20話 ギルドにて
「あ゛ー、ゴホンッ、えっと……ギルド登録……ですよね? ぐだぐだ長い説明を子供にしても退屈に思うだけでしょうし、手早く掻い摘まんで説明しますね。まず、ギルドカードを紛失した場合は再発行に銀貨1枚必要なのでご注意を。そしてランクはSS~Eまであり、B以上からはB+のように2段階になっています。依頼に関してですが、自分のランクの1つ上の依頼まで受ける事が可能です。しかし、パーティーを組んでいる場合は一番ランクが高い人……要するに、パーティーメンバーの中でAランクの人がいたと仮定すると貴方がEだとしてもA+までの依頼を受ける事が可能というわけです。何か質問はありますか?」
俺は先程の怒号のような声を耳にした事で縦に首を振る首振り人形と化していた。
ついさっきまで鬼の形相といってもいいくらいの表情をしていた筈の彼女は瞬時に営業スマイルへと表情を変えるという離れ業を見せていた。
そしてそんな受付嬢へと俺は密かに戦慄を覚えていた。
……あ、よく見たらこめかみ近くの血管がピクピクしてるや。
「無いです。全く無いです。そしてお姉さん美人です」
たまに片眉がピクピクと跳ねたりしながらも笑みを浮かべる受付嬢に圧倒された俺は無意識で彼女を褒めていた。母上といい、女性ってものはどうしてこうも怖いのだろうか。あ、リファは全然怖くないです。夜中、急に姿を現しても喝采上げて抱きついちゃいます!!
「ふふっ、ありがとう。じゃあここに血を垂らして下さいね」
そう言いながらカウンターから小さな針とギルドカードと思しき物を取り出して俺の目の前へと差し出してくる。出された物を見て俺は特に躊躇う事なく、言われた通り針を指に刺して血を垂らした。
「え、あ、あぁ、これで登録完了です。お疲れ様でした」
何故か受付嬢は驚愕といった表情を浮かべていた。
恐らく10歳程度の俺が針を刺す事に躊躇うとでも思っていたのだろう。
何かよく分からない作業を数秒してから彼女は血を垂らしたギルドカードを俺へと渡してきた。
「ん、ありがとー。んじゃ、またねお姉さん」
俺は無邪気な笑みを浮かべながら年相応の口調で別れを告げ、ギャズの下へと歩み寄る。
理由は至って単純、ギャズにパーティーを組んで貰う為だ。
今の俺は先程貰ったギルドカードを見る限りランクはE。そして真面目にEから始めていたら王都に家を買うなんて何年かかるか分かったもんじゃない。という事でギャズを頼る事にした。
「ねぇ、ギャズ。ギャズはランクいくつなの?」
「お、登録してきたか坊主。聞いて驚け、俺はランクB+だぞ!! ほら見てみろ。ギルドカードが赤色だろう? Eは銀色だがランクが上がるにつれて色が変化するんだ。ま、今、DやCの色を教えてもいいんだが上がった時の楽しみにでもしてくれ。がはははは!!」
ギャズは俺にカウンターの場所を教えた直後、再び冒険者仲間らしき人間達と酒を飲み始めていた。
そしてポケットから赤いギルドカードを取り出して自慢すると共に大笑いを始めた。
「へぇー、そうなんだ。あー、あのさ、ギャズ。単刀直入に言うけど、僕をギャズのパーティーに入れてくれないかな?」
控え目な口調でそう訊くが直後、ギャズの表情が引き締まり、ふざけたような態度が一瞬で消える。
「……駄目だな。お前はさっき登録したばかりのE。対して俺はB+だ。他のメンバー達もBかB+だ。はっきり言ってお前は足手まといにしかならん」
人のいいギャズなら組んでくれるかと思っていたが、そんな虫のいい話は無かった。
だが、ここでランクB+という良いカモ……じゃなかったギャズを逃すわけにはいかない。
そう決めた俺は持ち前の演技力を発揮する事にした。
「じ、実は僕、両親から捨てられそうになってるんだ。ご飯もマトモに食べれてないし……だから、だからお金が必要なんだ!! ほら、貴族なのに護衛1人いないんだよ?」
今回は泣き崩れはせずに、真剣な表情で言葉を返した。
泣き崩ればかりじゃ芸がないからな。
それを聞いたギャズは苦虫を噛み潰したような表情へと変えながら口を開く。
「今回、今回だけだぞ!! 今から1時間後にリザードマンの討伐に行く。行くんならお前もさっさと準備しろッ!!」
「あ、ありがとうギャズ……」
やはりギャズは優しかった。
そしてそろそろ俺、嘘の吐きすぎで鼻でも伸びんじゃねーの?
ギャズのパーティーメンバーと思しき人達から反対の言葉が飛び交っていたものの、俺の初めてのクエストはリザードマン討伐となった。