26話 オーガの群れ
「おっふ……マジですか……」
俺達の周りを御丁寧にも囲むように数十体のオーガが居た為、俺は嫌そうな顔をさせながら小さく呟いた。
弓使いの女性は1人、恐怖に表情を染めて「あ……あ……」等と声を上げ、絶望していたが俺の場合は最愛の女性が俺の帰りを待ってくれている……筈なのだ。
こんな所で死ぬわけにもいかなかったので、魔力の消費を一切考えずにシュグァリが禁術と呼んでいた魔法を発動させた。
「『―――咎人の炎は絶望と狂気を孕む』」
前口上を口にした後、口早に紡いでいく。
「『纏えよ、纏え、死の炎。
嘗て咎人と呼ばれた心優しき英雄ッ!! 謂れのない罪にて、万の鎖に捕らわれ、炎を残し、命を散らしたッ!! 炎は、英雄の怨念を宿し、絶望を嘆き、その果てに、色を黒へと変貌させ、全てを燃やし、暴虐の限りを尽くしたッ!! さあ、もう一度、人の子の前に、現れろ!! ――《黒焔》!!』」
そして俺が纏った黒き炎が照明役となり、オーガ達が咆哮を上げてはこちらへと駆けてくる。
そんな魔物の集団を見据えながらも俺は直ぐ様地面に両手をつけ、ニヒルな笑みを浮かべながら言葉を発した。
「全てを焼き尽くせ!!」
直後、囲んでいたオーガ達の居た場所から次々と噴き出すかのように黒い炎が出現し、全てを焼き尽くしていく。
元々、黒焔は広範囲殲滅魔法と本に書かれていた為、こういった場合に向いていた。
素早く動く魔人との戦いは多対1の場合ならば良いかもしれないが、1対1の場合は体に纏わせる事が出来るだけであまり役には立たず、魔力の消費が激しいだけで本当ならば使うべきではなかった魔法だ。
だが、それに気づいた時、俺は既にベッドの上。
1人頭を抱えて後悔の念に苛まれたのはごくごく最近の出来事だ。
そして俺は手に入れたばかりの小太刀を右手に左の手で鞘から抜く。
小太刀――《紅華》。俺が持つ唯一の得物であり、漆黒の刀身を持った業物だ。
俺は鞘から抜くと同時に身体を僅かに沈めてから殺し損ねたオーガに向かって爆ぜるように駆け出し、肉薄する。
そして―――ブゥンッ!! と風切り音を響かせながら薙ぐ事で斬り殺していく。
首を刈らんと繰り出される斬撃は重く、そして速い。機敏な動きの前に一切の抵抗は出来ず、血飛沫を飛び散らせながら屍となるのみ。
「柔い、柔すぎる!! 豆腐かっつーの!! あはっ、斬れるって愉しいねぇ!! てか、やっぱシュグァリ規格外過ぎんだろ……黒焔をまともに食らったオーガ達は灰になってんのにあいつピンピンしてたからなぁ……」
そう呟きながらも俺は足を一切止める事なく駆けた勢いを殺さずに擦れ違いざま――絶命させていく。
しかし、あと数体、といったところで弓使いの女性の下へ1体のオーガが駆けた。
そして「……チッ」と舌を鳴らしながら射殺すような眼光をオーガへ注ぐ。
「大人しく死んどけよ!!」
手にしていた小太刀を弓使いの女性の下に向かったオーガの顔面へと目にも止まらぬ速さで―――ブォオン!! といった風切り音と共に投げつける事で一瞬にして絶命させる。
そして俺はパチン――と指を鳴らし、もう一度黒い炎を地面から噴き出させる事で殺し損ねていたオーガ達を焼き殺した。
戦闘が始まってたった数分。
暗く、静かな崖の底は屍が溢れ、鉄臭い臭気が風に乗って漂う血に染まった景色へと一変していた。