17話 セントリア
魔人との戦闘から1ヶ月、俺は遂に体調が全快した。
病人生活中、日々快調に向かっていっていたのだが、それにつれて母上は朝昼晩の3回から朝晩の2回に、そして昨日は晩の一度しか顔を出してくれていなかった。
いつだったか、我儘を言いまくっていた俺に耐えかねて母上が「お前はどこの王様だ」と問いかけてきたので「王様じゃない、ユウ様だ」と言ったらこれまた叩かれた。という記憶はまだ新しい。
母上が俺にもっと優しく接してくれていたら全快するまでの期間が1日程度早かった事だろう。
未だ10歳の俺は王都で勉強をしなければいけない、という訳でもなくはっきり言って暇をもて余していた。その為、病人生活をする前は外に出る事が多かったのだが外出に関しては病人生活中に母上と夕食までには帰ってくる事、という約束事をしていた。というかさせられていた。破ったらリファと1日会う事を禁止するとかほざきやがったので拘束力はMAXだ。
「ん……しょっ……と……」
1ヶ月お世話になっていたベッドから立ち上がり、窓に跨がって空中に身を躍らせながら部屋から落下して外に出た。
俺が暮らしている家が伯爵家な事あってか無駄に広い。
そんな事あってマトモな道のりで外に出ようとすれば数分程掛かってしまう事となる。
だが、俺の場合は身体強化という無属性の魔法が使える為、自室となっている2階から飛び降りたとしても肉体的な問題は何もないのだ。
そして外に出た俺はそのまま駆け出し、ギルドへと向かって行く。
向かう場所はセントリア。
ヴェロニア伯爵家からもっとも近い街、そしてそこにはギルドが存在する。
そして街に入る際にはギルドカード、もしくは身元を証明できる物を門番に提示するのが常識となっている。
俺はギルドカードを持っていなかったが一応、貴族様だ。
普段は動きやすさを重視したラフな服装を好んで着ているのだが、ヴェロニア伯爵家の家紋である剣の刃先と槍の矛が交差する刺繍が入ったいかにも貴族様、といった雰囲気の豪奢な服を身元を証明する物として着込み、少々鬱陶しかったがギルドカードを作ってしまえばもう着なくていいと自分に言い聞かせながら向かっていた。
俺は人為的に作られた道は使わずに森を抜け、ショートカットしてセントリアへと駆けていた。馬車等で通る事の出来る道を使うと遠回りになり、母上との約束を守るのならばセントリアに着いて直ぐに家へと引き返す事になりかねないので、魔物が出現するのだが森を抜けるという選択肢を選んでいた。
だが、俺が森へ入った時刻は日が昇り始めていた朝。
魔物が活発に行動する時間帯は夜な為、今回はセントリアにたどり着くまでに遭遇する事はなかった。
家から出て1時間程度で街の目の前にまで着いていた。
馬車を使ってたとしても馬車は平地では無く、そこら中に生えている木々や魔物が存在する事あって森を抜けれない為、早くても3時間は掛かってしまう。
セントリアに1時間でたどり着いた。等と父であるライオスに言ったとしても子供の戯言と言って笑い飛ばされて終わるだろう。それほどまでに移動時間が早かった。
門番に貴族、それも護衛を連れていない子供一人だった事で驚いたり怪しんでいたが家紋を見ると黙りこくった。
ヴェロニア伯爵家って結構有名なのかな? と思いながらも俺はセントリアに足を踏み入れた。