4話 10歳
異世界に生を受けてから、10年が経った。
そして俺ことユウ・ヴェロニアは10歳になった。
自分の容姿は一度鏡で見てみたのだが、金髪碧眼となっていた。
基準がよく分からないのだが、平均よりは上かな、といった具合だ。
一番上の兄であるフリク・ヴェロニアは13歳となり、王都の学校に通い始めた。
フリクは天才では無いが特別悪くもないそんな兄だった。
俺はフリクとはそんなに話す事が無く、たまに話す程度だったので王都に行っても寂しくも何ともなかった。
次男のクルトだが、予想通りアホ貴族になっていた。
家を出て街を歩いていると毎度毎度平民を見ると「卑しい身分の者め!」や「平民ごときが俺の前を歩くな!!」等と飽きもせずに言っている。
俺がこの前、街に一人で出掛けた時にクルトを見かけたが、子供を数人連れて威張りながらお山のガキ大将をやっていた。
そんな馬鹿なクルトのせいでか、長男のフリクの評判がかなり良かったりする。
三男の俺は……
「ユウ? 危ないからお姉ちゃんから離れちゃ駄目よ?」
「はい、姉上。僕、ちゃんと離れ無いように姉上の手を握っておくね!!」
あざとく成長していた。
そして、前世でも今でも変わらずシスコンだ。
小さい頃から、何をするにも姉であるリファに頼ったり甘えたりした結果、今の頼りなく弱々しい守ってあげたくなる系弟ポジションをゲットしていた。
ちなみに、今は姉上と数人のメイドと一緒にお出掛け中だ。
一人称は僕で通しているが、前世でずっと俺と言っていたからか、たまに俺と言いかけてしまう。まあ、美人な姉上に甘えられるなら一人称を変えるくらい安いものだ。
姉上は今年で12歳。
来年には王都の学校に行くらしいが、シスコンの俺としては1日であっても離れたくない。
そして、さらさらとした純金でも溶かしたかのような艷のある長い金色の髪に、碧い瞳を持った可愛らしい容姿をしている姉上が学校になんぞ行けば悪い虫が付くのは確定事項なわけで。
付いた害虫をぶっ殺そうと考えていた俺は密かに王都に付いていこうと密かに計画を練っていたりする。
当初は姉上を学校に行かせないようにしようと画策していたが、貴族にとって学校は学舎であり、婚約者を見つける場でもあるので貴族が通う事は義務らしい。
そして俺は、家にいるメイドさんにも小さい頃から甘えまくっていたので姉上同様甘やかしたりと色々して貰っている……が、俺は男の人からは酷く嫌われていた。
まあ、野郎に好かれて嬉しがる性癖はないからいいんだけどね!!
実は俺の生まれたヴェロニア家は武功で伯爵になった家らしく、女の人に甘える軟弱な俺を、家に仕えている騎士や父親はあまり好ましく思っていなかった。
ま、軟弱野郎を好ましく思ってくれる家なんぞないと思うが。
俺がたまたま見つけた魔法の本が物置部屋に何故置いてあったのかは、ヴェロニア家では剣を持って戦うのが当たり前で魔法は軟弱と代々言われてきたかららしい。
あの部屋にあった本を暇があれば読んでいた俺は殆どの本を読み終わっていた。
本によると属性は光 闇 風 火 水 土 無の7属性で闇属性は忌み嫌われるとかそういった事は無いらしい。
俺は家に仕えている騎士や父親には貧弱やら軟弱やらと散々言われているが、実際はそんなに貧弱ではない。
俺は3歳になった頃から毎日絶対5時間程は散歩と言う名の訓練をしていた。
体が小さいので体力作りや、短剣を使っての訓練しか出来なかったがかなり上達したと思う。というか元から短剣はかなり使えた。
理由は簡単、前世での姉の寄ってくる害虫共を駆逐するために古武術を習っていたからだ。
古武術を習っていたある日、美月(前世の姉)が俺に差し入れを持ってきていたのだが、そんな美月を鼻息荒くして師範が見ていたので俺は師範をボッコボッコにした。
あの日、俺の古武術の才能は開花した。
銃や剣なんかは持っていたらヤバイからという理由でナイフを体の一部分の様に使えるまで鍛練をしていた。
そんな前世があったからか、比較的早くから短剣もナイフ同様に使えるようになっていた。
そんな経緯があり、そして今回も姉に付く害虫駆除の為に日々鍛練に励んでいた。
だが、短剣でも剣だこは出来てしまう。
なのでいつも黒の革手袋をつけていた。
昔は手袋について聞かれたが、着けたいから!! とごり押しして意見を通した。
今では俺の手袋については誰も触れない。
「あ、そうそうユウ。丁度一週間後にフェレナさんが王都からこっちに来るらしいの。また三人でお出掛けでもしよっか」
フェレナとはリファの昔から仲の良かった友人だ。
歳は15なので俺達よりも一足早く王都の学校へ行ってしまっていた。
「えっ、本当!? フェレナさんが帰ってくるんだ……僕楽しみだなぁ……」
本当に楽しみだ。
フェレナさんもかなりの美人だからな。
姉上が俺を友人に会う時も連れていってくれたりもするので今の軟弱キャラを止められない、というか一生現状維持するつもりだ。
「ユウはフェレナさん大好きだもんね」
そう言うリファの顔には可憐な微笑が花咲いていた。
「うんッ!! 凄く大好き!!」
他愛のない話をしながら、俺の癒しである姉上とのお出かけという名の目と耳の保養は終了し、今日も何事もなく、充実した日々は過ぎていっていた。