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39話 昔、自衛隊なんかに憧れてたんです

「……………」



 ギャズが何かを言っていたが全く頭に入って来ない。

 一度指摘されてしまえばもう目を背ける事は叶わず、悲しみや寂しさ――愁いの言葉が頭の中で木霊する。昨日までは何も感じなかった物や、人の仕草が何故か全て美月との思い出を想起させる事となっていた。



 そして脆くも感情を塞き止めていた堤防は決壊する。



「……は、ははっ、重症すぎるぞ……」



 自嘲気味に言葉を発するも流れ出した愁いは止まらず、過去の思い出が遡行するのみ。

 


「おい、聞いてるのか? ユウ……ってお前、何で泣いてんだ!?」



 声を掛けたのだが心ここにあらずといった様子で立ち尽くし、自嘲気味に笑いながらも涙を流す俺を見てギャズは慌てて心配をしてくる。



「……あ、あぁ、聞いてるよ……っとっと、泣いちゃってたか……道理で頬が熱いワケだよ……」



 ギャズに言われて始めて泣いていた事に気づいた俺は右手の人差し指を使って涙を拭った。

 


「……目にゴミが入っただけだよ。そんなに心配してもらわないでも大丈夫」



「そ……そうか、それなら良いんだが……あぁ、そうそう。竜狩りをしないか? って誘っておいて何だが竜狩りはキャンプ形式でやるんだ。ちと、場所が遠くてな……そう言うわけで具体的に決まってるワケじゃないが1週間はセントリアに帰れねぇと思っておいてくれ」



 敢えて聞いてはこないが言わんとしている事は大体理解出来た。

 要するに親は竜狩りを――外泊を許してくれそうか? という事だろう。10歳の子供が泊まり掛けで魔物を狩りに行く、と言われて行ってらっしゃいと送り出す親は少ないだろう。……いや、居ないな。



 まぁ、だが良い機会かもしれない。

 一度、リファと離れてみて俺の感情がどうなるのかを試すのも。

 恐らく、母親であるルル・ヴェロニアは許可するだろう。俺がリファと距離が近すぎる事にあまり良い感情を持っていないので、竜狩りの部分だけ適当にボヤかせば大丈夫な筈だ。




 そう考えながらも俺はギャズに向かって口を開く。

 近くにはパーティーメンバーであるレイラやラクス。そしてフリシスの3人の姿が見つからなかった。恐らく1人で朝早くから酒を飲んでいたんだろう。




「……行く。行くよギャズ。母親は説得出来そうだし、父親の説得に関しては母親に丸投げすれば大丈夫だからさ。ところでリザードマンはどうなったの?」



「……そ、そうか。あー、それなんだがな、どっかのパーティーがリザードマンを乱獲したらしくてな……ま、狩り尽くされたって事だ。一応、言っておくが竜狩りといってもあの魔人が乗ってたような風竜じゃねーぞ? あんなんと戦ったら間違いなく死んじまう」



 母親に丸投げ、等と言っているとギャズの頬が少々引き吊る。



 そう言えば初めて会った時、両親と仲が壊滅的に悪いと言っていたような気もする。もしかするとそんな出鱈目な言葉を思って泊まり掛けの竜狩りを提案してくれたのかもしれないな。と心の中で思いながら口には出さなかったものの、感謝していた。



「へぇ……じゃぁどんな竜なの? 僕達を崖の底に落とした火竜とか?」



 一番記憶が新しい竜である女魔人――パミエラが喚んでいた風竜は言う前から否定されていたので適当に火竜と口にするがそれも即座に否定される事となった。



「無理無理、あいつらは無理だ。俺らが狩るのは飛竜。ワイバーンってやつだな。それと飛べない地竜とかだ」



「へぇ……了解。んじゃ、今日は母親を説得したり色々と準備するからもう帰るよ。竜狩りは……明日からだよね? 集合場所と時間を教えてよ」



 ギャズは俺達が狩りに行く竜について語りたかったのか、少々寂しげな表情を浮かべるが初めての外泊をする為、色々と服を用意したりとやる事が溢れていたので会話を早めに切り上げた。



「んー、そうだな。9時に門の辺りで集合しようか」



「了解。んじゃ、僕はもう行くよ。フリシス達に宜しく伝えておいてねー!!」



 そう叫びながら俺は「あいよ」と酒を喉に注ぎながら返事するギャズを背に、ギルドを後にした。






◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







「いやぁ、竜狩りの間は離れるって言ったけど……今日は別だよな?」



 自分に言い聞かせるようにそう呟く。

 辺りは夜の闇に包まれており、静まり返っていた。



 そして俺は自室でベッドに腰掛けながら時計に目を向ける。



「現時刻、フタフタマルマル(22時)。これより、前々から計画していたリファのベッドに潜り込み、抱き枕になっちゃおうぜ作戦を実行に移す」



 言い終わった直後、ドンドンパフパフーと小さく叫びながら1人でテンションを上げていた。

 そして続けざまに口を開く。



「リファに見つかったとしても寂しかったんだ……と言えば許してくれる筈だ。それに? まだ俺10歳だし、こういう事をしちゃうのは仕方ないんだよ。だってか弱い10歳だもの」



 何度も10歳と言う事で自分を正当化させながらうんうんと深く2度程頷いた。 

 あ、単純計算すれば精神年齢は27歳でーす!




「だが、最大の難関は頻尿野郎のライオスだ。見つかるとろくな事が起こらん。総員、酒好き親父には注意せよ! ……っつっても俺しか居ないんだけどね? 待て、雰囲気は大事だぞ? 俺」



 俺の部屋は兄であるクルトの隣に位置しているのだが、リファの部屋はなんと向かいとなっている。

 ちなみに俺の部屋は1階から2階へと上がる階段を上りきり、左に曲がった先の突き当たりだ。そしてリファの部屋は右に曲がった先の突き当たり。




 ぶっちゃけ、遠すぎる為にいつも部屋の位置決めをした母親の悪意を感じちゃってます。




 そして俺の部屋からリファの部屋に行こうと思ったらライオスやルル、そしてラーニャの部屋にトイレといった障害物が存在する。



 要するに、難易度が高過ぎるのだ。

 だが、そんな事で俺が尻込むと思ったら大間違いだ!! 



 かつて4度程、リファの部屋に向かおうとした事があったのだが何故か毎度ルルにバレてしまっていた。そして「あらあら、そんなに寂しいのならパパと一緒に寝ましょうか」と皮肉染みた事を言ってイビキが凄いライオスの居る部屋に放り込まれていた。



 あの母親、マジで悪魔。



「それでは……健闘を祈るッ!! 作戦開始(アイリーン)!!」



 そして……人知れず、戦いの幕が切って落とされ、忍び足で俺は自室を後にした。

少々でも、重い話はやっぱり苦手です(・ω・`:)

週間総合ランキング1位有難うございます(*´ω `*)



今後とも『異世界転生~少年の転生譚~』をどうぞ宜しくお願いしますm(__)m

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