33話 換金へ
「絶対許さん……呪ってやる……お望み通り呪ってやるぞ……」
シュグァリに蹴り落とされた俺は崖の底に落ちた時と同様に《身体強化》を使用し、下方に向かって《強風》を発動させる事で特に目立った外傷を作る事無く、着地した。
だが、精神面では大ダメージを食らっており、人知れず先程味わった浮遊感に苛まれながらも毒づいていた。しかし、異世界補正なのかそこまで辛くはなく、たまに目眩がする程度だった。
実は先に地上へ降りていたレイラさんが何やら、風魔法のようなものを着地する際に怪我をしないようにと展開しておいてくれていたらしいのだがその効果領域に入る前に《強風》を発動させた為に好意を見事、無にしていた。
「呪ってやるって言ってもさ、魔人って呪えるの? 逆に呪われたりしない?」
着地をした直後、俺を待っていたギャズ達は街に戻る準備を済ましていた。
馬が失った今、当初の予定であったリザードマン討伐は移動手段の関係で不可能となっていた。
よって何をするにせよ一度街に戻る必要があった。そして今からは来た道をただ歩いて戻るだけなので重い鎧等を手持ちのアイテムボックスに収納し、軽装へと着替えていた。
街まで凡そ3km。
そして時刻は日が丁度真上に移動していた事から昼時と考えていいだろう。
その為、別段急ぐ理由も無かったのでベラベラと会話をしながらセントリアへ向かっていた。
そして怨念のような俺の呟きを聞き取ったフリシスが誰でも思いそうな疑問を口にし、それに対してどこか自信に満ちたような声音で返答する。
「あはは、大丈夫、大丈夫。あんな脳筋に呪いなんてムリムリ。3度の飯より殴り合い、って思ってるような奴だよ? そんな事は杞憂、杞憂」
「そ、そう? ならいいんだけど……」
フリシスの言葉を笑い飛ばし、本人が居ない事を良いことにシュグァリを馬鹿にしていた。
そんな能天気な俺を見てもまだ愁いのようなものがあるのか、怪訝な顔をしていた。
「おい、ユウ!! えっと……あれだ。そう、オーガだ、オーガ。崖の底でオーガの魔石を手に入れたんだろ? 俺らはゆっくりセントリアに向かうがユウは先に向かって換金してきたらどうだ? ……あぁ、案内役にフリシスを連れていっていいぞ。1人で行っても場所が分からないだろうしな」
ふと、思い出したかのようにギャズが俺に向かって声を掛けてくる。
彼の周りにいたラクスやレイラも微笑む事で「行ってきたら」といった意を示しており、朝の時とは違って警戒心が何故か緩和していた。
そしてそんな提案を聞いた俺は
「んー、そうだね。折角だし、換金してくるよ!! そうと決まれば……ほら、フリシス行くよ? 早く早く!」
異世界での年齢相応の無邪気さを顔に浮かばせながら適当に聞き流していたフリシスの右手を取り、引っ張るようにして街に向かって駆け出した。
「ちょっと、待って! 早い、早いよユウ!!」
まだ低身長だった俺に手を引かれていたフリシスは自動的に屈む事となり、つんのめりそうになりながらもギャズの図太い声に見送られ、俺達は換金をする場所へと向かった。
「おーい!! 言い忘れてたがギルドに集合だぞ!! 集合場所間違えんじゃねーぞ!!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「行った……か」
フリシス達の小さくなっていく背中を笑いながら目で追っていたギャズは小さく呟いた。
「なぁ、ラクス……お前から見てユウは……どう映った?」
先程までのふざけたような調子を潜め、真剣な表情でツーブロックの髪型をした男――ラクスに尋ねた。
「どう映った……か。ま、危険な奴だなぁと思ったよ。魔人と対等……とまではいかないな。あいつビビってたもんな、くくっ……まあ、あの関係ははっきり言って異常だ」
ラクスは10分程前に崖の底で魔人相手に乾いた笑いを漏らしながらへっぴり腰になっていた少年を思い出しながら笑みを溢す。
「ラクスが笑うなんて珍しいな……」
ギャズがそう呟きながらラクスに視線を移すと、ばつが悪そうな顔へと徐々に変わって行く。
「ふんっ、俺だって人間なんだ。そりゃ笑うさ。ま、危険な奴だが……悪い奴ではないと思う。少なくとも現時点では、の話だがな」
「そうか、そうか……レイラ、お前はどう思った?」
「ラクスと大体同じよ。私の思ってる事は粗方予想できてたんでしょう? フリシスが楽しそうにしてる時点で私は賛成よ」
レイラは手に持っていた1m程の宝石が所々に埋め込まれた杖を眺めながら淡々と答える。
そしてその答えを聞いたギャズは意地の悪そうな笑みを浮かべ、再度問う。
「賛成だぁ? 何の話だ? レイラ」
「はぁ、あくまでも惚けるのね……ま、いいわ。2回は言わないから。ラクスに関してはもう少し時間がいるでしょうが、フリシスは……聞くまでもないでしょう」
「かははっ、それもそうだ。……もう迫ってきてるが……まだ時間はある……
――待ってろアーヴィ。今度こそ絶対……絶対、助けてやるからな」
何かを決意したかのようなギャズの呟きはラクスとレイラの耳へと届く。
そして静寂が周囲を包み込んだ。
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