉぅ。

 飛び出した彼女の願いは、途轍もなく危険な物だった。

 昔は兎も角、今の僕は滅多な事では動揺しないが、その時ばかりはもしかしたら、思わず声が震えてたかもしれない。

「しょ、少女よ。念の為に、君の言う魔法少女とは何かを、僕に説明してくれないだろうか」

 思わず一縷の願いを込めて、僕はそう口にする。

 出来れば、そう、順当にアニメか何かの、具体例を出して説明して欲しい。

 そうすればまだ、悲劇は回避出来るから。


 でも少女、恐らく小学校の高学年になるかならないかの彼女は、首を傾げてこう言った。

「魔法少女は魔法少女よ。魔法を使って、人を助けたり、悪い人をやっつけるの。……悪魔さん知らないの?」

 あぁ、駄目だった。

 勿論魔法少女は知っている。

 僕が人間だった頃は、その手の文化がある世界に生きて居た。


 だから、そう、別にその存在を問題としてる訳じゃない。

 今、僕が問題視して悩んでいるのは、『魔法』を使う少女って部分だ。

 別の言い方をしてくれる事を期待して、念の為と確かめたけれど、彼女はそう明言してしまった。

 僕が知る限り、魔法を人間が使った例は殆どなかった筈。


 何せ僕が魂の一部を割いて、再び人間に生まれ変わらせた時でも、特殊なアイテムを用いた上で何とか魔法を行使して、その結果寿命が大幅に削れて早死にしてる。

 つまりそれ程に、人間が魔法を使うのは無茶な話なのだ。

 正しく魔法を扱えば、天地の創造だって出来るのだから。


 本来なら『対価が足りない』の一言で済む話だが、……今回は拙い。

 だって足りてる。

 それ位にマクガードが創った召喚魔導書は厄介な代物で、僕としても絶対に回収するべき物だ。

 故に僕はどんな手段であっても、彼女に魔法が使える正義の少女、魔法少女にせねばならなくなってしまった。


 そうして、まだ子供である少女の手に、世界を左右し得る力は渡る。

 ……今回の件の原因を作ったマクガードに対してはあまりに腹が立ったので、全ての魔力を奪って封じて正気に返してから刑務所の中に放り込んだ。

 どんな刑罰が彼に下されるかは、まぁ想像に難くない。

 思いっきり八つ当たりしてるけれど、対処としては順当だろう。



 少女の名前は、櫛田マリー。

 今日より名乗るもう一つの名前は、魔法少女マリーゴールド。

 僕の名前は、悪魔王レプト。

 でも魔法少女マリーゴールドの誕生によって、今日より名乗るもう一つの名前は、彼女の為のマスコットキャラクターであるリトルデビルのレプちゃんだ。

 ……マジかよって感じである。


 いやでも、仕方ない。仕方ないのだ。

 だってマリーに魔法を使わせる最も簡単かつ、安全な方法は、僕自身の一部を彼女に貸し与えて魔法行使を手伝うより他にない。

 例えば、時折『知恵の悪魔』であるヴィラが僕の魔法演算を代替する時の様に、僕が魔素と霊子を見てその視覚をマリーと共有して操作も手伝い、彼女のイメージを汲み取って魔法を演算して提供する。

 あぁ、忘れてはいけないのは、人間が魔法を行使した際に生じる反動も、僕が引き受けなきゃいけないって事だろう。

 マリーがどんな心算で魔法少女になりたいにしろ、割合に純粋な願いなのだから、意図せず生じるデメリットを背負わせる訳にはいかない。


 だからどうしても僕はマリーの近くに居る必要があったし、後、流石にまだ小学生の子供が持つにしては強過ぎる力を与えるのだから、変に歪んで育たない様に助言だってする必要がある。

 それ等を踏まえた上でどうしようかって考えたなら、僕はマスコットキャラクターになる以外の道がなかった。


「誰かが助けを求めてるわ! レプちゃん行こう!!」

 感知の魔法で何かを感じ取ったらしい魔法少女マリーゴールドが、僕を抱えて空を舞う。

 彼女自身は気にもしてない様だけれど、僕はこっそり正体がばれない様に認識を阻害する魔法を施す。

 強力な力を持った魔法少女の出現に、彼女の正体を探ろうとする者は善悪を問わず数多い。

 普通の少女としての、櫛田マリーの生活に悪い影響を及ぼさぬ様、正体の隠蔽は必須だった。


「目指せ正義のヒロイン、エンジェルチャームなの! でも、そろそろ一緒に戦う仲間も欲しいね、レプちゃん」

 一応、マリーにも憧れる先があるらしい。

 何でも実際に正義のヒロインとして代替わりしながらも長年活躍してる、魔法少女の大御所なんだとか。

 出来れば契約の時に、その名前を出してくれてたら似た様な力を与えるだけで、魔法なんて劇物を渡す必要はなかったのに。


 あぁ、もうどうにでもなってしまえ。

 足りないマスコットはグレイやベラを巻き込もう


 魔法少女マリーゴールドは、現在一緒に戦ってくれる仲間を募集しています。

 君もリトルデビルのレプちゃん、つまり僕と契約して、魔法少女になりませんか?

 変身シーンはカットで一瞬だよ。

 僕はロリコンじゃないからね。



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