前へ次へ
4/60

3話 怠惰な日常

 ――――――生まれてから三年が経った。



 俺は三歳となり、喋ったり歩く事が出来るくらいに成長していた。



 魔法も上達した……と思うのだが、俺には全くと言っていい程に魔法の知識が欠けていた。



 確かに、イメージすれば魔法を使える、使えるのだが、俺の住んでいるヴェロニア伯爵家には本が全く無いのだ。



 毎日の様に家を歩き回って探しているのだが、何故か見つからない。

 雇われているメイドやラーニャさんや両親に本を読みたいと言っても絵本しか貸してくれなかった。



 まあ、普通三歳の子供が魔法の本を貸して欲しいと思っているとは想像しないだろうし、仕方ないと言えば仕方ないのだが。



 少し前に書斎の様な場所を見つけてテンションがかなり上がったのだが、何故かそこには絵本しか無く、どこかの芸人の様に両手を床につけて一人、萎えていた。



 そして今日も本を探していたのだが、いつもと同様



「……と言うことで、魔王を倒した勇者様はお姫様と結婚しました。はい、おしまい。それにしてもユウ君は本が好きねぇ……」



 下の兄であるクルト・ヴェロニアと一緒に俺の寝室でラーニャさんに絵本の読み聞かせをしてもらっていた。



 俺が一縷の可能性があるはずと思い、性懲りもなくラーニャさんに「他の本読みたい!!」とせがんだせいだ。



 だが、意外にもこの子供向けの絵本が面白いのだ。魔王が味方になったりお姫様が敵になったりと……簡単に言うと内容が酷すぎて笑える。



 下の兄であるクルトは内容が理解できなくてつまらなかったのか、眠かったのかは知らないがラーニャさんが絵本を読み終わる頃にはぐっすりラーニャさんにもたれ掛かって寝ていた。



 ま、頭の出来が違うって事だ。

 出来の良い弟をもって不運だったな!! ははははは!!



 俺の隣で寝息を立てながら寝ているクルトは一見、純粋無垢な顔をしているのだが、実際はかなり我儘だ。

 自分が何をするにも優先される事は勿論、一番でないと決まってピー、ギャー、と喚き散らしている。将来、傲慢な人間にならなければいいんだが……




 そして今のままいくとクルトは将来、権力を笠に着る事しか出来ない豚貴族様にでもなるんじゃないか? と密かに思っていた。



 異世界に召喚されて早3年。

 ご飯、絵本、魔法の練習、寝るといった事を毎日飽きもせずに変わらない日常を俺ことユウ・ヴェロニアは送っていた。





 魔法の練習以外は面白くもなんともない怠惰な日常を送っていた俺であったが、遂に見つけたのだ。




  隠し部屋を。



 いやぁ、灯台もと暗しとはこの事だと思ったな。

 自分の寝ていた部屋の壁に忍者屋敷の様な隠し扉があったのだから。



 ちなみに、見つけた理由は魔法の練習をして疲れてしまったからと壁にもたれ掛かった時に偶々見つけた。




 そんな経緯あって隠し部屋を見つけた後、足を踏み入れた俺だったのだが、中は物置部屋だった。



 一人で冒険気分を味わおうとしていた為、悲しさは倍増した。

 かなりショックを受けていた俺だったが、暇潰しにと物置部屋で物珍しい物を探しているとなんと本を見つけたのだ。

 長年待ち望んでいたマトモな本との対面に俺は目の色を変えて喜んだ。




 怠惰な日常を送っていた俺に、本を読まないという選択肢は存在しないので、手当たり次第にその日から読むことにした。

前へ次へ目次