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48話 竜の大行列

「……1つだけ聞きたいんだけど……何で僕? ギャズ達なら他のパーティーともコネとかがあるでしょ? ぽっと出の中のぽっと出の僕に頼む理由がイマイチ分からないかな」



 万斛(ばんこく)の怨念とも言えるドス黒い感情を瞳の奥に湛えながらも頼み込んできたギャズに小首を傾げながら尋ねた。



 先程の話からすればギャズ達がパーティーを結成してから少なくとも10年程の歳月が経っている筈である。ならば自分よりも信頼でき、かつ実力を知っているパーティー、もしくは人物がいるのでは? と胸中で考えていた俺は尋ねずにいられなかった。




「……俺達“ノーネム”はあんまり評判が良くないんだ。貴族に喧嘩を売ったから……という理由でな。だが、何があっても何にも肩入れする事はなく、あくまでも中立の立場を貫くギルドという組織。本当にギルドには感謝してるさ。こうして依頼をこなせるのもギルドのお陰、ユウに出会えたのもギルドのお陰だ」



 そう言って自嘲する笑みを浮かべる。

 


 傲慢な態度を取り、やりたい放題している相手は一応貴族。

 それも侯爵様だ。



 たった4人で計画も何も無しに突っ込んで行ってしまった事を悔やんでいるのだろう。

 ちゃんと前もって色々と調べてから仲間を取り戻しに行くべきだった、と。

  



「……それに、俺はあの魔人を知ってる。……昔、とある街に滞在してた時に暴れていたところを偶然見てな。あん時は一目散に逃げたもんだよ。ま、そんなワケだ。あの魔人が少なからず認めているユウなら申し分ないという俺の独断だな」



 続けざまに言葉を発するギャズはどこか自信に溢れていた。

 そして、それは紛れもなく核心を衝いている。



 1月前に対峙した魔人は人間達の中でも有名な折り紙付の魔人だ。

 勿論、悪い意味での有名だが。



 王国騎士団1個大隊を前にしても悠然と戦う事が可能なシュグァリこと虐殺が少なからず認めている人間。シュグァリの戦闘を一度でも目にした事があるのならば強さの信頼度も違ってくるだろう。



「……そう……なんだ。うん、分かったよ。でも条件が1つだけあるかな」



 ニコニコと無邪気な笑みを浮かべながらそう口を俺は開いた。

 しかし、笑っているのは顔だけで燃えるような怒りを瞳に宿していた。



 人を失う辛さを知っている人のみが知り得る痛み。

 ギャズの話によればレガルド侯爵は人を人と思わない所業をしているとか。



 それを聞いた俺は激昂を上げてしまいたくなるがそれを抑え、場を和まそうと試行錯誤する。



 そして条件がある、と言われギャズは顔を強張らせた。



「もし、そのアーヴィさんって人を助け出せたら……ご飯を奢ってよ。勿論、ギャズのお金で」



 顔を綻ばせながらそう口にする。

 奢って貰った飯というのは先程までの緊迫とした空気の中でも条件に入れたくなる程に美味なものである。



 だが、実際の思惑は言わずもがなだ。

 条件といった割にしょぼいと感じたのか拍子抜けしてしまっていたギャズはポカン、と面食らっていた。その為、建前上の理由を口にした。




「これでも僕達は知り合って間もないよね? ……まぁ、裏切ったりする気は更々無いんだけど……それでも、利害関係になっておけば今よりも更に信頼度が上がるでしょ? ……ま、他人の金で食う飯が単に美味しいからってだけなんだけどさ」



 ギャズは俺の言葉に感心するが、最後に付け加えた俺の言葉が急上昇していた好感をガタ落ちさせた。



「……あ、あぁ、奢る、奢るぞ。1日と言わず、1年でも奢ってやるさ。……ありがとな、ユウ」



「ギャズの財布をすっからかんにしてあげるから覚悟しておいてよ?」



 だが、10歳らしくなくも感じる気遣いの効果は絶大か、彼の瞳はいつになく嬉しそうだった。



 茶目っ気を少し含んだ言葉を最後に発しながらも握手でも交わそうと、粋な計らいを思いついた俺はギャズとの距離を詰めようと歩を進め始める。



 しかし、すっかり周囲が夜闇に包まれていた為に足下に注意を向けておらず、どんくさくも近くに転がっていた石に足を躓かせて頭から盛大にこけた。



 直後、有無も言わせない程の速度で立ち上がり、鼻血を滴ながらも俺は無言で数歩後ろに下がった。



 そして突如始まるtake2。

 

 

 気持ちを180度切り替えて再び同じセリフを鼻血を滴ながらも発する。



「もし、そのアーヴィさんって人を「そこからやり直すのかよっ!!」」 



 再度、良い感じに決めようとうろ覚えだったセリフを口にするがすかさずギャズがツッコミをいれる。



 そしていつの間にか、剣呑な雰囲気はすっかり消し飛んでおり、場は和んでいた。



 これぞ、対美月用。

 スキル――場を和ませて話題を逸らし、緊急回避しちゃう、だ。



 美月の場合は何かと耳聡く、そして目聡くあったので何かと尋ねられる機会が多かった。勿論、基本的に女絡みだった。まさか、来世でも役に立つとは……美月に感謝だな。



 俺をつくった神様よ、ここまで万能とは……存在がずるいぜ…… 



「え? いや、だってさ。今さっきのは格好良く決めるシーンでしょ!? お財布の力で一蓮托生となった男達が、かたい握手を交わす……みたいな?」



 折角のtake2に茶々をいれたギャズにやれやれ、と肩をすくめながら諭すように口を開く。



「色々とぶち壊しだな! おい!!」



 何がお気に召さなかったのか、ギャズが声を上げる。

 すっかりいつもの調子である。



「……まぁ……何にせよありがとよ、ユウ。気が楽になったわ」



 先刻とは違って晴れやかな表情を浮かべていたが、突として夜空に佇んでいた雲の動きがあからさまに早くなり、一筋の熱線が上空にて駆ける。



 そして、それに合わせるかのように野太い雄叫びのような鳴き声が幾度となく耳に届き、夜風の肌寒さを一斉に吹き飛ばした。



「んあっ!?」



 突然の出来事に思わず素っ頓狂な声を上げた俺とは裏腹にギャズは瞳をギラつかせながら待ってました、と言わんばかりに数秒タメを入れて言葉を発する。



 突として爛々と輝かせ始めた彼の双眸は獲物を前にした獣のそれだ。

 


「……ユウ……やっと竜狩りが始まるぞ……上を見とけ……これが……




 ――――竜の大行列(ドラゴンパレード)だ」

誤字、脱字等あれば指摘お願いしますm(__)m

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