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58話 クソ野球

 野球。

 それは古来より勝負事において用いられてきた神聖なるスポーツ。

 しかし、かつての生徒達は刺激を求め、花火というスペシャルアイテムに手を出していたッ!!



 

             『プレイボールッ!!』



 無駄にだだっ広い野球専用のグラウンドにてアンパイアの声が響き渡る。

 そして続くように轟き始めるブラスバンドのコンバットマーチ。

 大歓声が巻き起こった直後、こじんまりと存在する仮設テントの放送席から少し興奮した声が続いた。 




『今年もやって参りましたァ!! 学年ごちゃ混ぜ!! 部費争奪戦争だあああああァァァ!!! 先輩? 後輩? そんなモンは今日限りだが、関係ねェ!! 普段の鬱憤をここで晴らせッ!!! やる気のねェヤツに惜しみ無い唾棄と嘲笑をッ!!』




 ハイテンションに叫び散らすのはDJと学内で呼ばれる段ボールのような箱に目と口をつけたモノを被り物として被った女性。

 マイクを片手に爆音を響かせるその姿を前に、観客席はドッと盛り上がる。



 王都に存在するレイシャ学園にて開催される毎年恒例、部費争奪戦。

 それは時にサッカー。時にアーチェリー等と行う競技は当日を迎えるまでは予想不可能。

 


 そして今年は野球という史上最高で最悪の激戦の火蓋が切られた。




『さてさ~て! 皆、お待ちかねの初戦は“相互助研究部”通称、ゴジョケンvs“魔法研究会”。何とゴジョケンは過去17回開催された部費争奪戦争に一度も出場した事がないという異例中の異例の研究部ッ!! 何? ゴジョケンを知らない、だ? 私も詳しくは知らねぇよ! 何せ、ゴジョケンの恨みを買った教師は皆、例外なく次の日には忠犬と化しちまうって噂は有名だからなァ!! 皆、関わりたくないのさ! おっと、何とゴジョケンからは言伝てがあるらしい……何々……「私達、ゴジョケン以外の部は、どの部も等しくゴミカス。精々、ゴジョケンの部費()となって下さいまし? 部費up有難うございまああああすぅぅぅ」だそうだァ!! 宣戦布告とは良いねぇ、燃えるねぇ! そしてもう既に勝つ前提だ! ガッデムッ!!』



 ハイトーンボイスでDJが叫び散らし、注目が仮設テントに向く中、ネクストバッターズサークルにて木製のバットをブンッブンッ、と振り、風切り音を鳴らしていた小柄な少年がバッターボックスへと向かう。


 

『対する魔法研究会は別にこれといった紹介はねぇッ!! 何故なら言ってもつまらないからァッ!!! 意気込みも「お手柔らかに宜しくお願いします」という、つまらねぇ言葉を頂戴しましたァ!! 盛り上がりに欠けるな! 流石真面目ッ子の集う部だ! ジーザスッ!!』



 予め、用意されていた台本を思い切り叩きつけながら続けざまに発する。



『助っ人有り、飛び道具有りのこの野球!! 普通は欠員が出たときにのみ助っ人を用意するんだが、何とゴジョケンは既に助っ人を呼んでいるゥゥ!! 何故か、だァ? 決まってるだろ、ゴジョケンは部員数が野球出来る人数を満たしていないからッ!! そして気になる助っ人は何と10歳の少年だ! 流石ゴジョケン!! 規格外ッ! ダークホース間違い無しだァァァァァ!!!』



 DJがわめく中、バッターボックスへ向かった少年は構え、相手側のピッチャーも準備が終わったタイミングを見計らってDJの歯止め役と思しき人物がその事をDJに知らせる。




『おっとォ? 長々と話している内に準備が整ったようだ。というか、アンパイア役、『プレイボール』って言うのが速すぎだったな! さて、ここからは真面目に実況していくぜ!! 魔法研究会側のピッチャーは『ゴンザレスjr』。そしてゴジョケン側の1番バッターは助っ人Aこと、ユウ・ヴェロニアだァァァァ!!!』



 付け焼き刃の振り子打法を実践しようと思いながら俺は、バッターボックスに立った。

 目の前にはピッチャーであるゴンザレスjrがいるのだが、それはどこからどう見てもロケット花火。

 発射口は此方を向いており、出来る事ならば今すぐ逃げ出したい。



『注目の第一球ッ! 点火役が導火線に火をつけ……ゴンザレスjrが……投げましたッ!!! ど真ん中ッ!! ――――ストライーークッ!!』




 DJのアナウンスの直後、轟音が響き渡る。

 野球であるならばパァァァンといった鞭打ったような音が響く筈なのだが、全く聞こえない。

 聞こえるのはバガァァァァン!! という爆音のみ。 

 恐る恐るキャッチャーミットへと視線を移すと、焦げ痕がくっきりとついたキャッチャーミットに打ち出された球が見事、収まっていた。



 俺は思う。

 これは決して野球じゃない。

 だって――だって――――――



『気になるスピードガンに記録された数字は……378キロだァァァァァ!!! 大会新記録更新ッ!! 伊達に真面目ッ子が集ってねぇーー!!』




 ――――球が見えねぇもん。



 ヤバい、凄く逃げ出したいや。

 目にも止まらぬ速さで球を打ち出すゴンザレスjrを眼前に数時間前、このクソ野球をやるに至った事情を人知れず、想起していた。

更新遅くなってしまい、申し訳ありません。夕日です(ノω-、)

予定では伏線ぽかったアーヴィ編をやるとかなんとかってほざいていた筈だったんですが、見事に狂いました。そしてギャグ回にしてやろう。と書いた次第です、はい。

やりたい放題書いていますが、楽しんでいただけたら幸いです。

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