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14話 2人の会話

 ユウが魔人と戦闘をした日の夜。

 日は完全に沈みきっており、夜の静けさがヴェロニア伯爵家を包み込んでいた。



 「だから、本当なんだって!! ねぇ聞いてるのライオス?」 

 


 だが、とある一室だけは静寂に包まれていなかった。

 ユウの母である――ルル・ヴェロニアは声をあらげながら双眸の先で椅子に座って黙々と手を進め、政務のような作業に勤しむユウの父――ライオス・ヴェロニアに向かって言葉を発していた。



「だから何度も言っているだろう。それは嘘だと。どうせたまには見栄を張りたくなったとかそんな事だろう。あの貧弱なユウが魔人と一戦を交えた等信じられるものか。毎日訓練をしているクルトでも魔人と相対すれば死は免れないのだぞ」 



 ライオスは事務的な口調で興奮気味のルルを宥める。

 だが、ルルはまだ引き下がらない。



「でも、本当に殴られた痕跡があったり騎士達を問い質しても皆口を揃えてユウが戦ったと言うのよ?」



「ふん、どうせユウがそう言うようにと指示でもしたのではないか? 仮にもあいつはヴェロニア家の三男。私に言いつける等と言われて騎士達も逆らえなかったのだろう。ま、そんな明らかに嘘と判断できる話はさておき……そう言えばリファがどうとか言っていたな。それはどういう用件だったんだ?」



 ライオスはルルの発言内容が嘘と信じて疑っていないのか鼻で笑いながら彼女が納得しそうな理由を言い放った。その発言を聞いてルルは複雑そうな表情をしていたが、ライオスがリファと言った瞬間にそう言えば、とクワッと目を大きく開きながら言葉を発した。



「そうそう、そう言えばそれが本題だったわ。あのねライオス。リファが恐らくなんだけどユウに惚れているような気がするの。リファにはその事を訊いていないから今のところは私の勘なんだけど間違いないと思うわ!!」



 声音が少々大きくなったルルを前にしたライオスは重い溜め息を吐きながら俯き、呆れ口調で言葉を投げ掛けた。



「ルル……今日のお前、なんか可笑しいぞ? リファとユウの仲が良いのはいつもの事じゃないか。ユウが大怪我をした事で頭が混乱しているんだよ、きっと。さ、俺の仕事も片付いた事だ。明日も早いし早く寝ようか」



 諭すかのような口調でルルに言い放ち、ライオスは椅子から立ち上がって伸びをした。

 そして寝室へとルルを誘導しようとするが、ふと何かを思い出したのか「あっ、忘れてた忘れてた」と小さく呟きながら先程まで使用していた机に備わっていた引き出しを開けて白い封筒を取り出した。



「そう言えば、家へ帰る途中にレギンからこんな手紙を貰ってな。何か大切な話があるらしく夕食に招待したいそうだ。だから明日の夜は予定を空けておいてくれ」



 ライオスはそう言いながらルルへ手紙を封筒ごと手渡した。

 いつの間にか落ち着きを取り戻していた彼女は手紙を見ながら口を開いた。 



「レギン・サークリッドって確かフェレナちゃんのお父さんだったかしら」



 うろ覚えだったのか、怪しむようにルルはライオスに尋ねた。



「ああそうだ。レギンとは昔からの付き合いで仲も良くてな。久しく話をしていなかったなぁと思い、もう行くと返事を返している」



 薄く笑みを漏らしながらライオスは楽しそうに言葉を発していた。

 声を弾ませていた彼を見ていたルルは笑みを浮かべながら渡された手紙を封筒の中に納めて机の上に置いていた。



 そして寝室に向かう途中、そう言えばフェレナちゃんもユウと一緒にいたわねと小さく呟き、一抹の何とも言えない不安を感じながらも眠りにつき、夜は更けていった。

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