46話 魔力蓄幅者
「んー……聞いた事ないかな。……で、それって何なの?」
おもむろに口を開いて問いかけてきたギャズに首を傾げ、疑問符を浮かべながら疑問に疑問で返す。
「……だよ……な。やっぱり知らねぇか……そうだな、少し昔話をさせてくれ」
俺が知らないと言う事は予想の範疇だったのか、少々自嘲気味に笑うだけで落胆といった感情は見受けられない。直後、ギャズは普段の腑抜けたような様子を潜ませ、過去を想起させながら視線を光の無い夜の空に移して語り始めた。
「……俺達のパーティー“ノーネーム”は4人の孤児が集まった集団だった。メンバーは俺、ラクス、レイラ。そしてアーヴィという女性だ」
どこか寂しさを感じさせる物言いで言葉を発するギャズに俺はつい、独り言のように「フリシスは?」と思った事をそのまま胸中に止める事をせずに呟いた。
「フリシスはアーヴィが拾ってきた孤児なんだよ。俺がフリシスと出会った時は……そうだな、確か丁度ユウくらいの年の時だったかな……そりゃぁもう可愛いのなんの」
先程までの真剣な表情は何処へいったのか突如、昔を懐かしむように口を開き、頬を緩ませるギャズを目にした俺は質問をせざるを得なかった。
「……ろ、ロリコン?」
あぁ、成る程。
だからその歳になってもまだ独身だったんですね! 納得です!
と口には出さなかったものの、表情で物を言ってると即座に否定する言葉をギャズが投げ掛けてくる。
ロリコン……うん、個性があって良いんじゃないかな? 感性は人それぞれだよ、人それぞれ。
「ちげぇよ! で……まぁ、ユウは見たことは無いだろうがアーヴィは魔力蓄幅者って呼ばれてる先天的な病気だったんだよ。ま、病気と言ってもそんな命に拘わるようなもんじゃない」
ギャズは半ばやけくそになりながらも先の質問に答え、そして続けざまに言葉を発す。
「この世界にはマナが溢れてる。それは人、魔人、動物、魔物等、生きとし生ける物全てが例外無く持っているもんだ。で、それが魔法を使う為に必要なものならしい。通常、そのマナってもんは自然と体外に排出されるようになってるんだが魔力蓄幅者は違ってな、文字通り魔力が身体の中に蓄積してしまって身体中に溢れてしまうんだ」
そして付け加えるように受け売りだけどな、と呟きながら笑みを溢す。
「ん? 溢れると何か悪い事でもあるの? 魔力が溜まるって良いことなんじゃ?」
戦闘の事ならば多少知識があるものの、無知だった俺は難しい話を始め、いつもとは違うインテリ感漂うギャズ先生に尋ねた。
「そうだな、一定量までは良い事だ。ま、世の中そう上手くいかないって事なのか、人には人の魔力を溜め込める限界値ってもんがあるんだ。それを超えてしまうと体調不良になったりと良い事は全く無いんだぞ?」
そう諭すように俺の疑問に答えるギャズ。
天職は先生なんじゃないだろうか?
「だが、魔力蓄幅者用の魔道具も今じゃ用意されてるし、要は外に溜まった魔力をぶっぱなせばいいって話だから魔力を使いきれば何の問題も無かったんだ。だから別に大事に考えた事もなかったさ……1ヶ月前まではな……」
そう含みのある言い方をしたギャズは怪訝顔の俺から目線を移し、強く握りしめていた自身の右手に恨みがましい視線を向ける。
そして急に態度を一変させた彼を見て次に発せられる言葉がどういった類いの物かを感じ取った俺はそれに合わせるように表情の端々に存在していた緩みを消し、酷薄そうに目を細めた。
今のギャズが抱く気持ちを欠片でも理解できるからこそ
――――同情は一切しない。
前世にて、両親を失った時に周りから向けられた同情を含んだ目、そして「大丈夫?」等と心配してくれる言葉が荒れ狂いたく成る程に鬱陶しく、邪魔で耳障りだった事は今でも覚えている。
だからこそ同情はしない。
そう俺は決めて話に耳を傾けていた。
「1ヶ月前まで、俺達は5人パーティーで楽しく狩りなんかをやってたんだがな……そんな俺らに近づいてきた奴がいたんだ。Bランクパーティーの君達に護衛の仕事を頼みたい、ってな。それが元凶の始まりだった。……レガルド侯爵。この名前くらいは聞いた事あるだろ?」
「まぁ、名前くらいは」
怒りに顔を歪ませながらも問いかけてくるギャズに向かって首肯と共に肯定の言葉を発した。
「あの糞野郎の策にまんまと馬鹿みたいに嵌まったんだ。そしてアイツは魔力蓄幅者であるアーヴィの事を実験材料と高笑いしながら叫び、権力と力にものを言わせて強引に連れ去って行きやがったよ。俺らを魔物の巣に誘い込むってオマケつきでな……今すぐにでも殺してぇ……殺したい程に憎い、アイツがッ!!」
歪みきった口元から発せられる感情を剥き出しにした言葉はまさしく烈火の如く。
だが、そんな激しい殺気を撒き散らすギャズを前にしても俺の表情は一切変わらず、ただただ無表情な瞳で見詰め返すのみ。
「だが、まぁ……黙って見過ごす事はどうしても出来なかった俺達は何とか巣から逃げて連れ去られたその日に連れ戻しに行ったんだ……が、結果は散々だった……金に雇われただけの荒くれ者共に足止めを食らい、その後は数にものを言わせた酷い戦いさ」
そう口にしながらも脇腹辺りに手を伸ばす。
一度だけ見た事があったのだが、ギャズの脇腹辺りに一筋の斬り傷が存在していた。
恐らく、アーヴィと呼ばれる女性を助けにいった際につけられた傷なのか、疼いて仕方がないのだろう。
「それがつい先月の話だ。ラクス達が初めてユウと会った時、敵意を剥き出しにしてたろ? ……悪かったな、それが原因なんだ。皆、根は優しい良い奴らなんだ。別に悪気があってやった事じゃない……許してやって欲しい」
先程まで空に視線を向けていたギャズはフリシス達の居る場所へと移し、謝罪を始めた。
そして直後、自嘲の笑いを洩らしながら続けざまに口を開く。
「はははっ、全く情けねぇ話だよな。リーダーやってる癖に仲間の1人守れやしねぇなんてよ」
俺と顔を合わす事が出来ないのか、フリシス達の居る後ろを振り返った直後、直ぐ様視線を地面に落とす。
その際、顔に全く似合わない涙が数滴垂れたのは気のせいでないだろう。
「ま、そういう話だ。……同情を誘ってる、そう言われても仕方ないってのは分かってる。分かってるんだが……ユウ、俺らに手ぇ貸しちゃくれねぇか……」
そして様々な考えを頭に巡らせながらも俺は言葉を返した。
すみません、ちょっと話が重くなりました(-∀-`;)
そしてやっとこの作品も10万文字!
ラノベ1冊分くらい……でしたっけ(・ω・`?)
誤字、脱字の指摘等あればお願いしますm(__)m