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1話 気づいたら赤ん坊でした

 不定期更新デス

 ……俺、ついに刺されたか。

 いつか刺されるかもな、なんて楽観していたからか、別に美月に対して特にこれと言った感情をあまり持っていない。何故だか美月に殺されるなら本望って思う自分がいる。




 幼い頃に両親が死んだ。

 そして姉と2人で数年暮らした後、姉がヤンデレを拗らせて刺殺された。

 こんな人生を経験していた人は世界中探しても俺しか居ないかもしれないな。

 ハッキリ言って俺の人生はかなり凄かったと思う。




 そして、もしかすると明日には殺されてしまうかもな……なんて事をよく考えていた俺は死んだらどうなるのだろうか? という疑問に何度かぶち当たっていたりしていた。




 天国に逝くのだろうか? 地獄に逝くのだろうか? 虫にでもなるのだろうか?




 そんな事に時間を無駄に使っていた俺だったが、遂に答えが見つかった………




「あー、うあうあー、あうー!」



 ―――――――答えは赤ん坊として新たな人生を、だ。




 おいおい、ちょっと待て。何で赤ん坊になってるの!?

 そう叫びたくても声帯が発達していないのか歯が生えていないからなのかは分からないが「あー、うー」といった言葉しか声に出せない。そしてこの何も出来そうにない小さい手、小さい足。不便極まりない。



 自分が死んだのだと理解をしていたからか、赤ん坊になったという事は直ぐに理解できた。まぁ、理解するのと受け入れる事は全く別の話だが




 どうする? どうすればいい!? 恥を捨てて心は17歳だが「おぎゃあ」と叫ぶか!?

 なんて一人で悶々と考えていたら俺の顔に影がさした。




「全然泣かないが大丈夫だろうか? ……一応念のためにヒールをかけておこうか」




 金色の髪をした西洋風の顔立ちだった短髪の男が声を出した。

 不安だったのだろう。声のトーンが明らかに低く、不安のようなものが感じ取れた。

 


 …………………ちょっと待てよ。今何て言った!? ヒールって言ったのか!? ヒール!? もしかしてこの男、見た感じ30歳程度だがそんな年齢なのに中二病患者なのか?



 そんなどうでもいい事を考えていると目の前の男に誰かが声を掛けた。




「そうですね。見た感じ問題は無さそうですが、一応ヒールをかけておくべきかも知れませんね。では私がかけましょう。《ヒール》」




 落ち着きのある優しげな女の人の声だった。

 銀色の髪を頭の後ろで束ねた碧眼の女性だった。

 佐倉伊月の頃は日本人特有の黒髪黒目の人間しか殆ど見たことがなかったからか、銀色の髪の女性はとても美人に思えた。




 え……この人も中二病患者なの……? と思っていると彼女が《ヒール》と口にしながら手のひらを向けてきた。

 瞬間、俺の体が光に包まれ、何故か体が少し軽くなった。



 ……………………



 うっそぉぉおおおぉぉおぉぉん!?



 え!? ここって地球じゃないの!? 魔法?使えちゃうの!? 俺どうなっちゃうの!?

 様々な感情や考えが頭の中を巡っていたが、何故だか急に気怠くなってしまった。




 …………どうやら「うっそぉぉおおおぉぉおぉぉん!?」と思った際に、無意識で「おぎゃぁぁぁ」と声を上げてしまっていた。




 魔法? を俺にかけて産声を上げ始めた事に満足したのか。金髪の男と銀髪の女性は安心したような顔をしていた。

 そんな二人の顔を見つめながらも俺は意識を手放した。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 異世界に生を受けてから1ヶ月が過ぎた。




 俺に食事を与えてくれる乳母さんや、時々顔を見にくる父親、そして父親同様、時々顔を見に来る母親の会話を聞く限り、俺の名前はユウ・ヴェロニアという名前らしい。



 因みに俺の父親、ライオス・ヴェロニアはヴェロニア伯爵家の当主で俺は三男なんだそうだ。つまり俺は良いとこの坊っちゃんというわけだ。まあ実際、普通に生きれるならどこでもいいのだが。



 母親のルル・ヴェロニアは父親のライオスと結婚する前は名の知れた治療師だったらしく、結婚してからは教会などで怪我人などの治療に勤しんでいるらしくライオス同様忙しい人らしい。




 そして俺には3歳の長男、2歳の次男。

 加えて2歳の姉が居るらしいのだが、俺はまだ生後1ヶ月の赤ん坊。起きている時間が殆ど無い俺は兄姉と一度も会ったことがない。



 ……というのは俺だけのようで、兄や姉は俺が寝ている時に何度も俺の顔を見ていたと乳母さんことラーニャさんが呟いていた。



 そして実はこのラーニャさん、2歳の姉の母にして俺の父親ことライオスの唯一娶った側室なんだそうだ。




 この事実が発覚した時は「前世の俺なんか彼女一人出来なかったのに……」と思いながら発狂しそうになったが所詮は赤ん坊。「うー、あー、あうー!」と叫ぶのが限界だった。大きくなったら一発殴ろうと思う。幸せ税ってやつだ。将来潔く殴られろ、ライオス。




 そんなこんなで時間の大半を寝て過ごしていたのだが、一応今居る世界についてかなり適当にだが理解はした。




 ここはナブール大陸と言い、魔法が使える世界なんだとか。でも魔物が出たり盗賊なんかも一杯いるから危険だよ☆

 という事だ。ハッキリ言ってかなり情報が少ない…………生後1ヶ月の睡眠ナメるなよッ!?




「ユウ君は大人しいわねぇ……あなたのお兄さん達はともかくリファの時は凄く大変だったから夜泣きや色々心配していたんだけど杞憂に終わりそうね。」




 俺が居るおよそ6畳位の部屋に乳母ことラーニャさんがやって来て俺の寝る低めの小さなベットに近づき、俺の頭を撫でながら呟いた。



 因みにリファというのは2歳の俺の姉だ。なんでも、俺と同じ頃はよく泣きわめいていたらしい。




「本当、ユウ君は手のかからない子ねぇ……逆に心配になるわ……ちゃんと体調悪いなら教えてね? ……って言っても言葉は分からないわよね……ふふっ」




 ………ばっちり理解してます。なんかすみませんラーニャさん……




 そしてラーニャさんに頭を撫でられるという心地よい感覚に抗えず、俺はいつの間にか意識を手放していた。

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