15話 ユウのこれから
霞がかった蒼い空から窓へと差し込んでくる光が自然と瞼を閉じさせる。
目を半開きにしながら朝日と格闘する包帯ぐるぐる巻きの少年――俺は今まさに目がとても痒くて仕方がなかった
俺はあまりにも包帯を巻きすぎていて寝返りすら打てない状態となっており、痒くても掻けず一人悶々とするしかなかったのだ。
たまに様子を見に姉であるリファが部屋を訪ねてきてくれるのだが、「目が痒いから掻いて」等とは言えず、目を瞬かせて何とか痒みを抑えていた。
母であるルル・ヴェロニアになら何を言ってもいいので一切の遠慮無く頼んでいる。
そのせいか、朝、昼、晩の3回しか顔を出してくれない。
もう少し息子を大事にするべきだと思う。
本当に耐えられなくなった場合はメイドさんに頼むのだが頼みにくいのだ。
なので9割くらいは母上にやってもらっている。昨日の晩、母上が部屋を出ていく前を狙って「あー、喉がかーわーいーたー!! ジュースが飲みたいよ母上」と晩御飯と一緒にガブガブ飲んでいたにも拘わらず叫んだら頭を叩かれた。
どうやら母上は病人の扱いを知らないようだ。
どうやってこの痒みを……と思っていたら部屋にノックの音が鳴り響いた。
決まって礼儀正しくノックをするのはリファだ。
母上は言うが早いか、いつも「入るわよ」と声を出すのだが言い切る前にいつも扉を開けていた。
両手両足が包帯ぐるぐる巻きとなっている俺は何も出来ないので本音としてはノックなどいらない。なので母上の行為をとやかく言うつもりもなかった。
部屋に聞きなれたノックの音が響くと共に、俺は心の中で喝采を上げながらまだかまだかと扉が開くのを待っていた。
うっひょー!! リファだ、リファだよ!! 昨日、何度も何度も顔を出してくれてたし本当に天使だ!! あぁ、俺の心のオアシス。リファとこうして話せられるなんて包帯生活も捨てたもんじゃないな!!
ノックが三度響いた後、俺がいつも通り「どうぞ」と興奮しているからかトーンの上がった声を掛ける。
一拍置いた後、リファが部屋へと足を踏み入れる事となった。
そして彼女が部屋に入ってきたと同時に俺の鼻息があからさまに荒くなる。
理由は勿論、リファの匂いが俺にとって心地よい香りだからだ。
傍から見たらただの変態だが。
「ユウ!! おはよう。昨日はちゃんと眠れた? 痛みとか大丈夫だった? 何か必要な物とかない?」
怪訝な顔をさせながら俺を心配する言葉を止めどなく掛けてくる。
リファの優しすぎる言葉に俺の心は嬉し涙で絶賛大洪水中です。
「あ、うん。大丈夫だよ。リファが来てくれたらそれだけで元気になるから。リファの笑顔が僕にとってのお薬だよ」
魔人騒動の後、リファとの会話の際に前世の時の口調にするべきか、今まで通りの口調にするかと頭を悩ませていたのだがリファが今まで通りで良いと言ってくれたので口調だけは変わらず、一人称は僕で落ち着いた。
「っ!? ゆ、ユウ? そんな冗談は言わなくていいから……困っていたらちゃんと私に言ってよ?」
一つ一つの言動に反応してリファは顔を赤らめ、あからさまに動揺する。
そんな光景を目が未だに痒いのか、目を頻繁に瞬かせながら笑みを浮かべて見つめていた。
その行為にリファは目聡く気がついたのか、彼女は身を乗り出して俺が使っているベッドの端に膝をつき、目と鼻の先にまで顔を近づけてから右手の親指で両目を優しく擦るように掻いてくれた。
その結果、俺の顔面は真っ赤に変色してしまった。
あと一歩踏み込んだ行為をされればこの部屋は血に染まる事になるだろうな。
俺の鼻血で。
そんな俺の心境を全く知らないリファはニコニコと笑みを浮かべながら口を開いた。
「はい、もう大丈夫だよ? 痒いなら痒いって言ってくれないと……はぁ、そういえばユウと一緒に居れるのもあと少しだね……」
先程の行為によって幸せ一杯だった俺の心に今の爆弾発言でポッカリと穴が空いた。
「……貴族だからって何で王都で勉強しなきゃいけないんだろうね……」
よく考えてみればリファが王都に向かうまであと半年もない。
という事は、貴族や貴族や貴族が天使であるリファに付きまとう危険性が出てくるという訳だ。と瞬時に理解した俺の今後の予定は一瞬にして決まった。
「大丈夫、リファに一人寂しい思いはさせないから」
優しい笑みを浮かべながら言い放った。
母上が許してくれない。父上が許してくれない。
そんなものはただの甘えだ。本当にリファが大事なのならば、金は自ら稼ぎ、王都に赴けばいいじゃないか。さぁ、さっさと怪我を治してギルドに行こうか。