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16話 ユウの婚約者

 ベッドの上で俺が今後の事を考え、ぐへへへ、と日が落ちても顔をにやつかせていた頃、母――ルル・ヴェロニアと父――ライオスヴェロニア、そしてレギン・サークリッドの3人での食事会が始まっていた。



 レギンの妻であるシェーラ・サークリッドは今回都合がつかなかったようで欠席していた。



「なぁ、レギン。今日は何で俺達を食事に? あぁ、特に他意がなかったのならそれはそれでいいんだ。気が済むまで世間話でもしようじゃないか」



 初めに口を開いたのはライオスだった。

 サークリッド家では食事の際は長テーブルを使っており、家長が一番奥の席、そして家族がそれに続くように座っていく、という席なのだが相手がライオスだった為か、わざわざ丸いテーブルを用意して誰も特別ではない。そんな座り方で食事をしていた。



「いや、少し頼み事があってだな……単刀直入に言おう。お前の息子にフェレナを娶って貰いたい。あぁ、今すぐって訳ではないんだ。今のところは婚約者という事にしてくれれば……」



 そう言ったレギンの顔には疲労が浮かんでおり、酷く弱々しかった。



「娶る? それは長男のフリクに、か? それとも次男のクルトか? 二人ともまだ結婚相手は居ないから別に構わないのだが……」



 真剣な話だと分かるとライオスは表情を引き締め、食事をする手を止めた。

 難しい顔をさせながらルルも食事をする手を止めていたが、口を挟む気はないらしく、聞きに徹していた。



「いや、違うんだ……その……何故かフェレナが思いを寄せているのは、あの(、、)三男なんだ」



 苦虫を噛み潰したような顔をさせながらレギンは言葉を発した。

 レギンとライオスは以前、2人で食事をしていたのだが、その時にライオスがユウが貧弱すぎると話に上がり長い時間その会話をしていたのだ。それあってあの(、、)三男と呼ばれていた。 



「は? ……レギン、お前正気か? フェレナちゃんならもっと良い相手がいるだろう。親である俺が言うのもなんだが、ロクに戦闘も出来ないあんな貧弱な男のどこが良いんだ……」



 呆れ口調で話すライオスとは違い、ルルはやはりこうなったかと言わんばかりに片手で頭を抱えながら考えを巡らせていた。



「フェレナが言うだけなら軽くあしらって終われるんだが、何故かヤスがフェレナの肩を持っていてな……それで……言い負かされたって訳だ……」



「ヤスってあの元王国騎士だったあのヤスか!? ……だが妙だな、あれは武を重んじる奴だったろう? 到底ユウの肩を持つとは思えないんだが」



 項垂れるレギンに疑問を投げつけるとライオスにとって衝撃的な言葉が返ってくる事となった。



「あぁ、そうだ。あいつは武を重んじる奴だよ。なんだがな、あいつが「ユウ様と自分が戦ったとしても勝つ確率は無に等しいですよ」って言ったんだよ。あいつは死んでも武に関する事ならば嘘はつかないんだ。もうな、笑ったよ。笑うしかなかった」



 ライオスはレギンの言葉を聞いて「なっ!?」と呟き、呆気に取られていたがルルは一応、フェレナに関する事かなと予想していた為、そこまで驚いては無くライオスの代わりに受け答えをしようと口を開いた。



「レギンさん、おおよそは理解しました。ですが、ユウは姉であるリファに姉以上の感情を持っているような……そう感じさせるような言動が良く見受けられるのです。ユウはフェレナちゃんの事を悪くは思ってないでしょう。いえ、寧ろ好んでると断然出来ます。ですがユウが受け入れるかは……」



 そう口にしたルルの言葉を遮るかのようにレギンは手のひらをルルの目の前へと突き出してストップを掛けた。



「……成る程な、やっと理解できたよ。その事なんだがな、フェレナが婚約者の事を話す時に何故かリファちゃんならユウ君の2人目の妻として認めてもいい。などと言ってたんだよ……それと世間体がどうとかこうとかだから正妻は私にした方が。等とも言っていたな……はぁ……言葉を理解すると更に憂鬱になった……あの男嫌いだったフェレナが男に興味を持った事を喜ぶべきかそうでないか難しいところだな……」



「そう……ですか……まぁ、まだユウは10歳です。王都の学校に通う歳になるまでにフェレナちゃんの気持ちが変わらなければユウの婚約者になってもらいましょう。もし、文句を言う人間が居ればその場合はユウに実力を示してもらえばいい話です」



 ルルはレギンに貴方も魔人の事をご存知なのでしょう? と言わんばかりに意味ありげな視線を送っていた。



「あぁ、そうだな……恩に着る……」



 そして1時間後、3人の食事会は終了し、ライオスとルルは夜が更けていく中、自宅へと馬車で戻って行った。




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