41話 死んだフリ
「まずは前回同様、クルト兄さんの部屋で様子見だな。お邪魔しまーす」
そう小さく呟きながら俺は隣に位置するクルトの部屋に無断でコソコソと足を踏み入れ、扉をそっと閉める。
そして今までの経験を生かし、今回俺は計画を練りに練った。
1回目の俺は……本当に馬鹿だった。
無計画だった為か、ライオスが小便に行くタイミングとぶつかりあっさり捕獲された。
言い訳をしようと思ったのだが、枕を持って移動していた為に弁明すらさせて貰えず、辛酸を嘗める羽目となっていた。あの日の事を忘れた事は……いや、今日まで忘れてたや。
その為1回目以降、俺はクルト兄さんの部屋で待機をしながらタイミングを待ち、ライオスがトイレに行った瞬間にダッシュでリファの部屋に向かうようにしていた。
「ふぅ……ここまではいつも通り……さてさて、今日の占いは……なっ!? ワニさんかよ!?」
無断で部屋に侵入した俺は布団にくるまっていたクルトを布団から少々強引に引き剥がした。だが、ちょっとやそっとでは目を覚まさない彼は未だいびきをかきながら夢の中にいる。
俺は1回目以降クルトの部屋に毎度立ち寄っていたので理由はもう忘れてしまったが、毎回彼のパジャマにプリントされている動物で占っていた。
2回目、3回目。そして4回目と。更には今日までもがワニパジャマとなっていた為にまさか今日も失敗するのか!? と1人戦慄していた。
「ふ、ふんっ、所詮占いだよ、占い。当たるワケ……いや、当たってるかもしれない……」
最早、失敗するジンクスと化してきたクルトのワニパジャマ。
俺は今日もワニだったのだが、所詮は占いと即座に先程浮かんだ考えを否定しようとするが今朝の出来事が脳裏を過り、口ごもってしまう。
「……ま、まぁ、確かに? 今までの俺だったら失敗していたかもしれない。だが、今日の俺は一味違うぜッ!!」
そう口にしながらクルトの下を離れ、再び扉と向き合う。
そして少しだけ扉を開け、視線を斜め上に向けた。
ギャズ達に言っていた準備。
あれは確かに竜狩りに行く為の準備……でもあった。
だが、その準備は10分足らずで終わった。
元々、その準備には時間がそんなに掛からないと予想出来たにも拘わらず、ギルドを早々と立ち去った理由。それが
――――カーブミラーの設置だ。
クルトの部屋から覗いた時にちゃんとリファの部屋まで映るように設置したカーブミラー。
メイドさん達やクルト兄さん、そして両親に気づかれないように設置をしていたらいつの間にか1時間単位で時間が過ぎていた。カーブミラーの設置には本当に骨が折れた。
「ふ、ふふっ、これでやっと念願が叶う……母上、あんたの動向は手に取るように分かっちゃうぜ! さて、今はどうなって……る……んん?」
数時間前の苦労に思いを馳せながらカーブミラーに視線を移すが……
そこには何も映っていなかった。
鏡が映しているものは黒。
要するに、暗闇で何も見えていなかった。
「…………うっそん!? え、ちょっと待ってよ。それじゃあ俺の4時間は全部無駄だったと!? ……いやいや、努力は報われる筈だってどこかのオッサンが昔言っていた気がする。……あの時間は決して無駄じゃない、うん、無駄じゃない。そう、成功する為の第一歩だったんだ!! そうだ。そうに違いない!」
無理やり納得しようと自分に言い聞かせていた最中にガチャリ、と扉が開く音が静まりきった2階に響き渡った。
「ふあぁぁぁぁ、寝っむいなぁ……何でルルはあんなにも頑固なんだか……一切の訓練を拒んだユウが武闘祭に勝ち残れる筈が無いだろうに……アイツはヴェロニアの名に泥でも塗りたいのか? ……いや、ただ酔ってただけだな。あぁ、そうだ、そうだ。さっさとトイレを終わらせて寝るか……」
武闘祭。
秋に王都で開催される祭りだ。
武闘祭は誰でも参加が可能となっている。そして貴族ならば半強制的に通うこととなる学校においての立場も武闘祭の結果が影響するのだが、参加者が参加者なだけに評価されるのは結果ではなく過程だ。
どんな魔法を使えたか、どんな体術を会得しているのか等が観客席の観客に扮して何処からか見ている学校関係者に評価され、クラス分けがされていた。
だが、学校に入学するからといって絶対参加ではないが参加しない場合、入学して早々のクラス分けにおいて、上のクラスに……という事は余程の事がない限り、あり得ない。
要するに、上のクラスに行きたくば、もしくは家名に泥を塗りたくなければ武闘祭には絶対参加しろ。という事だ。
だが、自由参加となっている武闘祭には勿論、参加者のやる気を誘う賞金が用意されている。その為、熟練の冒険者や王国騎士団の団員。そして貴族の私兵等々。様々な人が毎度参加していた。
「この声は……ライオスだな。……ん? ……心配するなライオス、武闘祭なんて面倒臭そうな事はこっちから願い下げだからな」
そして数秒後、ライオスがトイレに入った事を耳で確認した俺は布団を剥がれて寒そうにしていたクルトを背に駆け出した。
「おっしゃぁ、今だっ! ゴーゴー! ゴーゴー!」
そう小さく発しながら出来る限り足音を消して目的地へと駆け出す。
20m、15m、10mと見る見る内にリファが居るであろう部屋との距離が縮まっていく。
だがしかし、自分の部屋の向かいであるリファの部屋まであと数歩、といったとこで母であるルルが居る部屋のドアノブが回る。
それにいち早く気がついた俺は
――――床に突っ伏すように頭からスライディングをした。
頭に浮かんだ3つの選択肢
1.バレる確率は高いがルルを無視してリファの部屋に突入。
2.壁際に寄って立ったままやり過ごす。そして見つかった場合は適当に言い訳を考える。
3.皆大好き、クマさんへの対処法。死んだフリを頭からスライディングし、床に突っ伏す事で体現する。
のうち、コンマ1秒程悩んだ後に3を選択した俺は出来る限り音を殺してスライディングした。
流石俺!! 発想がそんじょそこらの凡人と格が違い過ぎるッ!!
「あ、ライオス。言い忘れてた事があったんだけ……ん?」
ドアを半開きにしながらライオスが居るトイレへと歩を進め始めたルルは途中、何故か足を止めた。
(おい、コラ。さっさと用件を済ませろよ。こちとら床に突っ伏してるせいで息苦しいんだよ!)
間違っても物音1つ立ててはいけないこの状況。
声を上げるなんて論外だった為、俺は心の中で毒づいていた。
「……なんでユウがこんな所に……あぁ、成る程ね……」
ルルの納得したような声を背に、危険を察知した俺は芋虫のように少しずつだが前へと進み、母上と距離を取り始めるが既に時遅し。
cm単位で動き始めて数秒後、俺の右足はガッチリとルルに掴まれた。
だが、捕獲されたからといって口を開き、言い訳を始めるとリファの部屋に向かっていた事を自分でばらすようなものなので俺は無言――死んだフリを続けるしかなかった。
「あら、あら、ユウったらこんなとこで寝ちゃって……私、酔っちゃって力が出ないから(嘘つけッ!!)ライオスの部屋に運びましょうか」
わざとらしい口調で声を出すルルに突っ込みを入れるがその間にも俺はズルズルとライオスの部屋に引っ張られていった。
(え? ちょ、まじ!? う、嘘だよね? ねぇ、嘘って言ってよ!! ちょっと、マジで勘弁してくださいよ……あのオッサンいびきがマジでヤバイんですって……い、嫌だあああああああああぁぁ!!)
心の叫び虚しく、俺はライオスの部屋に放り投げられた。
おふざけ系はやっぱり書くのが楽しいですねぇ(*´ω `*)w
誤字、脱字等あればご指摘お願いしますm(__)m