前へ次へ
3/60

2話 初めての魔法

 ――――――――――生まれてから五ヶ月が経った




 生後三ヶ月辺りで首がすわっていた為か、最近やっとハイハイが出来るようになっていた。

 そしてそれと時同じくして睡眠欲が以前よりも薄れ、睡眠に左右されにくくなっている。

 


 俺は折角、異世界で生を得たという事で魔法を使えるようになろうと現在、試行錯誤中だ。




 まあ、流石人間の三大欲求といったところか、急に睡魔に襲われたりお腹が運動してもないのに空いたりと五ヶ月経つまでは魔法どころではなく「よし、魔法についてちょっと考えようかな!」と思った5分後には睡眠タイムに突入。等といった始末だった。



 くぅぅ……




 これでも俺は前世で異世界のことについて書かれたライトノベルなんかを何度か読んだことがある。

 魔法に必要なのはイメージだと。




 ふふっ……ふははははははは!!!

 今日から始まるぜ。俺のチート無双異世界ライフがな!!




 こんな言葉を知っているだろうか。

 [思い立ったが吉日]という言葉を。



 そうと決まれば体を起き上がらせて今すぐ実行。

 だが、頭は17歳だが体は五ヶ月の赤ん坊。流石に言葉をペラペラ喋る事は無理なのでイメージオンリーだ。



 では、早速……



 えーっと……指先に火が出てくる感じで………おりゃあ!!



 ………………………………



 ………い、イメージだけで魔法が出来るなんて思ってなかったからな……こんなのは、まだまだ序の口よ!!




 ……くそッ!!

 やはりイメージだけでは無理があったか。

 ……そうだ。名称だよ、名称。魔法を使うときには名称を言うっていうのはお決まりじゃないか。



 物は試しだよな!! 試しだから痛い台詞を言うのも仕方ないんだよ。

 うん、そうだ。仕方ない、仕方ない。




 そうと決まれば……もう一度指先に火が出てくるイメージで………《灯火》!!



 …………………………………



 あっれぇ?

 魔法なんで発動しないの?

 イメージだけでは無理なのか? はっ! もしや俺には魔法の才が無い……のか?



 いやいやいや、転生したくせに魔法が使えないとかどんな罰ゲームだよ。ホント。

 くそぅ、仕方ない。



 こういう時の事を背に腹はかえられない状況って言うんだろう。



 ああ、いいさ。考えてやろうじゃないか!! ……中二病台詞をな!!

 こうなったらやけくそだよ、やけくそ。




 えっと、指先に火が出るイメージを持ちつつ……

(火よ、灯れよ灯れ。我の前を照らす光となれ!! 《灯火》)



 痛い台詞を頭で考え終わると右手の人差し指に小さく火が灯る。



 うぉっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!!

 見たか!! これが無駄に前世でゲームをやりまくっていた実力よ。もうこれ大人になった時には賢者とかって呼ばれるんじゃね?



 まぁ、俺は慢心なんてしないし? 魔法上達の道一直線だな!!




 


 ………ていうかいつまで火が出てるんだよ。

 あー、そろそろ消えていいよ? ていうか消えて。



 ……………………



 あれ? 消えないんだけど……解除! 消えろ! 消えて下さい!



 ……これヤバくね……ていうかなんで火なんか使ったんだよ数分前の俺!!

 水とかで良かったじゃん!! 火とか使うと二酸化炭素プンプン出ちゃうよ! 地球に優しくいこうよ! ………あ、ここ異世界でした☆



 冗談抜きでヤバイぞ。

 火が灯り続けているからかなんか段々気だるくなってるし。

 このまま火が出たまま意識失ってバタンキューしてしまったら間違いなく火がベットに移り俺は御陀仏コース一直線だ。生後五ヶ月で死ぬとか洒落にならん。



 ならばどうするか? 



 水だ。水を出すべし。

 えっと……水を出すなら…



(水よ。我が手に集まり、塊となりて現れよ!《水球》)



 野球ボール位の小さい水の塊が右手に現れ、程無く人差し指に灯る火が水の塊によって消える。



 ふぅ、危なかったぁ。安心したからか脱力感と気だるさがや……ば……い……




 そう思いながらベッドに座っていた俺は前に突っ伏すように倒れた。

 そして視界がブラックアウトした。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「あらあら、派手におねしょしちゃって……ユウ君のベットがびちゃびちゃだわ………って少しおねしょの量、多くないかしら」



 水球を使った後、意識を失ってしまっていた俺はラーニャさんが水球の後処理をしてくれている最中に意識を取り戻した。



 ラーニャさんはおねしょだと思っているが、まぁそれは仕方ないだろう。

 五ヶ月の赤ん坊が魔法使う、なんて考える人が居るとは思えないからラーニャさんのおねしょと判断することは普通なんだが……普通なんだが!! あの慈愛に満ちた笑顔は何故か心にグサグサくる!!



 下半身辺りをみるとバケツの水でも溢したんじゃないのか? と思えるほどビショビショになったベットが視界に飛び込んできた。




 待て待て待て。

 流石に赤ん坊のお漏らしの範囲越えてるだろう。

 ていうかこの状況を1秒でも早く打開せねば。

 このままいくと……あれだ。俺が大きくなった時に「ユウ君も赤ん坊の頃にはすっごい大量のお漏らしをしてたものよ」なんて発言してるラーニャさんが容易に想像できる。



 そしてそんな事を言われた俺は「ま……魔法を使ったからだ!」なんて言って生暖かい目で見られるのだろう。



 ……………耐えられねぇ!!



 何か打開策を!! 打開策……打開策………お、思いつかねぇ。

 将来、ラーニャさんに弄られるかもしれないが甘んじて受け入れるしかないのか……




 最近、側室であるラーニャさんが何故俺の世話を? 仮にも伯爵家なんだしメイドと呼ばれる人はいるだろうに。と、不思議に思ったりよくしていたが最近やっと理由が分かった。ラーニャさんは大の子供好きでメイドが手伝うといっても自分がやると言って聞かなかったらしい。




 ……今度、水球の罪滅ぼしも兼ねて子供っぽく甘えよう。そう密かに俺は決めていた。






前へ次へ目次