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25話 底にて

「っ!? 嘘だろッ!? や、ヤバイッ!! 俺、ジェットコースターとか苦手だったんですうううううぅ!!! ぎゃあああぁ!! 浮遊感があああぁ!! し、《身体強化》!!」




 体を投げ出された俺は空中で叫び散らしながらも自分の身を案じて慌てて身体強化を発動させた。

 俺はあの浮遊感が何よりも苦手だった為、涙を出しながら落下する羽目になっていた。



 そして数秒程経ち、落下が終わりに差し掛かった頃に俺は器用に地面に向かって風魔法を使用した。



「翼が生える魔法とかねぇのかよおおおぉ!! おりゃぁ!! 《強風(ゲイル・ブロウ)》!!」


 

 直後、突風のような物が体から地面に向かって吹き荒れ、無傷で無事着地した。

 そして数秒遅れてドンッと鈍い音が響き渡る。



 比較的近くから聞こえた事あってか、響いた音だけを頼りに暗い崖の底を歩く。

 そして数秒後、俺は直ぐに音の発生源にたどり着いた。



 そこには痛みで蹲るギャズのパーティーメンバーだった弓使いの女性が居た。

 上手く着地出来なかったのだろう、右の足首が真っ赤に腫れ上がっていた。



 だが、その程度で済んだのも彼女が身体強化を使えたからこそだろう。

 スキルの特徴である透明の何かが彼女を包み込んでおり、それは紛れもなく身体強化を使った証だった。



「あ、あのー……お姉さん大丈夫?」



「痛っ……お前、ギャズさんが連れてきた餓鬼じゃないか……何で無傷……」



 このまま無視するのも気が引けたので俺は大丈夫じゃないと分かっていたのだが、社交辞令的なアレで一応声を掛けた。すると、目の前の女性は腫れた右の足首を手で押さえながらも無傷の俺を奇怪な物を見るような目で見詰めていた。



「あ、いやぁ、落ちた場所がたまたまクッションのような役割を果たしてくれて……あはは……」



 嘘臭さをプンプン漂わせた苦し紛れの言い訳をするが目の前の女性はそんな事でもない限りひ弱そうな俺が助かる事は無い、と判断したのだろう。特に追及してくる事はなかった。



「あぐッ!! ……これじゃまともに歩けやしない……しかも、よりにもよって何でこんな餓鬼と一緒なんだか……あのさ、何か聞こえない? さっきから何かが動くような音が聞こえて気になっているんだけど……」



 彼女は一度立ち上がろうと試みるが痛みに抗う事は出来ずに膝を折り、座り込んだ。



 そして俺をナチュラルに貶した後、目を細めながら問いかけてきた。

 その言葉を聞いた俺は耳を澄まし、何かが動くような音を自身も確認すると同時に目の前の女性が魔法を放った。




「『我の前を照らす光となれ!! ――《蛍火》!!』」



 蛍のような小さな炎が無数に出現し、暗く闇に包まれた崖の底の景色が明らかになった。



 俺達は





 オーガの群れに囲まれていた。


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