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36話 母親こそ最大の敵

「おい、ユウ。……なげぇよ……」



 ギルドを後にしてから10分程で洒落た看板を店頭に飾っていた雑貨屋に到着していた。

 そして雑貨屋に足を踏み入れて僅か30秒でアイテムボックスは選び終わったものの、かれこれ30分程リファへのお土産選びに費やしていた。



 選ぶ前はテンションが高かったギャズだが、ガラスのショーケースをうーん、うーん、と唸りながら悩む俺を5分程眺めてた辺りから面倒臭そうな表情を浮かべている。



「なぁ、折角金が沢山あるんだ。高そうな物をポンポンッと買って渡せば良いんじゃねーか?」



 雑貨屋に着くまでにオーガの魔石について話しており、俺が金貨を大量に手に入れていた事をギャズは知っていた。そして、その話の途中にフリシスが山分けの話を再度断ってきたのだが、馬車代やら今後もパーティーを組んで欲しい等と言葉を並べる事で受け取って貰えた。



 ま、初めての依頼で……といってもリザードマンを倒してはいないんだが、沢山金を手に入れてたらお金の大切さが分からなくなりそうで怖いからな。それに俺1人の力だけで手に入れてないし。



 ……ていうか、今の所持金でもう家買えんじゃね?




「五月蝿いですよ? ギャズさん。そんな事を言ってるからまだ独身なんですよ!! 好きな女の子に贈るプレゼントの為に何分も時間を費やすなんて健気じゃないですか」



 ギャズの案を全否定しながらも俺の行動に賛同しながらフリシスは助け船を出した。

 そして、それはレイラも同様なようで

 


「ホント、ギャズってば学ばないわねぇ……えっと……誰だったかしら……えっと、ほら、名前は忘れちゃったけど前に居た街のギルドで働いてた受付嬢!」



 呆れ口調で顎に右手をあてながら何かを思い起こしながら口を開いた。



「ちょ、マジでその話は止めろ……もう散々掘り返しまくった話じゃねぇか……何度俺のか弱い心を傷つければ気が済むんだよ……」



 急に気だるそうな表情からきまりが悪い、といった顔にさせながら懇願するがそんなギャズにはパーティーリーダーとしての威厳は一切無かった。 



「ねぇ、レイラさん。さっきから何話してるの?」



「ん? あぁ、えっとね、ギャズが1度ギルドの受付嬢にプロポーズをした事があってねぇ……何度も高い酒や花束を贈ってたんだけど……どんな返答されたと思う?」



 珍しい鉱石などがふんだんに使われた髪飾りなどが飾られていたガラスのショーケースを見詰めていた俺は興味深い話をしていたレイラに尋ね、そしてニヒルな笑みを浮かべながら彼女は俺に問い掛けた。




「うーん……ごめんなさい、とか?」



「惜しいわねぇ……正解は今までの贈り物を全部返され、挙げ句の果てに生理的に受け付けません。って言われたのよ……ふふっ、ふふふ……あ、やばい……思い出したら笑いが……ぷぷっ……」



 お土産がやっと決まった俺は店主がいた場所にまでアイテムボックスである黒色のポーチとガラスのショーケースに飾ってあったターコイズブルーのような色をした蝶の形をした髪飾りを持って行き、口を手で押さえながらも笑いを溢すレイラと受け答えをしながら会計を済ませていた。



「うっさいわ!! お前らが掘り返さなかったら1日で忘れれたものを……いいか、ユウ。人生の先輩から為になるアドバイスだ。男にはな、娼館というそれはもう嫌な事なんか綺麗サッパリ忘れられる素晴らしい痛ッ!!」



「子供に変な事を教えるな馬鹿」



 レイラの笑い声を掻き消すかのようにギャズが叫び散らす。

 そして直ぐ様、悟ったような表情に一瞬で変えてから俺に視線を移して口を開くが言い終わる前に先程まで調味料を真剣な表情で見詰めていたラクスに頭を叩かれていた。



「クズね」



「クズですね」



 そして追い討ちをかけるかのようにレイラとフリシスから蔑むような視線で射貫かれつつ、罵倒を浴びせられる羽目となっていた。




「ふぅ、お待たせ。お土産買ってきたよ。あ、そうそう、もう時間的に家へ帰らなくちゃいけないんだ……で、もし良ければだけど明日もパーティーを」



 頭を擦るギャズを見事にスルーしながらも俺は性格にちょっと難があるお姉さんに預けていたヴェロニア伯爵家の家紋が刺繍された豪奢な服とリファへのお土産、そして山分けした金貨を購入したばかりの黒いポーチに仕舞いながら残念そうな表情を浮かべ、口を開く。



 すると、言葉を遮るようにレイラから1枚の紙を手渡された。



「ん? これは……?」



「私達の泊まってる宿の名前よ。今日、会った時間帯ならギルドに居ると思うんだけど一応……ね。宿に訪ねた時は“ノーネーム”を呼んで来てくれって言って貰えれば大丈夫な筈よ……また明日ね。ユウ君」



 よく分からない物を渡され、首を傾げていると笑みを漏らしながらレイラが答えた。

 そしてそれに続くようにフリシスにラクス。そして叩かれた部分を手で擦りながらギャズまでも笑みを向けてきた。



「……明日こそリザードマン倒そうねッ!」



 朝は口を聞いてもらえない程に嫌われていたのだが、こうして仲良くなれた事に感慨深く感じながらも笑みを溢しながら雑貨屋を後にする。



 そして、シンボルマークのような時計台に視線を移しながら呟いた。



「今の時刻は4時前。これなら帰り道、魔物と遭遇したとしても夕食の6時までには余裕で着く筈だ。5時に出てもギリギリ間に合うけどリファとの時間が懸かってる。よって5分前行動ならぬ1時間前行動ッ!! 流石俺ッ! 完璧!!」



 俺はリファへのお土産が入った黒いポーチを大事そうに抱えながら家に向かって駆け出した。






◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






「ユウ、遅かったわね。もう夕食の時間過ぎてるわよ」



「へ? あはは、ちゃんと時計を見てよ。まだ5時だよ? そんな見え透いた嘘は止めて欲しいなぁ」



 屋敷といって差し支えのない家に帰宅……いや、門の前に着くと母上であるルル・ヴェロニアがそこに立ち尽くしていた。



 黄昏時。

 日は真上から遠退いており、茜色に照らす日差しによって目の前の自宅は影絵のように黒ずんでいた。



 そして門の近くに存在する小さな時計台に視線を移しながらただいまー、となに食わぬ顔で中に入ろうとしたところで母上に捕まってしまっていた。



「あー、えっとね、今日は珍しくライオスの執務が早く終わって夕食の時間を早くしようかって事になったのよ」



「……は、ははは。作り話も程々にしてくれないかなぁ……」



 淡々とまるで事実かのように口にする母上に乾いた笑いでしか返せなくなっていた。

 そして母上からは料理の香ばしい匂いが漂っており、信憑性は超高かった。



 演技派貴族である俺を騙す為にと色々と手間暇掛けちゃったんですね、はい、分かります!



 てか、ライオス絡みかよ……あの親父、マジでろくな事しねぇな……あ、いや、まだ俺は認めてないぞ、そんな事実は!!



 往生際の悪い俺は何とかこの状況を打破できないかと頭を悩ませていたが、玄関から天使の叫び声が聞こえてきた為、視線を瞬時に母上から玄関に移した。





「あっ、ユウお帰り! 母様にユウはもうご飯を食べたみたいだから先に食べなさいって言われたから父様達と食べたけど、どこに行ってたの?」




 屈託のない笑みを浮かべながら尋ねてくる天使ことリファの口元にはちょこんと可愛らしくもケチャップがついており、それが母上の言葉は本当だ、と物語っていた。



 病人生活の際に散々こき使った事を根にもっていたのか、たまには痛い目をみろと言わんばかりの笑みを俺に向けていた。



 こんの、ババア……わざと夕食の時間早めやがったな……




 そして俺は前に倒れ込むように崩れ落ち、地面に両手をつきながら嘆いた。




「……ちっくしょおおおおおおおぉぉ!!」




200万PV突破。

有難うございます(´つω `)

誤字、脱字等あれば御指摘お願いしますm(__)m



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