29話 1ヶ月振り
「おーい!! ギャズ!! こっち、こっち!!」
少し大きめのランプを囲うようにして腰を地面に下ろし、フリシスと俺を除いた残りの3人で話し合っていた彼らを発見した俺は幼い子供特有の少し甲高いソプラノボイスを響かせ、こちらの場所を知らせた。
「んぁ? ……ってユウ!! それにフリシスも無事だったか!!」
俺が声を掛けると声はどこから発せられたのかとギャズが右左に首を振り、数秒後、気づくと安堵しながら返事を返すがそれよりも先に此方へと駆け寄ってくる人がいた――フリシスが“レイラ”と呼んでいた女性だ。
燃えている、そう思ってしまう程に目立っていた赤い色の髪を肩辺りで綺麗に切り揃え、海を想起させるかのような碧い色の眼を持った齢20過ぎの女性だった。
装備していた革製の鎧には特にこれといった新しい汚れなどもない事から、崖の底に着地に成功し、魔物にまだ襲われていなかった。という事が窺える。
「フリシス!! 大丈夫!? 心配したのよ!? ……あっ、こんなにも足が腫れて……待ってて。直ぐ治療するから」
右足を浮かせながら俺の肩に体重を掛けながら歩くフリシスを目にしたレイラは彼女の前で屈み、腫れていた場所に手をかざす。そして「癒せ」と小さく呟いた瞬間、フリシスの痛々しく腫れ上がっていた右足が薄緑を含んだ光に包まれ、数秒後、光が霧散すると共に腫れが消えていった。
「あ、ありがとうレイラさん。楽になっ「フリシス!! 貴女……偉いわねぇ……あんなにも毛嫌いしてた貴族を守るなんて……」」
治癒魔法を掛けて貰った事にフリシスがお礼の言葉を掛けていると、その言葉を遮って目元に涙を浮かべ、俺を睥睨しながらレイラは彼女を褒め称えた。
恐らく、フリシスが無力な俺を守り、その時に負傷したと思っているのだろう。
……あぁ、成る程。フリシスは貴族が嫌いだったのか……。よく考えてみれば一応俺、10歳だし、「可愛いー!!」なんてもてはやされても可笑しくなかった筈なのに凄い嫌われっぷりだったからな……
「れ、レイラさん、違うの!! ユウは私を助けてくれたんだよ!! 寧ろ私が足手まといだったの!!」
「ゆ、ユウ!? どうしたのフリシス!! 子供と言えど貴族を名前で呼ぶなんて……もしかして頭でも打ったの!? 待っててね、今すぐ治癒魔法掛けるから「あ、レイラさん。心配しなくてもフリシスは頭打ってないよ?」ふ……フリシスぅ!?」
フリシスがレイラの発言を訂正するがそこではなく、俺の名前を呼んだという事に食いつき、驚愕に表情を染めながらレイラは慌てて再び治癒魔法を掛けようとしていたのだが、フリシスは頭を打っていなかったのでその必要はないと俺が教えた直後、これまた名前に食いついた。
騒がしい人だなぁ……
「おい! 五月蝿いぞレイラ。状況把握出来ねぇから一旦大人しくしてろ……」
事態の収拾がつかなくなっていたが、原因であったレイラを呆れながらもギャズが制止した事で困り果てていたフリシスが安堵のため息を漏らした。
そして興奮気味だったレイラを静かにさせたギャズはフリシスの下へと歩み寄り、質問を投げ掛けてきた。
「なぁ、フリシス。ユウが全身血まみれ。そしてお前は足の負傷……何があった?」
「えっと……足は皆と同様、崖の底に投げ出された後、着地するのを失敗した時に。で……ユウは……信じて貰えないかもしれないけどオーガを何体も殺した時についた返り血だよ。……あ、魔石がこの中にあるから確認してもらえれば……」
フリシスは俺から歩いている途中に返して貰った赤のポーチをギャズに差し出すが、彼はそれを右の掌を突き出して要らないと伝え、直後、口を開いた。
「あー……成る程、成る程。大体の事情は把握した。オーガを殺したってのは信じがたいが、大方ユウがフリシスを助けでもしたんだろ。ま、そんな事でもなきゃ、お前が貴族の肩を借りるなんて事はないだろうからな」
ギャズは顎辺りに生えていた自身の無精髭を右手の親指で擦ったりしながらも俺とフリシスを見比べ、数秒程度で笑みを漏らしながら己の推論を口にした。
そしてそれに続くかのようにギャズのパーティーメンバーであるツーブロックの髪型をした男性が口を開いた。
「あー、そゆことね。要するに、いつも貴族をあんなに嫌ってたフリシスちゃんは1度助けられたくらいで私怨なんかも吹っ飛んじゃうチョロイ女だったってわけか」
「誰がチョロイ女だ!! あのね、私はただ自分の価値観をこんな子供にまで当て嵌めるのは可笑しい、馬鹿らしいって思っただけ!! それに私利私欲の為に他者から奪い、時には殺すような糞豚貴族とユウは違う!!」
へらへらと人を食ったような口調で話す男の言葉に対し、フリシスは憤りを表情に隠す事なく浮かばせながら男の言葉を全否定する。
「ふーん……違う……ねぇ……会って数時間程度。そんな相手の何を知ってるんだか……」
「おい、ラクス止めろ。相手は子供だぞ……それに自分が大好きな貴族なら今頃、全ての責任を俺達に押し付けて喚き散らしてる頃だろ。疑い深すぎる、そこがお前の良い所であり悪い所だ。たまにゃ、信じてみろ。ま、折角フリシスが心を開いてるんだ。年長者らしく今を見守ってやろうぜ」
フリシスが否定しても尚、ツーブロックの男――ラクスは俺に訝しむような視線を送りながら口を開いているとギャズが呆れ口調で彼女に加勢するかのように意見を否定し、その後に唇の端を吊り上げながら値踏みするかのような視線を俺に這わせ、誰にも聞こえないような小さな声で「見守ってると何か面白そうな事を見れる気がするしな」と呟いていた。
「あー……そういえばまだ言ってなかったな。フリシスにユウ。あそこに洞窟が見えるだろ? 俺らはあれが出口に繋がってるような気がしててな。行こうかどうしようかと話し合っていたんだが、お前らが俺らを捜して彷徨いてるかもしれないからと行こうにも行けず、頭を悩ませてたんだ。だが、こうして再会……んぁ? 何が起こった?」
ラクスの発言にて不機嫌になっていたフリシスと全員の視線が集まったりした事で人慣れをしておらず、1人おどおどしていた俺に分かるように洞窟のような場所を指差す。
そして先程までの会話内容を教えてくれていたのだが突如、指を差していた洞窟の入り口付近で爆発が起き、それと同時に――ドゴァォンと爆音のような音が響き渡る。
辺りが土煙に包まれるが直後、急な爆音によって俺含むギャズ達が黙りこんだ事で爆発をさせたであろう人物達の会話が響き渡る。
「はぁ……入り口が小さいからって普通壊しますか? シュグァリさん」
「うっせぇな、入り口が狭すぎるのが悪いんだ。断じて俺は悪くねぇ……ってお前……ユウか!?」
洞窟の入り口近くを眺めていると見覚えのあるような紫色の人影を発見し、確認するかのように注意深く目を凝らしていると紫色の人影の正体であったシュグァリと目がバッチリあってしまい、俺は1ヶ月振りに再会を果たしてしまった。
PV10万突破(´ ; ω ;`)
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