56話 帰り道
すっかり夜が明け、予想以上に早く終了した竜狩りの帰り道。
行きと同様に馬車に乗っていた俺はつい先程、体の主導権を取り戻し、頭の中に思い浮かべれば会話が出来る。というシヴィエルの教えを実行していた。
『なぁ、シヴィエル』
『ん? どうした?』
「ふふっ、ユウは可愛いなぁ……もっとお姉ちゃんに甘えて良いんだよ?」
『これ、どういうことだよおおおおおぉぉ!?』
俺の最後の記憶は彼岸花が辺り一面に咲き誇っていた場所で突然、眠くなり、倒れ込んだ。
というものだ。
しかし、何故か目を覚ますとフリシスが頬擦りをしながら俺を抱き締めていた。
もう、何が起きているのか全く以て理解不能だ。
『どういう事だ! と言われても……私は知らん』
『おいっ!! 今、変な間があったぞ! 実は心当たりあるんだろ!! 俺の大事なパーティーメンバーを自分の姉代わりにしようとしてた変態野郎がぁッ!!』
現実ではフリシスにされるがままとなっていた俺だったが、頭の中ではシヴィエルと激しい言い合いをしており、盛大なブーメランを決めていた。
『代わりだぁ? 断じて違う! アイツの代わりなんざいねぇよ! それにお前、無意識か知らんが頬が緩みっぱなしだからな!? 実は嬉しい癖にごちゃごちゃ五月蝿いんだよ!! さっさと黙れ、このマセガキがッ!』
『……そりゃ、フリシスっていい匂いがするし、この感触も何とも言えない……じゃなくてぇ!! 危ねぇ、危うくシヴィエルのペースに乗せられるとこだった……。クッソ……こんな変態野郎と分かってれば契約なんてしなかったのに……』
フリシスに抱き締められたりしている事をこれ幸いにと役得、役得ぅ。と思いながらニヤニヤしていた事をアッサリ看破され、少しばかり焦るものの、シヴィエルの性癖を勝手に決めつけた俺は歯噛みするかのように契約をした事を悔やんでいた。
『……あぁ、そう言えばお前、吸血鬼の姫と結婚するらしいな。てっきり根っからのシスコンとばかり思っていたんだがな。こりゃ、恋のキューピッド役も要らなかったか?』
激しい罵り合いが一段落つき、ふと思い出したかのようにシヴィエルが爆弾発言を投下した。
その発言によって放心状態となり、「へ?」と素頓狂な声を上げるがそんな俺の状態に気がついていないシヴィエルはどうした? と言わんばかりに疑問符を頭に浮かべる。
『ちょ、ちょっと待てシヴィエル。冷静に考えてもみろよ、お前が俺の体……というか、精神的なものに割り込む為の条件が吸血鬼との接触だっただろ? という事は、だ。俺がその吸血鬼の……姫様? と一度も会ったことが無いって馬鹿でも分かるだろうがッ!!』
『……言われてみれば確かに! と頷きたくなるくらいの正論だな。まぁ……なんだ。……御愁傷様?』
『うっさいわ!! なに他人事のような感想を述べてんだよ! どうせ、その婚約話もお前が何かやらかしたからなんだろうが!』
今後、色褪せない波乱の日々を過ごす。
と思うと何故か止めどなく罵倒等が浮かび、シヴィエルにぶつけていた。
『いや、婚約話は本当に知らん……だがまぁ、他人事ではないか。仕方がない……その婚約話が全く気にならなくなる魔法を使ってやろう』
ひたすらまくし立てる俺に嫌気がさしたのか、嘆息混じりにシヴィエルにしては珍しく粋な計らいをしようとしたのか、突拍子もない発言をしていた。
『気にならなくなる魔法? それってぶっちゃけ、先延ばしにするだけじゃねーの? ……まぁ、家に帰った時、リファにこんな鬱々とした顔を見せるワケにもいかないしな……分かった。上から目線なのが少々気に食わないが、その魔法とやらを使ってくれ』
『よし、相、分かった。それじゃあ、少し私と代われ』
竜狩りに数日かけて武者修行という名目で向かったものの、10年かけて磨きあげられたリファ依存障。
世間で言うシスコンが治る事はなく、どうやって甘えようか。とばかり考え、頭の中が煩悩によってピンクに染まっていた俺はリファにこんな無様な顔を見せるワケにいかない! という思いのもと、シヴィエルを頼る事にしていた。
どんな魔法を使うのだろうか?
そう思いながらも少しワクワクしていた俺は
「フリシスお姉ちゃん、大好きッ!!」
『……は? ……ちょっと待てやクソがあああああああぁぁぁぁ!!!』
シヴィエルの奇行を目にし、盛大に叫び散らしていた。
しかも、小恥ずかしいどころでは済まないセリフに加え、両手をフリシスの背中に回して力を込めて抱きつくといったショタコンかどうかは不明だが、フリシスにとって堪らない2連撃を繰り出していた。
そのダメージは絶大か。
フリシスは鼻血を少々飛ばしながら悶え、反動ダメージとして俺に多大な精神的ダメージが襲いかかる。
だが、その死にたくなるレベルに恥ずかしいセリフのお陰で結婚の件は一時的にだが確かに頭から消す事に成功していた。
『……すまん、口にした私も恥ずかしくて死にたくなった『なら、言うなよ!! てか、魔法でも何でもないし!』』
先程の発言の張本人であるシヴィエルも多少なりともダメージを負っていたのか、懺悔の言葉を漏らしながら体の主導権を俺に戻していた。
『おい、シヴィエル。俺がお前と契約したのはお前がリファを攻略する術を教えてくれるって言ったからだからな? そこんとこ忘れるなよ?』
このままいくと、契約内容をはぐらかされそうな気がして仕方がなかった俺は改めて内容を確認するべく、口を開いた。
『……あれ? リア充にするとかじゃなかったか? 多分、あの銀髪ちゃんに「僕、お姉ちゃんと結婚するのが夢なんだ!」とか言えば多分いけるぞ』
『多分いけるぞ。じゃねーよ!! 内容も違うし……シヴィエル。もう、黙ろうか……』
今後、起こるであろう面倒事を思い浮かべると共に嘆息しながら俺は意気消沈していた。
うおおおぉぉ!!
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