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21話 バーナム効果

「んじゃ、1時間後にギルド前集合だ……そういえばまだ名前を聞いてなかったな。何て言うんだ?」



「ユウ、ユウ・ヴェロニアだよ。気軽にユウって呼んでね。んじゃ、用事があるからもう行くね! 1時間後にまた!」



 ギャズによる必死の説得によって彼のパーティーメンバーが渋々納得した後、集合時間を決めて一旦別れた。



 そして俺は貴族用の服に丸腰という装備だ。

 折角ギャズが必死に説得してくれた手前、お荷物ではなく、ちゃんと役に立ちたかった。

 なので俺は



 ――――質屋を目指した。



 ギルドからはそう遠くない場所にあり、徒歩数分で到着した。

 店の前にはでかでかと『質屋』と書かれており、直ぐに発見する事が出来た為、迷うことはなかった。



 木製で出来たドアを押し開けると和みそうなチリン、という鈴の音が出迎えてくれ、そして強面のオッサンがまず始めに目へと飛び込んで来る事となった。



 質屋の場合、ひ弱な人間をカウンターに配置するのは愚策。

 強面の男が店員なのは当然といえば当然だった。



「すみませーん、これ質入れしたいんですけど幾らくらいの値がつきますか?」



 そういって俺はポケットから金色に輝く時計を取り出した。

 この時計、昔まだ悪餓鬼だった頃に父親からこっそり頂いた物だ。あの時は欲しくて欲しくてしょうがなかったのだが、手に入れると3日持たずにどうでも良くなってしまった。

 あの時入れっぱなしだった時計が役に立つとはな……



 父であるライオスは結構な時計好きならしく、鑑賞用、保存用、実用。などと大量に同じものを持っていた。なので母であるルルも俺同様……ではないが、邪魔だからと処分していたりする。



「……貴族かよ……この時計なら金貨5枚だな」



 嫌そうな顔をさせながら強面のオッサンは値段を口にした。

 普通の馬鹿貴族なら了承するだろう。だが、俺をそんな奴らと一緒にしないで貰いたい。

 俺はこの時計をライオスが金貨50枚程度かけて手に入れた事を知っている。ぼったくる相手を間違えたなオッサン!! 演技派貴族であるこの俺をナメるなよ?



 ちなみに金貨1枚がだいたい約10万円程度だ。それを考えるとライオスの馬鹿具合が凄く分かってしまう。



「いやいや、オッサン。この時計はもっと価値があるでしょ? あのね、実は僕、人の過去をたまに見たりする事が出来るんだ。オッサンの赤裸々な過去をこの街の人達に知られたくなかったらまともな値段を口にしてね?」



 自信満々に言っているが真っ赤な嘘だ。

 日に日にポーカーフェイスが上手くなっている気がするのは気のせいではないだろう。



「はぁ、餓鬼の戯れ言に付き合ってる暇はないんだ。嫌ならとっとと出ていってくれ」



 呆れ口調でオッサンは俺を追い出そうとする。俺が一応貴族だからか、強引に追い出すといった行為は出来ないのかもしれない。貴族って便利だな。



 ふ、オッサンはバーナム効果という最強無敵の言葉を知らないだろう。前世でエセ占い師に1万円ぼられた実力を見せてやんよ!!


 

「あー、ゴホンッ、オッサン? あんた、初恋の人に上手く想いを伝えれなかった経験とかあるんじゃない? それと……何もしてないのに人から避けられたり……そんな事なかった?」



 強面をベースに口から出任せを言ってみたがどうだろうか? と思っているとオッサンの顔が蒼白になっていく。



「な、な、何でそれを!? じゃ、じゃあもしや先月のあの事も!?」



「ん? 先月? ……あー、あれね、あれね。勿論知ってるよ。けどね、僕は人が不幸になるところを見たくないんだよ……だからさ、先月のアレを街の皆に公開しない為にも……ちゃんと質入れしてね?」 



 先月のアレとか言っちゃってるが、実際は何も知らない。ていうかさっぱりだ。

 だが、オッサンの反応を見る限り俺が知っていると思い込んでしまったようだ。

 


 やはり、バーナム効果最強。ていうか、先月のアレってどんな出来事だったのだろうか。めっちゃ気になってきた。



「き、金貨30枚だ!! す、すまなかったこの通りだ!! 嘘吐いて悪かった……ほ、ほら、この中に入ってる」



 慌てて頭を下げて金貨を入れた麻で出来た袋を渡してきた。

 それに満足した俺は時計を置いて麻袋を受け取り、鼻歌を歌いながら店を出た。

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