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6話 さようなら都合の良い弟ポジ

 魔人がいた、という知らせを聞いた騎士達は慌てながらも剣を抜いて構える。

 そんな光景を横目に、俺は慌てて大声を出して戻ってきた騎士に向かって溜め息を吐いた。


 

 あー、あー、大声出しちゃって……騎士さん、こっちに居ますよって言ってる様なものじゃないですか。



 そして俺の心の声に従うかのように予想通り、騎士の後ろから魔人らしき人が3人、騎士を追いかけるかのように此方へ向かってきていた。



 3人とも紫色の肌に紫色の髪を持っており、魔人の特徴と一致していた。

 男1人に女2人で恐らく男がリーダーなのだろう。

 女二人に指示を出していた。



「てめぇ!! なんで魔人をつれてきてんだよッ!! 大声出したら場所を教えてるもんだろうがッ!!」



 今回俺達の護衛としてついて来ていた騎士達のリーダー格らしき人物が報告をしようと戻ってきた騎士を吐き捨てるように怒鳴り付けた。



「ひっ、ひぃぃッ!! す、すみませんヤスさんッ!!」



 怒られた騎士は萎縮しながらも慌てて謝り、その光景を眺めていた俺は冷静に状況把握に努めていた。



 ほぅ、あの騎士さんはヤスって名前なのか……



「もういいッ!! ……お前は新入りだったな。新入りは戦力にならんッ!! さっさとリファ様達を安全な所まで逃がせっ!! いいな? それ以外の護衛役の騎士は俺と一緒にここで足止めをする!! 分かったか!!」



 ヤスは先程、大声を出して戻ってきた騎士を俺達の元へ行くようにと指示を出した直後、残りの騎士達に怒鳴るように命令した。その表情は目に見えて焦っていた。



 マジかよヤスさん。忠誠心高過ぎるよ。俺がヤスさんなら、日頃から嫌っていた俺をここぞとばかりに肉壁にするぞ……



 どうでも良い事を考えているといつの間にか、一人の騎士が俺や姉上、フェレナさんがいる場所にまで駆け寄って来ていた。



「フェレナ様、リファ様、ユウ様。ヤスさん……いえ、リーダー達が魔人の足止めをしげいる間に逃げましょう」



 額に脂汗を垂らしながらも騎士は言い放ったが、何故かフェレナさんが目の見える場所まで近づいて来た魔人を見ると次第に青ざめていた。

 そして数秒後、頭を抱えて座り込んだまま体を震わしていた。



「……ま、魔人……魔人……いや、来ないで……来ないで……いや、いやぁぁああぁあぁぁ!!」



 急に様子が一変したフェレナさんを見た俺と姉上は目を瞬かせながら驚愕してしまう。が、近づいてきていた騎士はその訳を知っていたのか、口を開いて俺達に慌てながらもかいつまんで説明をする。



「……糞ッ!! フェレナ様はやはりこうなったか……リファ様、ユウ様。恐らくフェレナ様は王都にいる時に授業として潜ったダンジョンにて魔人と遭遇でもして恐怖を植え付けられたのでしょう。私はフェレナ様を抱えますので、リファ様とユウ様は「ドゴォォォン」……ッ!!」



 騎士が言い終わる前に俺達の前を人が横切り……いや、人が飛んでいった。直後、轟音が鳴り響いた。

 



 近くの大きな木に当たるまで飛んでいった騎士を見て、俺達の近くに来ていた騎士は慌てて飛んでいった騎士の元へ駆け寄った。



「や、ヤスさんッ!! 何があったんです!? そ、それに血が大量に……早く治療をッ!!」



 そう言いながら騎士はズボンのポケットを漁り始めた。



「……ゴフッ……お、おい新入り、俺はなんて言ったよ。さっさとリファ様達を逃がせっていってんだろ……はぁ……はぁ、勝手に命令放棄してんじゃねぇよ!! ……それにあの魔人、あれは虐殺って言われてるおっかない魔人だ。このままだと皆殺しにされる。せめてリファ様達は逃がさねぇと……」



 ヤスと騎士が話している途中、急に男の魔人が呆れながらも大声で叫んだ。

 



「おいおいおい、人間って弱くなりすぎだろ。昔の人間はもっと死を感じさせる殺し合いをさせてくれたぞ? そっちのリーダーっぽい人間は少しは戦えるのかと思ったが、やはり一撃で沈んだな。最近、お前らみたいな貧弱な人間しかいないせいでストレス溜まってんだよ!! 血湧き肉躍る満足な殺し合いをさせてくれよ!!! ……そう言えば昔、どっかの人間が言ってたんだが、人間って生き物は怒りで強くなるそうだ。……お前らの主っぽい後ろの女共を殺せばまだ楽しめるか?」



 そう言って邪悪な笑みを浮かべる男の魔人。



 ……おいおいおい、今あの魔人って姉上とフェレナさんを殺すっつったか?

 ……どうしようか……今の俺は何も出来ない、か弱い軟弱な守ってあげたくなる弟キャラなんだぞ。もし俺が魔法とか使ってみろ、今の心地の良い甘え放題な生活が消え去るのは避けれない。



 よし、ここは逃げよう。

 フェレナさんと姉上を連れて逃げるべきだな!! うん。

 そうと決まれば、まずは姉上の手を取って……えっ!?



「……こ、怖いよユウ……私達、ここで死んじゃうのかな…まだ死にたくないよぉ……ユウ……ユウ……」



 リファは怯えながら俺の腕にいつの間にか抱きついていた。

 何か少し前から違和感があると思っていたが、姉上が原因だったか。


 おいおいおい、マジかよ。

 これじゃ俺の姉上とフェレナさんを連れて逃げる計画が無理じゃないか。

 なら、せめて姉上だけでも抱えて逃げる……いや、止めとこう。

 後味が悪すぎるな。



 はぁ………戦うしかないのか……命あっての物種だからなぁ……



 さようなら、俺の愛した守りたくなる系弟ポジ。

 うわぁぁああぁぁあぁ!! 明日から姉上に避けられるかもとか思ったら死にたくなってきたぁぁ。弱々しい弟じゃなかったらフェレナさんも構ってくれないだろうし……うん、精神的に限界きたら死のうか……



 うがぁぁぁああぁぁ!! 都合の良い弟ポジを奪ったあの魔人、許すまじ。

 ……ていうか俺、あの魔人に勝てるのか?……無理な気がしてきたが当たって砕けようか。うん、そうしよう。

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