45話 ジャンク兄弟
「おらあああああぁ!! 死ねや糞餓鬼いいいいぃ!! ってってって痛ッ!!」
「袋にしてやらあああああぁ!! ってってって痛ッ!!」
威勢良く吼えながらもブッチー取り巻き2人組は俺の下へ駆け出すが腰パンをしていた為に足をもつらせ、つんのめりながらも地面に頭から仲良く2人一緒にダイブした。
そしてそれと同時にズボンも脱げ落ちる。
本当に無様の一言に尽きた。
直後、鼻血を盛大に滴らせながらも慌てて脱げ落ちたズボンを今度は落ちないようにとヘソ辺りに来るように持ち上げ、文字通り限界に挑戦していた。
「…………中々やるじゃねぇか餓鬼。おい、ジャン!! コイツは俺1人で十分だ。俺の勇姿を見守ってくれや」
無様にも砂まみれになった顔面に鼻血を付着させたまま威風堂々とスキンヘッドの男に向かって言い放った。しかし鼻血がついていたからか、全く締まっていない。
「はっ、そう言われちゃ手ぇ出せねぇわな……いいぜ……ブッチーさんの無念を晴らしてやれ……」
そう言って取り巻きツーであるドレッドヘアの男に向かってスキンヘッドの男は戦場に赴く友人をさも送り出すかのような眼差しと声援を贈っていた。
あれ? 向こうが全面的に悪いよね? 何で俺が悪いみたいになってんの?
「おい……今さっきの出来事はただのまぐれだ。図に乗るなよ? 餓鬼。俺の鍛えに鍛え上げた八陰弍掌竜拳の前では誰もが皆、塵同然の雑魚となる……行くぞこんにゃろおおおおぉぉ!!」
腰を落とし、胡散臭い中国拳法を彷彿させるような構えを取ったドレッドヘアの男は叫び散らした後、きええええぇぇと奇声を上げながら躍りかかってきた。
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「……おうえぇぇぇぇぇ…………な、ナイスボディ……じゃなかった。中々、やるじゃねぇか……ぜ、全然効いてないけどな……ま、まぁ今日はお腹下してたし? 子供に花を持たせてあげる優しいオジサン心……おうえぇぇぇぇぇ……」
意気揚々と殴りかかってきたドレッドヘアの男こと取り巻きツーは渾身の初撃を身を翻す事でヒラリといとも容易く避けられ、そのまま流れるような動きで鉄拳を繰り出した俺の攻撃がお腹に炸裂した事で片膝を地面につけながら腹を抱えて嘔吐していた。
その上、目を限界まで見開きながら顔を歪ませ、強がっている取り巻きツーはフリシスやレイラ達に惨めだと言わんばかりの眼光を当てられていたにも拘わらず強がっていた。
もう、情けない事この上ない。
「あ、思い出したぞ……こいつら巷で有名な壊れ物兄弟じゃないか?」
ふと、思い出したという様子でドレッドヘアの男を指差しながら口にするギャズ。
ジャンク兄弟とは王都でも少々有名なDランク冒険者だ。
ジャンとクーリの2人組なので略して壊れ物兄弟。
だが、響き渡っている悪名はネコババした。や、王都で人気のスイーツ店にて順番抜かしをする常連等と小悪党といっていいものか? と悩んでしまうような事が多数……というよりも全てだ。
「ふ、バレちまったんなら仕方ねぇ……今回手加減したのは次に会った時への布石という事だけは忘れるなよ? 餓鬼……今回は見逃してやろうじゃねぇか……あ、クーリ。ちょっと肩かしてくんね? マトモに歩けねぇわ……」
そう言ってドレッドヘアの男――ジャンはスキンヘッドの男――クーリの下へと腹を抱えつつ、呻きながらも助けを求める。傍からみても弱りきっているのは明白だった。
そんな光景を横目に俺はそう言えばリーダーっぽかったブータンみたいな名前の奴はどこいった? と辺りを見回すが忽然と姿を既に消していた。もはや、友情も糞もあったもんじゃない。
フリシス達は先程まで茶番劇のようなもめ事はまるで無かったかのように仲良く退散していくジャンク兄弟を居ない者として扱い、刻々と迫る竜狩りの準備を始めている。
そして一悶着が終わり、先程までとは打って変わって閑散としていた。
準備を、と武器の整備を始めるフリシス達についていかず、何だったんだ? さっきの、と呟きながらジャンク兄弟の去り行く背を見詰めていた俺にギャズがこれ幸いにと話しかけてきた。
「あんましこういう機会はねーしな……アーヴィの事もあるし……今が一番タイミング良いだろ」
黒く染まった雲が闊歩する夜空を見上げながら神妙な面持ちで含みのある前口上を口にする。
そして意を決したかのように俺と向き合い、続けざまに声を発した。
「なぁ、ユウ……お前は
――――魔力蓄幅者というもんを知ってるか?」
誤字、脱字等あれば指摘お願いします( `・ω・´)ゞ
アーヴィ……はい、33話あたりに書いていた伏線っぽい人物ですね。長い間放置しちゃってスミマセンッ