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34話 やけ麦茶

 ギャズ達に見送られながらセントリアへ駆け出した俺とフリシスはものの数分で街の入り口――門番の居る場所へとたどり着いていた。



 以前は堅苦しいヴェロニア家の刺繍が入った服を着ていたが、今回はちょっと性格に難があるお姉さんに頂いたEランクの銀色に染まったギルドカードを所持している。



 その為、懐に仕舞っていたギルドカードを取り出し、門番の男が見えるように提示した。

 続くようにフリシスも自身のギルドカードを提示する。彼女が取り出したカードの色は青。ギャズのランクはB+で赤色のギルドカードだった事を考えると恐らくランクBが青色なんだろう。



 提示して数秒後。

 門番をしていた男が「通っていいぞ」と言った事を確認してからセントリアに足を踏み入れた。




 街のシンボルマークともいえる大きく聳え立っている時計台。

 そこに備わっていた3、6、9、12の4つの数字のみ存在し、その上短針しかない少し不便にも感じる時計は丁度12辺りを指していた。

  


 お昼時。

 辺りは出店のような形で食べ物を売っていた屋台が繁盛しており、人の会話や美味しそうな匂いが辺りを飛び交っていた。




「えっと……換金ってどこでするの?」



 フリシスを見上げながら街の賑わいに声が掻き消されないようにと少々声を大きく発して尋ねた。

 未だに手を繋いでおり、傍から見れば仲の良い姉弟に見えている事だろう。



「換金をする場所はギルドの隣にあるんだけど……あぁ、あったあった。あれだよ」



 前方を歩いていた人が邪魔で見えなかったのか、首を右左に傾けたりしながら指差す。

 俺は背が小さかった事が幸いし、人と人の隙間からフリシスが指差した場所を遮るもの無く確認する事が出来ていた。



 そこには敢えて目立つように色々と外観に工夫が施されていたギルドとは違ってこじんまりとしていた建物が存在していた。



 俺は換金所を視認すると同時に目を爛々と輝かせながら急き立てた。



「へぇ……始めてセントリアに来たときは気づかなかったや……ま、それより早く行こう?」

 


 そう言うと同時に歩くスピードを早め、行き交う人と人の間を縫うかのように先へ進んで行き、そして結果的に再度手を引かれていたフリシスは俺を案ずる言葉を漏らしながらも追随していた。



「ちょっと、そんなに急ぐと危ないから!!」




◆◇◆◇◆◇◆◇




 換金所。

 正式な名前は全く知らないが、ギルドの丁度隣に位置していた。

 建物の目の前にまでやって来た俺は木目が目立った木造の扉を押し開け、中へと足を踏み入れた。




 扉の先には職員と思しき人物が3人程カウンター越しに忙しなく働いていた。

 冒険者らしき人達も数人程カウンターの前でなにやら作業をしており、俺はそんな光景を田舎者のようにキョロキョロと見回していた。



「ユウ、おいで。こっちだよ」 



 先程までとは逆転し、フリシスが俺の手を引くようにして一番部屋の奥にいた男の職員の下へと誘導された。



「おっ、フリシスちゃんじゃねーか。今日は……ん? 見慣れない子供を連れてるけど2人だけかい?」



 丁度、先程までいた冒険者が退いた事で待ち時間0で順番となった。

 齢40程の少々老け込んでいた男性がフリシスに笑みを漏らしながら声を掛ける。



 緑と白が基調となった少々ダサく感じる服を着ていた。

 だが、他の職員達も着用していたので恐らくそれが制服なのだろう。



「こんにちは、へリーさん。今日はユウ……この男の子と2人だけですよ。もしかしてギャズさんに用でもありました?」



「いんや、ただ聞いてみただけだ。で、今日は何を持ってきたんだ?」



 へリーと呼ばれた男は人当たりの良さそうな口調で他愛のない話をした後、カウンターから銀色のトレーを取り出して目の前にガタン、と音を立たせながら置いた。



「今日はオーガの魔石を持ってきていて……多分、そのトレーじゃ入りきらないと思うのでもう一回り大きめのトレーを出して貰って良いですか?」




「んぁっ!? そんなにあるのか? すまん、すまん。よっ……と、これなら大丈夫だろ。ところで、そのオーガは誰が倒したんだ? オーガ殺しには定評があるレイラか? それともやっぱりギャズか?」




 先程まで出していたトレーを引っ込めて縦1m、横1m程の正方形となっていた銀色のトレーを先程まで出していたトレーの代わりにカウンターの下から取り出した。




「今回はかなり多くて……あ、倒したのはここにいるユウですよ」



 そう言いながらフリシスは持っていたアイテムボックスであるポーチから直径15cm程の魔石をトレーの中に置いていく。



「ん? あぁ、そうそう、僕だよ! 僕が倒したんだよ!」



「おっ、坊主が倒したのか! そりゃスゲェな……で、フリシスちゃん。本当は誰が倒したんだ?」 



 話題を振られ、有りの儘の事を話した俺は目の前の職員――へリーに褒められるのだが、彼は再びフリシスに問いかけた。



 あ、あんにゃろ……ぜってぇ信じてねぇな……

 


「え? いや、だからユウが「あー、いい、いい。そういうのは良いからさ、誰がこんだけの量のオーガを倒したのか早く教えてくれよ」」




 恐らくへリーは俺がオーガを倒すのに何らかの貢献をし、フリシスが顔を立てている。と思っているのだろう。



 聞こえないようにと小声で話してるつもりかも知れんが、聞こえてるからな!! ばっちり聞こえてっからな!! 



 何とかして目の前のへリーに信じて貰おうと再度声を上げるが



「だから僕がたお「そう渋るなって……だが、凄いなこの量。数えちゃいるがもう103個目だぞ。どんだけ溜め込んでたんだ? ギャズかレイラかは知らねぇがスゲェな」」



 俺の声を遮って感嘆の声を上げた。

 だが、それでも挫けずに声を上げるものの、



「何度も言ってるけど僕が「ん? もう終わりか? 124個かぁ……オーガの魔石が1つ金貨5枚だから……うはぁ、俺達の給料何年分だよこれ……ちょっと待ってろ重いだろうし2つに分けて渡してやるよ」」



 フリシスが「もう無いです」と言ったと同時にへリーが声を上げ、又しても遮った。

 そして、トレーを抱えながら奥に引っ込み、金貨の入った袋を2つ持って戻ってきた。




「うー……よいしょっと、オーガの魔石124個だから締めて金貨620枚だ。白金貨に替えても良かったんだが、金貨の方が4人パーティーのフリシスちゃんとこは何かと便利だろ? ところで坊主、さっきから何か言ってなかったか?」




「…………何でもないです。あぁ、フリシス。それ、半分フリシスのだからね。後でアイテムボックスを買うつもりなんだけど、それまで僕の分を預かっておいてくれないかな……あ、無一文は何かと不便だし、10枚だけ貰ってくよ……」 



 へリーがカウンターに置いた金貨が入った頑丈そうな袋から10枚程金貨を取り出し、残りを押しつけるようにして肩を落としながら換金所を後にした。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





「うわああああぁ!! くっそぅ!! もうやってらんねぇよ!! やけ麦茶だ、やけ麦茶!! おーい!! 麦茶1杯持ってこーい!! あ、ジョッキで」




 直ぐ隣のギルドへ向かった俺は空いていた椅子にドカッと腰を下ろし、憂さ晴らしのように叫び散らしていた。ギルドは依頼を受ける事が出来る上、酒場の役割も果たしていた。




 注文して数秒すると少々性格に難がある受付嬢がジョッキに入った麦茶を運んできた。



「あれぇ? お姉さん美人だねえ!! どうだい? 今から麦茶で1杯やんない?」


 

 未だギャズ達が居なかったからか、誰かに愚痴を聞いてもらいたくなっていた俺は嘘八百を並べ、受付嬢のお姉さんを麦茶の乾杯に誘っていた。



「……麦茶かよ。いえ、結構です。お世辞でも嬉しかったわ。ありがとね」



「え!? どうしてお世辞って分かったの!? 凄いねお姉さん!!」



 うんざりしたような表情で丁重に断ってきた受付嬢が発した「お世辞でも」という言葉に驚いた俺は本音を無意識のうちにぶっちゃけていた。



「そんなにキレちゃだめだよ? まずは性格から直していこう!! 行き遅れには注意しないとね!! ゲホォッ!!」



 「あ゛あ゛?」と女性らしくない声を上げた受付嬢に俺は的確なアドバイスをするが、何故か故意的に足を引っ掛けられ、床に頭からダイブした。



 そして直後、ギルドに入ってきたフリシスに「……なにしてるの?」と呆れた声を浴びせられる羽目となった。





遅れましたが、皆様のお陰で日間1位となれました。

有難うございました(´ ; ω ;`)

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