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8話 ユウの猛攻

 俺はとっておきの魔法を惜しむ事無く使用したはいいが、その魔法を見た男魔人は急に腹を抱えて笑い始めた。



「くくっ、くはは、あはははははは!! おい、お前ら!! 見ろよあの餓鬼を!! あの餓鬼、10歳の癖に禁術使ってやがるぞ!! ぜってぇ10歳じゃねぇよ……くくくっ、あっはっは……あははははは!!!」



 そう言って笑う男魔人の目元には涙が少量だが出ていた。

 そして手を出すな、と後ろに下がらせた女の魔人2人に向かって叫ぶ。



(おいおいおい、今禁術っつったか!? この魔法は確かに使えるようになるまで結構な時間を費やしたが禁術って書いてなかったぞ!? ……もういいや、気にしたら負けだ、負け)



 そう思いながら、憂いを一時的に消し去ると同時に俺は短剣の持ち方を逆手持ちに変える。再び大地を蹴って俺は猛然と加速し、一瞬で男魔人との距離を詰めてから今度は確実にダメージを与えようと脇腹を切り裂いた。



 が、思ったよりも男魔人の傷は浅い。

 そして一度斬っただけにも拘わらず、俺の使う短剣は刃こぼれをしてしまっていた。



(嘘だろ!? 全く傷与えてないのにもう刃が欠けてるし!! どんな硬い皮膚してんだよッ!!)



 心の中で悪態をつきながらも俺は無意識で舌打ちをしていた。

 そして、作戦無しにただ突っ込んで行くだけでは無理と判断した俺は一度冷静になろうともう一度距離を取るために飛び退き、再び距離をあけた。



「……傷、付けられたか……人間のそれも餓鬼に傷を付けられるなんて魔人の恥以外の何物でもないんだがな、何故か嬉しく感じてしまう俺がいる……悪かったな餓鬼……いや、少年。本気で挑んで来た者には本気で相手するのが礼儀だ。もう俺はお前をなめない」



 獰猛な笑みを見せながら血走った目で俺を射貫く男魔人。



(いやいやいや、10歳の子供だよ!? 手加減しようよ!! ていうかこいつ戦闘狂の類か!? めんどくせぇ……まぁいいや、さっさと終わらせよう)



 俺は地面を蹴って男魔人の背後へと向かった。

 そして背後を難なくとった直後、心臓目掛けて短剣を一突きしようとするが、男魔人は俺が背後に回った事に気付いたのか体を捻らせて短剣に対し、右の拳を突き出した。



(短剣に拳を突き出すとか馬鹿なのかこいつ!? そんなの腕を斬って下さいって言ってるようなも……んなッ!?)



 俺の考えとは裏腹に短剣は男魔人の拳を傷付ける事は無く、短剣の刃が拳に当たると同時にひび割れ、音を立てて砕け散る。

 そして得物を失った俺の腹に男魔人の容赦の無い拳が叩き込まれ、後方へ殴り飛ばされた。



「いってぇぇぇええぇ!! ……ゴフッ……骨何本か今ので折れたな畜生。……ていうか何なんだよあの拳。短剣が砕け散ったぞ!! はぁ……痛いし、しんどいし今日は散々だな……」



 愚痴を吐き捨てながらも立ち上がる俺を見て男魔人は心底嬉しそうに叫んだ。



「くくっ、立ち上がるか。今の一撃、10歳の体には相当堪えるだろうに。……ま、腐っても禁術ってところか。おい、少年。得物は無くなったがどうする? 命乞いでもしてみるか? お前だけなら助けてやらんこともないぞ? 他は男女関係なく殺すがな」



 皮が剥がれ、酷い火傷痕が付いた自身の右手を見ながら男魔人は笑っていた。



 殺す、と言った事により俺の中にあった何かがプツンと切れた。



 そこからの俺は、大地を蹴って男魔人へと邁進し、獣じみた勢いで攻撃を始めた―――



「殺技――砕連撃」



 そう呟いたユウの言葉には、感情など全く籠っていなかった。

 あるのは10歳とは思えない程に据わりきった双眸のみ。




 相手との距離を俺は再度一瞬で詰めた後、男魔人の腹目掛けて右の拳で鉄拳を繰り出した。




 臆す事なく叩き込まれた一切の容赦のない鉄拳がめり込み、男魔人は唸りをあげながら苦悶の表情を浮かべる。



「ぐっ、ぉおおおおお!!」



 だが男魔人に一撃与えたと同時にメキャ、という音が俺の拳から響き、手首から先は血に染まり痛々しく変形していた。



 だが、俺はそれに構わず凄絶な連撃を吼えながら繰り出す。



「あ゛ああああああああああぁ!!」



 言葉も許さない猛攻。

 右の拳が砕けたのなら左の拳を。

 左の拳も砕けたのならば右足を。



 鉄拳、裏拳、膝蹴り、手刀、足刀。

 使える部分は全て使い、縦横無尽な攻撃を止めることなく続けていく。



 俺の猛攻が骨を砕き、筋を断ち、肉を裂き、鮮血を撒き散らす。

 だが、飛び散る血の殆どが自分の血だ――



 男魔人は止むことの無い猛攻を続ける俺に反撃を加えるが骨が砕け、肉を裂かれても攻撃を止む事はない。


 そんな俺に対して男魔人は苛立ちの声を上げた。



「倒れろ!! くそがぁぁああぁあぁぁ!!」



 吼えながらも男魔人は俺に向かって思い切り拳を振り抜く。

 その拳を受け流す事なく、一身に受けたユウの左腕は曲がってはいけない方向に曲がる。だが痛みを感じていないのか、迫り来る反動なども無視して砕けた拳などを男魔人に縦横無尽の連撃を叩き込み続ける。



 だが、体の限界はすぐ近くまで迫っていた―――





 そんな俺の猛攻を見ていた騎士やリファ達は―――



「……なによあれ……あれはユウなの!? いつも私に甘えていたあのユウなの!? ねぇ騎士さん達はユウがあんなにも強いことを知っていたの!? ねぇ!? ねぇ!?」



 リファは取り乱しながらも獣じみた勢いで男魔人を攻撃する俺を見詰め続けていた。そして胸の中で抑えきれなくなった疑問を騎士達やメイド達に向かってぶちまけた。



「……い、いえ……私達もユウ様があんなにも強いとは知っておらず……驚いております……」



 騎士達も一人残らず驚いているようで、言葉に詰まっていた。

 


 驚いているのは初めに攻撃を受けたヤスも同様なようで――



「おいおい、ユウ様ってこんなに戦えたのかよ……軟弱で女の後ろに隠れてる貧弱な男って思っていたが……こりゃぁ、生きて帰れたら一日の全て使ってでも謝罪しねぇといけないなぁ……」



 そう呟きながら事の成り行きを駆け寄ってきていた騎士と共に見守っていた。




そしてフェレナも今の俺を見て驚愕をしていたが、無言で苛烈さを増していく戦闘を見詰めていた――


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