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27話 近づく距離

「あー、えっと……大丈夫?」


 使用していた黒焔の出力を辺りが見渡せる最低限度にまで下げ、投擲した小太刀をオーガの顔から抜き取りながらも愕然としていた弓使いの女性に可愛らしく首を傾げながら声を掛けた。




 だが、可愛らしいのは仕草だけで顔や手、服といった至るところに返り血が飛び散っており、全くもって可愛くない。寧ろ暗闇の中、炎に照らされる血だらけの少年なんてホラーだ。 



「あ……うん……」



 弓使いの女性は目を瞬かせながら周囲を確認するかのように何度も見回していたが、俺が声を掛けてきた事に気がつくと愕然としながらも返答をした。



「ねぇ、お姉さん。アイテムボックスとか持ってない? いっぱいオーガの魔石が転がってるからさ」



 そう言いながらそこら中に出来上がった血溜まりに視線を移し、そこに浮いていた赤く光る魔石を指差した。



 魔物からは基本、素材と魔石を取得する事が出来る。

 勿論、素材は先程の黒焔で焦げてしまい、灰となっていたが魔石は傷1つついていなかった。

 魔石は魔法攻撃では損傷する事はなく、その為、焼き殺したオーガの数だけ転がっていた。




 そして、冒険者は大体の人がアイテムボックスを持ち歩いている。

 だが、余程の裕福な冒険者でない限り容量は少なく、精々容量が100kg程度のアイテムボックスが関の山だ。



 俺が尋ねると弓使いの女性は腰につけていたポーチのようなものを投げ渡した。

 赤一色のシンプルな物だった。



「あ……そうだね、これ、100キロまでなら入るから。今日は貸してあげる」



「んー? 貸してあげる? よく分からないけどこの魔石は僕とお姉さんで山分けだよ? ま、子供の僕がこれだけの魔石をギルドに持っていっても怪しまれるだけだし、アイテムボックスが無かったら半分も運ぶ事が出来なかったんだから」



 そう言いながらせっせと散らばっていた魔石を拾い上げ、次々にポーチの中にへと入れていく。

 そして鼻歌等を口ずさみながら魔石を仕舞っていく姿は先程まで魔物と殺し合いを繰り広げていたとは思えないほどに能天気だった。



 数分後、100以上もの魔石をポーチに詰め込んだ俺はそれを片手に弓使いの女性の下に駆け寄った。

 


「よし、魔石も入れた事だし……ギャズ達を捜そっか!! はい、肩貸すよ……と言っても背が足りないし手置きくらいにしかならないだろうけどね、あはは……」



「……色々と聞きたい事があるけど……ま、聞かないでおく。……それじゃあ、お言葉に甘えて肩を貸してもらうよ」



 弓使いの女性は右手を俺の左肩に置き、体重をかけながら腫れた右足を浮かせるように立ち上がる。

 ぶっちゃけ、身体強化を使っているので抱き抱える事も可能なのだが、10歳に抱えられるのは嫌かなと思い、肩を貸す事にしていた。



 そして彼女が立ち上がった直後、俺は何かを思い出すかのように声を上げた。



「あっ!! や、やばいッ!! 日暮れまでに帰らないと母上に怒られるんだった!! それにリファと1日……ヤバイいいいいいぃ!!」



 1人、焦りながら右手で頭を抱えていると直後、直ぐ隣から笑い声が上がった。



「くふっ、あははははは!! オーガを100体程度相手にしても難なく殺せる癖に母親に怯えてるんだ……あはっ、あはははは!! はー……お腹痛い……何か気を張ってた私が馬鹿に思えてきた……そう言えば名前を教えてなかったね。私はフリシス。フリシスって呼んでよ。それと、幼いからって馬鹿にしてしまって本当にごめんなさい。そしてさっきは助けてくれてありがとう」



「そんなに笑う事かなぁ? ま、その事は気にしてないから大丈夫だよ! 僕はユウ・ヴェロニア。ユウって呼んでよフリシス」




 顔を見合わせ、笑いながら少し遅い自己紹介を終えた俺達はギャズ達を捜す為、歩を進め始めた。


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