掌編 初恋のはなし。

作者: とももんアンドもぐら





 ふつう古い記憶なんて、ほんとあてにならないものなのだけれども、理由(わけ)あって初恋相手のことだけは鮮明に覚えていた。背が高くて、物ごとをたくさん知っていて、一緒に居て楽しくて、優しくて、なんと言っても極めつけは、わたしのことを一番に考え、大事にしてくれるこの上無いくらいに素敵な王子さまだった。

 今でも覚えている素敵な初恋。そして当たり前だけれども、それ以上に覚えているのが、その恋の終わり……つまりは失恋である。

 そもそも初恋が儚いものだというのは、定められたルールみたいなもので、初恋の王子さまとわたしの間にはとてつもなく大きな隔たりが存在していた。何を隠そう出会うのが遅すぎた王子さまは、既に結婚していてオマケに子供までいたのだから報われるはずもない。

 だからと言って、『あー、わたしったらそんな昔から不倫願望でもあったのかしらん? 流石に引くわー』なーんて思うこともない。世の中の女子の過半数が通る、酷くありふれた一山幾らの取るに足らない失恋話である。


 その失恋はわたしが物心というか、ちょっとした分別がつくような歳になって訪れた。ある日、その初恋相手がわたしではない第三者に向ける、それはそれはお優しい眼差しに気づいてしまったのである。

 ああ、わたしはどうやったって、このひとには勝てないんだなぁ。

 なんのことはない。物語のお姫さまが自分でないことにやっと気づいただけであった。

 そう、ご名答。眼差しの先にいたのは台所で料理をする憎っくき恋敵のママ。答えは単純明快、トリック皆無の事件の真相はこうして暴かれた。初恋相手のお姫さまはわたしでなくてママ。つまり察しの悪いあなたにでも解るように話せば、オマケ(、、、)の子供がわたしで、初恋の王子さまがパパであった。


「パパなんて大っきらい」


 その日からパパのことが大嫌いになった。(くさ)いとか言って洗濯物を分けたり、顔合わせないように部屋で晩ごはん食べたり、パパを全力で拒絶した。我ながら子供だった。今更だけど、ごめんね。パパ。大好きだよ。





 

こちらの作品はとももんとの共作を削ったパーツで書きました。