40話 魔人side 吸血鬼の王に仕える魔人
「あの……シュグァリさん。何度も聞いて申し訳ないのですが……何故、貴方程の魔人がいつまでも吸血鬼の配下に下っているんですか? 今の貴方ならば「うっせぇぞパミエラ」……っ!? も、申し訳ありません……」
先程まで一緒に乗って移動していた少年達と別れ、自分達が仕える王の下へと風竜を使って向かっていた2人組の魔人の内、1人――パミエラが怖ず怖ずといった様子で口を開く。
だが、言葉を発している途中でもう1人の魔人――シュグァリに遮られる。そして、その際に殺気を当てられた為かパミエラはすっかり畏縮してしまっていた。
「申し訳ないと思ってんなら聞くなよ……何度も言ってるが俺はあの吸血鬼の王には返しきれねぇ恩があるんだ。義理や人情といったものを重んじる気は更々ねぇが、あの時の事だけは無視するわけにいかねぇって何度も言ってんだろ」
あからさまに不機嫌になりながらも魔人は吐き捨てるかのように言葉を発する。
「ですが、そのせいで貴方の立場は……「だからうっせぇって言ってんだろ!!」す、すみません……」
畏縮を未だにしていたパミエラだったが、彼の発言をそんな状態でも見逃せなかったのか、心配といった声を掛けようとするが再度シュグァリに遮られ、今度は憤怒といった怒りの感情が剥き出しとなっていた。
「……まぁ、俺が仕えるのも吸血鬼の王の子供の代までだ。後は知らん……っつってもあいつらは不死か! くくっ、かはははは!! それに、今の立場は案外悪くねぇ。あの時、俺を裏切った奴らが吸血鬼側についた俺を見つけると目の色変えて裏切り者って叫びながら殺しにかかって来やがるんだ。お前も見た事あるだろ? あいつらを殺す快感は何物にも変えられねぇよ」
怒鳴った事を多少なりともやり過ぎたと思ったのか、シュグァリはばつが悪そうな顔をさせながら口を開く。
そう言うシュグァリの目はギラついており、獰猛な笑みを浮かべていた。その姿はまさに闘争本能に駆られた猛獣。そんな彼を完全とは言わないまでも御していた吸血鬼の王にパミエラは1人、戦慄していた。
「ですが、今の吸血鬼一族には他種族との交流が殆どありません……姫であるクリシュラ……様も国交の為にと嫁ぐ気は更々無いようですし……はっきりと申しますと……吸血鬼側に身を置くのは危険です」
シュグァリについてきている身であるパミエラは吸血鬼の姫であるクリシュラに対して特にこれといった感情を持っておらず、その為クリシュラと呼ぼうとするがシュグァリの眼光に当てられ、慌てて様をつけた。
「戦争が起きた時は……まぁ、何とかなるだろ。実際、クリシュラ様の事は俺にもよく分からん。何度か、会った事があるんだが話し掛ければイツキ、イツキとばかり言うだけで……吸血鬼の王の家臣共は気味が悪いなんて言うが……悪い御方ではない」
過去を想起させながらも笑みを漏らしながら口を開く。
シュグァリが吸血鬼の姫であるクリシュラに様をつけたり、御方と呼んでいる事から彼は悪い印象を持っていない、という事が見てとれる。そして続けざまに声を上げた。
「理由は何にしろクリシュラ様に嫁ぐ気は無いらしい。要するに男に媚びねぇ女ってこった。……過去の経験から男に媚びる女にろくな奴はいねぇって身をもって知ってるんでな。その点、魔人側の姫は糞だ糞。……ムカついてきたし、ちょっとぶち殺しに向かおうか」
そう言うと同時にシュグァリの全身から殺気が溢れだす。
直後、太刀のような得物を指にはめていたリング――アイテムボックスから取り出した。
刀身が銀色に染まった得物は2m近くの長さとなっており、よく使い込まれていた事が素人目からも見てとれる武器だった。
「だ、ダメですってシュグァリさん!! ただでさえ吸血鬼は他の5種族からも睨まれてるんですから大人しくしておいて下さいよ……」
他の5種族。
ナブール大陸には人間、吸血鬼、魔人、獣人、エルフ、ダークエルフ、竜人の7種族が存在する。
そして吸血鬼の一族は昔、どの種族からも無差別に血を吸血した過去があり、仲の良い種族は1つたりとも存在しない。それにも拘わらず、吸血鬼という一族が存命している理由は吸血鬼の王が規格外の力を持っている為だ。
そしてそれぞれの種族の長達はいつも口を揃える。あいつだけは敵に回すな。敵に回す場合は最低でも4種族以上と手を組んでから挑め……と。
だが、最近は無差別吸血も無く、現在の王が比較的温厚だという事あって良い印象は持たれてなかったものの、吸血鬼一族は放置されていた。触らぬ神に祟りなしという事だ。
「はははははは!! 冗談だ、冗談だ! ……あー、そう言えば吸血鬼で思い出したんだが……ユウは何で吸血鬼んとこの秘術……いや禁術が使えたんだろうな……あ゛ー!! 何であの時の俺、蹴り落としたりしたんだよ……クッソ……縛ってでもつれてくるんだった……」
真剣な表情で慌てて止めにかかるパミエラを目にしたシュグァリは唇の端を吊り上げながら持っていた得物を納める。そして事のついでかのように思い出した少年の名前を口にしながらガリガリと頭を掻きむしり始めた。
「……はぁ……いつも言ってますが後々後悔するならばもう少し考えて行動してくださいよ……それにしてもユウ……あの少年ですか。確かにあの黒い炎は間違いなく己の血を代償に――いえ、燃やす事で使用が可能となる黒焔。ですが黒焔にしては威力が低すぎます。あの魔法は1つの国を一夜で焼き尽くしたという逸話までありますし……」
「そこんとこの理由はまだ幼いとか何かだろ。……よし、吸血鬼の王に一度顔を見せたら直ぐにユウを捜しに行くぞ!! アイツはそこいらの魔人よりも愉しめる」
右手を顎にあてながらも目を少々細め、己の考えを巡らせ始めたパミエラを見据えながら脳筋タイプのシュグァリは適当に理由をつけた後、顔を綻ばせた。
「はぁ……あの少年も可哀想に……「何か言ったか?」い、いえ、何も……」
笑みを浮かべるシュグァリを横目にパミエラは今、近くに居ない少年へ哀れみの言葉を吐くが直後、訝しむような視線を向けられ口ごもる。そんな彼女を鼻で笑っていたシュグァリは自身の欲望をぶちまけるかのように大声で叫び散らした。
「くくっ、さて、愉しくなってきたなぁおい!!」
250万PV突破。
有難うございます(*´ω `*)
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