19話 受付のお姉さんは怖いです
「……あ、えっと……馴れ馴れしい態度を取ってすまなかったな。あぁ、俺には学が無いもんで、上品な言葉を使「す、ストップ!! ストップ!!」……ん?」
刺繍を見てしまったオッサンは急に苦虫を噛み潰したかのような険しい表情を浮かべながらも俺へ謝罪を始めた。
恐らくオッサンは俺の兄であるクルトのように「平民風情が馴れ馴れしく口をきくな!!」等と言うと思ったのだろう。
だが、俺をそんな貴族と一緒にしてもらいたくない。
俺は別に貴族だからといって傲慢な態度は取るつもりはない。
ま、敢えて他の貴族と違うところを言うならば、実の姉への愛がちょっと重く、父親にはあり得ないくらい毛嫌いされてるだけの至ってノーマルな人間だ…………あれ? 俺ってもしかしてアブノーマル?
「まぁまぁ、オッサ……いや、おっちゃん。確かに今のままでは貴族という立場だね。だけどもし、僕が冒険者になればおっちゃんと冒険者同士という対等な関係となれる。しかも、気兼ねなく会話する事だって出来るんだよ。僕はさ、冒険者達の声をちゃんと聞く事が出来る立派な貴族……いや、人間になりたいんだ。だから冒険者登録をさせてくれないかな?」
オッサン改めおっちゃんにストップをかけた直後、俺は今の状況を上手く利用しようと考え、ギルドに登録して冒険者になる為にとべらべらと今、思いついた事を口にした。
立派な事を言ってるが完全に口からの出任せであり、真っ赤な嘘だ。
「ぼ……坊主……おらぁ感動したぜ。貴族にもそんな考えの子供がいたなんてな……本当にすまなかった。カウンターはあっちだ。お前の考えてる理想の為に登録をしてきてくれ……あぁ、後、困った時は俺を頼ってくれや。それと、俺の事はギャズって呼んでくれ」
30程度のオッサンがマジ泣きしてしまった事に罪悪感が少々湧いたが、それに構わず俺はおっちゃん改めギャズが指差した場所へと歩を進めた。
カウンターには受付嬢と呼ばれる女性がおり、彼女を見詰めながら心の中で「受付嬢なだけあって普通に綺麗だなぁ」と思っていた。初めてのギルドだ。目新しい事に目移りするのは仕方のない事だろう。
ま、リファの前ではちり紙程度の理性となってしまうのだが、他の女性の前ではちり紙は超合金と化す。
目の前にいる女性は文句なしに綺麗だ。だがそれだけで全くと言っていい程に興味が湧かない。しかし、昔から優しくしてくれていた美人なフェレナさんだけは例外だ。ちり紙とまではいかないがノートの厚さくらいには理性を保てると思う。
「ん? どうしたの僕? あ、もしかしてお姉さんに惚れちゃった? うーん……まだ幼いなぁ……せめてあと5年経ってから出直して来てね」
艷のある、さらさらとした赤い髪が首を隠すように腰辺りまで垂れ、目鼻立ちの整った容姿をしていた受付嬢さんはニコニコと笑みを浮かべながら勝手に自己解釈を始めていた。
そして俺は脳内お花畑な受付嬢さんに無邪気な笑みを浮かべながら、はた迷惑な自己解釈へのやり返しを兼ねて言葉を返した。
「あ、大丈夫だよ。僕は基本、リファ以外に興味ないから。だから安心してね、おばさ「あ゛あ゛ん!?」ひぃっ!!」
受付嬢は俺のおばさんという言葉を遮るようにドスのきいた怒声を上げ、烈火の如く激怒する。
急に荒げた声を出す受付嬢に怯んでしまった俺は情けなくもひぃっ、といった声を出してしまう。
そしてキレる受付嬢を見た俺は改めて思った。
中身も外見もリファこそ至上、リファマジ天使。