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31話 脱出

「へぇ……火竜ねぇ……ま、不運だったな。……いや、俺との再会があったんだ幸運かもしれねぇな!!」



 俺は戦闘馬鹿であるシュグァリに火竜にブレスを吐かれて崖の底に転落し、今の今までの経緯を掻い摘まんで話し、労いのお言葉を頂いていた。



 幸運? 不運? そんな事はよく分からんが1つだけ言える事があるな……今日は……厄日だったわ。



「あはは……そうかもしれないね。でさ、シュグァリ。ここから地上へ戻る方法ってないかな? 早く帰りたくてね」

 


「ん? 地上に戻りてぇのか? ……ま、俺らも少し後に戻る予定だったしな……おい、パミエラ!! 風竜を喚べ。地上に戻んぞ」



 殺し合いをしないと聞いてからというもの、俺は作り笑いを止め、異様に警戒していたギャズ達に変わって地上への帰り方を知っていそうなシュグァリに尋ねていた。



 そしてそれを聞くと女魔人――パミエラへ視線を移し、シュグァリは顎で指示を出した。



「……はぁ、分かりましたよシュグァリさん。本当は人間なんかを乗せたくは無いんですけどね……ま、シュグァリさんが認めてる子供の実力は私も認めてますし、あの子を乗せる事には抵抗が無いんですけど……」



 渋々といった様子で愚痴を吐き捨てながら懐から液体を保存する水筒のような物を取り出し、蓋を開けようと捻ろうとしていたのだがそれにストップをかけるように俺が声を掛けた。



「あ、あの!! お姉さん、もしかしてドラゴンの背中に乗ってここから脱出……とかじゃないですよね?」



「勿論、そうですけど?」



 恐る恐るといった調子で尋ねると間髪容れずに当然ですが? といった表情をさせたパミエラから返答が返ってきた。

 


 え? ちょっと待ってよ。

 俺、観覧車も乗れない程のビビりなんだけど!! 



 もうね、ジェットコースターなんて論外。

 無理矢理、前世の姉である美月に乗せられた事があったが、あの浮遊感が2日くらいリフレインしちゃって月、火と学校を休む羽目になり見事、4連休をゲットした程の筋金入りなんだよ!?



 ドラゴンに乗るってぶっちゃけジェットコースターの安全装置無いバージョンだよね? 何? 俺に死ねと?



「……え? ……いやいやいや、そんな事をするなんて危険過ぎますって!! 振り落とされたらどうするんですか!! 僕は高所恐怖症な……いえ、なんでもないです。何にせよ、ドラゴンに乗るくらいならこの崖を駆け登りましょう。出来る出来ないじゃない!! やるんです!!」



 ドラゴンに乗る、と聞いた瞬間、俺はなんとかしてそれを避けようと必死の形相で説得を始めた。

 そんな事をする俺の額には異常な程に汗が垂れ、膝が心做しか笑っていた。



 そして俺の言わんとする事を分かったのか、わざとらしく咳き込んでから俺にだけ聞こえるように耳元近くにまで近寄り、言葉を漏らした。



「あー、ゴホンッ、ドラゴンに乗れる男性って格好良いと思いますよ? ほら、1ヶ月前貴方が守った女性の方々もドラゴンに乗れる男性の方が好きな筈です…………恐らく」



 1ヶ月前の殺し合いの現場にいたパミエラは俺がフェレナとリファを守る為にシュグァリと対峙した事を知っており、俺の行動からどちらかに気があると汲み取ったのだろう。面倒臭くもドラゴンに乗る事を反対する俺を黙らせる事が出来るかな、とダメ元で発した言葉だったんだろうが……効果は絶大だ。



 え? リファはドラゴンに乗れる男が好きなのか!? なんだそれ!? 初耳だぞ!! ……いや、待てよ、確かにドラゴンに乗ってる男は確かに格好良いかもしれん……り、リファ好みの男性に少しでも……少しでも近づけるのなら……




 様々な考えが巡り、数秒程悩んだ結果、俺は1つの答えを出した。



「……え? 何? ドラゴン? あっはっは、余裕過ぎるんですけど? あー、もうね、2、3回くらい今までにもう乗っちゃったかなー? もう得意中の得意。え? もしかして乗れない人とか居るの? うわぁ、もし僕がそんな人だったなら恥ずかし過ぎて切腹しちゃうね!! ホント、股間にちゃんとアレついてるんですかねぇ? ま、ついてないんでしょうね!! あっはっはっはっは!!」



 自分の事を棚にあげながら腹を抱えて笑い、見栄を張りまくった俺はドラゴンに乗る事を決意した。

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