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47話 魔人side 見極め

「あっはっはっは……本当にクリシュラは面倒臭いね。あれだけ婚姻を拒んでた癖に急に式を上げたいって言い出すなんてどういう心境の変化なのか……」



 永劫の黄昏に包まれた街――“ランフィ”。

 そこに屹立する古城。

 それは灰色に薄汚れていながらも、否応なしに存在感を示す吸血鬼の王が住まう巨大な城だ。



 その城に存在する数ある中の一室にて装飾過多の玉座に座ったまま赤を基調とした豪奢な服を着用している二十歳程度の男が嘆息混じりに口を開き、目先のドア付近にて立ち尽くす年老いた男性に向かって言葉を投げ掛けていた。



「ほぉ……あのクリシュラ様が……で、その御相手はどんな者ですかな?」



 肩をすくめ、項垂れる男を見詰めていたオールバックの老人は自身の顎に生えた髭を弄りながらも白い犬歯を剥き出しにする。



 歳に似合わず、煌々と輝かせる初老の男性の瞳は獲物を前にした猛獣のそれだ。



 傍目からは他の部屋となんら変わらない一室に思えるが、ある程度武芸等に秀でていれば感じ取る事が出来るだろう。なに食わぬ顔で言葉を交わす2人の男達から洩れ溢れていた膨大な殺気を。



「人間だとさ。人間……人間だよ? くくくっ、あははははははは!!! ……クリシュラにはいつも驚かされるね。で、だ。ウィナス。ちょっとさ……キミの目で見てきてよ」



 眩い夕暮れの赤みを帯びた日射しの中、繊細そうな面差しの男はニヒルな笑みを浮かべながら自身の碧い瞳に映る黒いコートに身を包んだ尖った鷲鼻を持つ初老の男性に言い放った。



 玉座に座る男の見た目は二十歳程度の若者だが、稀に空気に触れさせる長く伸びた犬歯からして吸血鬼。その為、外見からは想像出来ない程に生きているという事が安易に予想する事が出来る。



「と、言いますと?」



 ウィナスと呼ばれた老人も自身と相対している男と同じく、微笑みながら言葉を返した。

 



「ふふっ、キミの眼鏡にかなわなければそれまでの人間だったって事さ。その時は……殺せ」



 先程まで笑みを浮かべていた青年とも呼べる男は突如、酷薄そうに目を細めて低い声音で告げた。その言葉には殺気が込められており、常人ならば卒倒ものだ。



 そして空気にピシッ、と一筋の亀裂が入ると同時に笑い声は止み、一瞬にして場が静まり返る。



「ヴェリゴール様も人が悪い……」



 洩れ出した凄まじい殺気を身で受けながらも、ウィナスは悠然と微笑みながら吸血鬼の王であるヴェリゴールに向かって口を開いた。




「ふふふっ、そう言うなよ。もしキミが認めたなら僕だって2つ返事で頷いてみせるさ。その時は式でも何でもあげてやるつもりだよ」



 ウィナスの先程の発言に対して心外だなぁ、と言わんばかりに笑ってみせ、装飾過多の黒と赤を基調としたドレスに身を包んだ娘を思い浮かべながらもヴェリゴールは言葉を発した。



「……それに、キミだってそろそろ戦いたくて仕方がないんだろう? 表情が物を言ってるさ。ま、愉しんでくるといい」



「あっはっはっは、相変わらずヴェリゴール様には隠し事が出来ませんな……ではお言葉に甘えさせて貰いましょうかね……」



 そう言って愉快に口を曲げながら、闘争本能に駆られた獣のように爛々と輝く光を瞳の奥にたたえながらもウィナスは特殊な移動手段を使ったのか、一瞬にして姿を消した。



「さて、どうなるかな……どんな結果になるにせよ、面白い事には変わりないね……ふふっ……」



 愉悦に口を歪ませ、いつも変わらぬ黄昏が支配する空を窓越しに眺めながらもヴェリゴールは人知れず言葉を発していた。

……と、当分、sideは書かない予定です(・ω・`:)

誤字、脱字等あれば指摘お願いしますm(__)m

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