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50話 ウィナス・アブレイラ

「……じゃあ、今度の質問いくよ?」



 神妙な面持ちとなっていた俺が皆の様子を窺いながらそう口にする。

 そして、続けざまに言葉を発し、



「自分の事をどう思っているか? はい、思い浮かべてッ!!」



 お題を口にし、一拍置いてから右手に持っていたポロポロックスのボタンを荒々しく叩いた。



『格好良い、可愛い、シスコンの三拍子そろった完璧な男。最早、天才!』



 格好良い、可愛い、天才……ププッ、とフリシスとレイラ。そしてラクスが呟きながらも口元を手で抑える中、俺は笑みを浮かべながら言葉を言い放つ。



「あっはっはっは、男っていう事はフリシスとレイラさん以外じゃないか、考えた人はアホだなぁ……」



 今回再生された声は運良くノイズがかかっていた為、人物特定が少々難しかった。その為に敢えて特定出来るようなヒントを口にしてさも、自分じゃないよ? 感を漂わせるが所詮10歳。



 感情を上手く隠せず、そのせいか瞬きの回数があからさまに多くなり、キョロキョロと首を右左に動かして1人テンパっていたので直ぐにバレた。



「お前なのかよ!?」



 目聡く全員が気づいていたが胸中に言葉を留める事は無理だったのか、キレッキレのツッコミをギャズが俺にかましてきた。



「もう、なんなんだよ……さっきから僕ばっかりじゃないか……僕の心が丸裸だよぉ……うぅっ……」



 両目を両手で押さえながら俺は泣き崩れる。

 だが、見た目とは裏腹にアイアンハートを持つ俺はそんな事くらいで挫けたりはしない。

 もう5連続くらいで赤裸々な事実を晒されているがそれがなんだ。



 ギャズやフリシス達の恥ずかしい過去を暴くまではこの突撃トラクターこと、ユウ・ヴェロニア。いついかなる時も止まるワケにはいかないんだああああぁ!!



「だからさっきから止めようって言ってるじゃねーか」



「うるさいなぁ!! 僕の心を散々暴いてからにっ!! 今更もう止められないんだよっ!! せめてギャズくらいは僕と同じくらい傷つけてやらないと気がすまないっ!!」



 少々腐った考えを口にしながらもまくし立てる俺は止まる事を知らない。ギャズの注意に激昂で返し、再度、ポロポロックスの赤いボタンに手を伸ばすと同時にお題を口にした。



「んじゃ!! このメンバーの中で、一番アホでドジな奴はッ!!」



 レイラ達も居る中で馬鹿正直に到底不可能な脱独身を試みたギャズが間違いなくアホでドジッ! と自分の中で確かな確信を持ってボタンを押すが



『ユウ。ユウ。ユウ。ユウ』



「うああああああぁぁぁ!!! ちょ、これ誰だ!? オイ、あからさまに全員目ぇ逸らすなぁ!! てか、なんで4回言われてんの!? 4人分って意味なの? そうなの? ……ちっくしょぉ、ふざけるなよ、マジで……何で僕ばっかり傷つくんだ……もう、これ以上傷つけるのはやめて……」



 結果は散々だった。

 最早、立ち直れない程に心身共に疲れ果てた俺は両手を地面につけてorzのポーズを取っているとそれに見兼ねたのか、フリシスが俺に「ユウは可愛いから大丈夫だよ」と励ましの言葉を投げ掛けてくれた。



 貴女は女神ですか!?

 リファが居なかったらプロポーズしてたかもしれない。







 そうして和気藹々と談笑をしていたが、突として轟音が響き渡った。



 周囲一帯に響き渡り、その上空気まで振動させる轟音を耳にした俺は反射的に先程まで冒険者達がワイバーンを狩っていた辺りへと視線を向ける。



 視界に広がっていたのは上空から地上に向かって焼き尽くすと言わんばかりの吐き出された広範囲に広がる黒い奔流。

 


 そしてそんな現象を起こしていたのが第二射を放とうと今まさに、口内に炎を蓄積させていた黒い一匹の西洋龍。

 


 放出された灼熱の熱線がこれでもか、と燃やし尽くす。



 そんな光景を目にしたギャズ達は面食らって呆気に取られるが、黒い西洋龍の背に佇んでいるであろう何か(、、)に気がついた俺は何とも言えない悪寒が走り、気持ち悪い汗を滝のように流しながらも慌てて起こしていた火に砂をかけた。



 そして焦燥感に駆られながらも口早に言葉を言い放つ。



「皆!! ここから逃げろっ!! あれは……やばい……」



 だが、そんな掛け声と同時に黒い西洋龍から竜巻くような炎の風が1つ、地上に下降してくる。



 そして地上に降り立つと同時に風と一緒にまとっていた炎は掻き消え、血走った赤い目を炯々と輝かせた初老の男性が旋風の中から姿を現した。



 得体の知れない老人との距離は凡そ100m程。

 今なら逃げ切れる。



 そう思った俺は事情を上手く理解出来ていないギャズ達と共に急いでこの場を離れようとするが



「ふむ、敵わない相手と瞬時に判断して逃げの一手を迷う事なく選ぶその判断力。十分評価に値しますね。シュグァリの魔力残滓がまとわりついていますし、あれがクリシュラ様の想い人で間違いないでしょう」



 原初より発される生物の根源たる衝動に身を委ね、何の呵責(かしゃく)も無く破壊と殺戮を巻き起こしてきた男。それこそが迫り来る老人の正体であり、名を吸血鬼3神将が1人ウィナス・アブレイラ。



 その者はギルドランクSSのパーティーでさえも仕留める事は叶わなかった吸血鬼。

 そして、討伐に向かったパーティーに所属していた者達の肢体を引き裂き、それをギルドに送り返すといったウィナスの所業はまだ耳に新しい出来事だ。



 瞬時に逃げようとした俺の判断はこれ以上なく正しいものだったが、相手が悪すぎた。



「ですが、格上と知っていて背を見せるとはなんとも愚行な事か。……もっと血湧き肉踊らせてくれる猛者かと期待していたんですが……残念です」



 一瞬にして俺を見つけ……いや、居場所を感じ取ったと言った方が正しいかもしれない。

 無様にも背中を晒し、逃げる俺を見て嘆息しながらウィナスは腰に差していた得物を鞘からスラリと抜く。そして冷ややかに睥睨し、唾棄するかのように言い捨てた。



「――――さようなら」



 そして、いつの間にか俺の目の前に移動していた初老の男の右手には銀色の刀身を持った剣が握られており、絶対たる殺戮者を前にした俺は慌てて自身の得物である小太刀――《紅華》を抜こうと懐に右手を忍ばせる。



 そして眩い輝きを放っていた剣を一切の躊躇いもなく、ウィナスは自身の得物を音もなく俺の頭目掛けて振り下ろした。

木曜日から期末考査……はぁ、憂鬱です(-∀-`;)

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