57話 一大事
「ううぅ……ユウとお別れだなんて……」
馬車に揺られて数日程。
遂にセントリアの街の門にまでたどり着いた俺達は一旦、別れる事となっていた。
が、数日間の間でフリシスの中ですっかり愛玩動物のようなポジションとなった俺との別れが悲しいのか、離れないようにと抱き締めていたのだが、話がとても分かる大人なレイラがフリシスを強引に俺からひっぺがし、捨て犬のような表情を浮かべるフリシスや苦笑いをするギャズ達に見送られながらもセントリアへ足を踏み入れた。
何故、竜狩りにて手に入れた魔石を換金せずに何処かへと向かうのか。
と疑問に思うが、ギャズ達の向かう先がレガルド侯爵領だったが為に下手に尋ねる事をしなかった。
十中八九、ギャズ達のパーティーメンバーであったアーヴィを救う為の行動なのだろう。
と大体の予想がついていたものの、あまり家を空け過ぎるとリファにあらぬ心配をかけてしまうのでは!? というか、今すぐ会いたい! という思いに逆らえなかったので
――手伝おうか?
といった言葉を掛けられなかった。
「さてと、どうしようかな……」
フリシス達と別れた俺はこれからどうしようか、と頭を悩ませていた。
折角、竜狩りにて大量の飛竜の魔石を手に入れた事だから換金所にでもいって換金するか?
などと思うものの、俺の実力を一切信用しないへリーかヘンリーかよく分からない職員のオッサンに絡まれるのも面倒だしなぁ。と決断出来ないでいた。
勿論、リファと一刻も早く会いたいのは山々なのだが、現時刻は朝の4時。
ギルドや換金所は辛うじて人が集まっているが、普通の子供ならばまだ就寝中だ。
その為、リファの神聖なる睡眠を邪魔するワケにはいかない!
と自分に言い聞かせながら紙切れのような理性で自宅へと直行しようとする手足を押さえつけていた。
『なぁ、ユウ。行き先が決まらないんだったらギルドに寄って貰えないか?』
どうしたものか。
そう思いながら、特に行き先も決めずにぶらぶらと徘徊しているとシヴィエルが話し掛けてきた。
『急にどうしたよ?』
『あー、いや、その……だな。私はこの時代の事には疎いだろう? だから少しでも知れる時に知っておこうかと思ってだな』
何故か気まずそうに口にするシヴィエルの発言によって、それもそうだな。
と思い、今後の行動が決定していた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ぷはぁ……マジでユウ様、どこに居るんだよ……。まさか、拉致してでも連れてこないと敷居を跨がせない。って言われるとはな……フェレナ様も人使いが荒くなったもんだ……時の流れってものは悲しいぜ……」
まずは世間で言う“普通”を学ぶ為にも、主に強さでランク分けされた依頼書でも見てみるか。
という事となり、ギルドに足を踏み入れるが直後、木造のビールジョッキを片手に愚痴を溢す騎士甲冑を身に纏った男性――サークリッド家に仕えているヤスの姿がそこにはあった。
そして、俺がギルドに入ってきた事を逸速く気づいたヤスは手にしていたビールジョッキをガタンッ、と音を立てながら慌てて置き、駆け寄ってくる。
「どこに行ってたんだよユウ様……ルル様に尋ねても武者修行の旅に出た。等とはぐらかされる始末だし、本当に困ってたんだよ……まぁ、いい。事情は後で話すんで俺についてきてくれ!」
今にも涙が溢れそうなヤスの瞳から彼の苦労が窺えた。
ヤスは俺の事を何故か捜していたらしいのだが、理由を話すより前に手を掴まれ、ギルドの外へと引っ張り出されていた。