22話 武器屋
俺は質屋を後にすると次は武器屋へと向かった。
金貨30枚を手に入れ、胸を躍らせながら防具などといった装備を買おうと思っていたのだがふと思い出した。
質入れする際に期限を決めていなかったなぁ、と。
だが、まぁ、元々あの時計はそこまで重要なものじゃなかったし買い取って貰ったと勝手に記憶を改変しておこう、と思う事で一瞬で懸念が吹っ飛んでいた。
そして質屋を後にして数分後。
俺は武器屋の目の前にたどり着き、木製のドアを押して中へと足を踏み入れた。
中を見渡せば飾れた大剣や片手剣、槍や弓など様々な武器が目に映る。
綺麗にどれもこれも整頓されており、錆びなども一切なく、どれもこれも刃をギラつかせながら置かれていた。
自分でも扱える長さの剣、もしくは短剣はないかなぁ、と思いながら武器屋の中を彷徨き、短剣を纏めて置いていた棚を見つけるとそこに向かい、上手く扱えそうな短剣を探し始めた。すると数秒後、店主らしき無精髭を生やした褐色肌の男――ドワーフが俺へ声を掛けてきた。
「おい、坊主。冷やかしはいらねぇんだぞ? 餓鬼のママゴトに付き合ってやるほど暇じゃねぇんだ。分かったらさっさと帰った帰った」
10歳の子供が短剣が置かれた棚を見てうーん、うーん、と唸っているのだ。
俺が店主の立場でも似たような事を言っていただろう。だが俺はギャズへ恩を返す為にもちゃんとした武器を買わなきゃいけないんだ。オッサンには悪いが無視させて貰う!
そして俺は無視を決め込み、再び短剣を眺め始めた。
1分程経った頃だろうか。
とうとう店主であるドワーフが痺れを切らし、俺を強制的に店の外へ出そうと右手を掴んだ。
直後、ドワーフの男は眉をひそめ、何かを確認するかのように手を触っていく。
そして数秒後、先程とは打って変わって真剣な声が俺の耳に届いた。
「おい、坊主。つけてる手袋を今すぐに取れ」
俺は店主であるドワーフが発した言葉の意図する事が全く分からなかったのだが、外しても特に不都合はなかった為、そのまま言われた通りに革製の黒の手袋を外した。
するとドワーフの男の目の色が急に変わり、驚嘆しながらも俺へ質問を投げつけてきた。
「坊主……お前本当に見た目通りの餓鬼か!? かれこれ数十年武器屋を営んできたから分かるがこんな手をしてる奴なんざ熟練冒険者や騎士団の上の奴等くらいだぞ……今、手持ちに幾らある?」
ドワーフの男は俺の豆だらけの上、所々皮が剥げた手を見て驚愕していた。
1ヶ月程ベッドの上で過ごしていたが、1ヶ月程度では7年程ついていた豆等を治す事は無理だった。
その為、全くもって子供らしくない手をしていた。
ま、前世の記憶から体の鍛え方を思いだしながら訓練してたからなぁ……オッサンは俺のことを熟練の戦士と同列に扱っていたし、前世で教えられた鍛え方って凄かったんだなぁ……
「見た目通り、10歳の男の子だよ! えっと……手持ちは金貨30枚だけど……どうしたの?」
「けっ、そうかい……30か、まぁ坊主の見た目からすれば持ってる方だな……ちょっと待ってろ」
ふざけた調子で受け答えをすると店主の男はそれを鼻で笑うと同時に店の後ろへと向かった。
「ほらよっ、銘は紅華。今、店にある武器の中で一番の出来の小太刀だ。これを金貨30枚で売ってやる。ま、別に強制じゃないから買わなくてもいいんだが……どうするよ坊主」
紫色の質の良い布地に包まれた小太刀を俺へと投げ渡し、唇の端を吊り上げながらドワーフの男は口を開いた。
俺は紫色の布地に包まれた小太刀を取り出し、鞘から引き抜いた。
刀身は見た者全てを吸い寄せるような夜の色。
前世で何度か刀や小太刀を見る機会があったから分かるが紛れもなく業物。
ここが異世界でなく地球なら国宝にでもなりそうな出来だった。
金貨30枚は日本円にして約300万。
だが、それでも安過ぎと感じる程に――惹かれていた。
異世界での品物の基準は一切知らないのだが、俺は躊躇する事なく
「なら、買わせて貰うよ。ほら、金貨30枚」
購入する事を決めた。
だがそんな俺の反応を見た店主は怪訝な顔をさせながら眉をひそめていた。
「……迷わないのか? 俺が嘘を言ってて実はガラクタかもしれんぞ?」
「その時は僕の見る目が無かったってだけだよ。ま、これがガラクタに見える程僕の目は腐ってないんだけどね。……あぁ、後、足りない差額はいつか酒で返すから待っててよ」
ドワーフは酒好きと知っていた俺は笑みを溢しながら小太刀を持って店のドアに手を掛けた。
「はっ、餓鬼は金を気にすんじゃねーよ。ま、期待して酒待っとくぜ坊主……くくっ、ははははははは!!」
そして俺は武器屋を後にし、少々時間は早かったがギルドへと向かった。