前へ次へ
13/60

12話 ぶっちゃけ

 目が覚めた。

 深く暗い場所から、浮上したような感覚。

 身体が凄くだるい。



 目を覚ました俺はまず今の状況を把握しようと試みるが、身体は全くといってい程に動かない。

 辛うじて首が左右上下に動くくらいだ。



 だが、俺が今いる場所は直ぐに分かった。

 10年間ずっと見てきた天井。


 俺の部屋だ。



 俺が今、自分の部屋のベッドの上にいるという事は誰かが俺をここまで運んでくれたのだろう。

 お礼をしよう、そう思うが残念ながら起き上がる事すら儘ならない。



 どうしたものか。

 そう思っていると自分の足の辺りに妙な違和感があり、唯一動く首を頑張って左右上下に動かすとその違和感の正体が分かった。



 床に膝をつきながら、俺のベッドに突っ伏して寝息をたてながら俺の母――ルル・ヴェロニアが寝ていたのだ。



 俺は今、身体が全く動かないので近くにいた母上の存在は凄くありがたかった。



 自分が倒れてからどうなったのかが凄く気になっていた事あって俺は少し良心が痛んだが、寝ている母上を起こそうと5秒くらい悩んだ末に決めた。



 母上、起きてください。そう言おうとしたが、声が掠れて全く出ない。

 どうしよう、どうしよう、と思いながら何か良い方法はないだろうか、と俺は考えに考えた。



 俺は自分の無い頭を振り絞った結果、




 息をフーフーしまくって起こす、という馬鹿過ぎる考えに至った。




 だが、この考えが意外にも良かったらしく、3分程フーフーしていたら母上は目を覚ましてくれた。



 喉はからっからになったがな!!




 そんな馬鹿な俺の開口一番のセリフは「……み、水がのみ……たい」だった。

 そんな言葉を聞いた母上は慌てて水を持って来てくれた。



 その後、母上が俺の顔に水を盛大にぶちまけたりしたが、無事二人とも落ち着いて話せる状態にまで至った。




 俺が落ち着いた頃を見計らって母上は急に俺に責める様な眼差しを向ける。

 直後、口を開いた。



「ねぇ、ユウ。何があったの?」



 母上は、今は布団に隠れて見えなくなっているが、包帯ぐるぐる巻きにされている俺の足や手などがある場所に視線を移しながら訊ねた。



 その母上の発言を聞いて、俺は意識を失う前に辛うじて言い切ったであろう「母上と父上には言わないで」という言葉を聞き取り、実行してくれたあの時の俺に駆け寄ってくれた騎士さんに心の底から感謝をしながらも即席の言い訳を俺の足りない頭をフル回転させて考える。




「…………………」



 勿論、考えながら適当にはぐらかす。なんて芸当は俺には無理なので無言になってしまう。



 俺が母上の言葉に返事をせず……いや、出来ずに一分程経った時だった。

 母上は何も言う気配のない俺に痺れを切らし、次は少し怒りながら先程と同じ言葉を口にした。



 怒りのようなものが母上の周りを渦巻き始めたような気がした俺はこれ以上待たせるのは得策では無いと判断し、一分の間に考えついた言い訳の中で一番マシな言い訳を口にした。



「え、えーっと………ま、魔物に襲われました」



 初めに思いついた言い訳は、滑って転びまくって岩なんかにぶつかっちゃいました!! だったので、これでもかなりマシになった方だろう。



 この言い訳で……どうだ!? と母上の返答を待っていたら、盛大に溜め息を吐き、



「魔物に襲われてなんで全身の骨が砕けてるの? 噛みちぎられた後もない。それにユウの身体には殴られた痕がはっきりと残ってたわよ。ユウの治療をしたのは私よ? 嘘なんてつくだけ無駄よ。さっさと本当の事を言いなさい」



 正論を言ってきた。

 それはもう、俺の逃げ道を一つも残さない正論だった。

 そして俺は



「………ま、魔人と戦ってきま……し、た」



 素直に本当の事をゲロった。



 だが、母上の質問攻めは止まらない。



「ええ、そうでしょうね。傷痕からして魔人だっていうのは直ぐに分かったわ。これでも過去に何人も魔人と戦った人を治療してるもの。で、ユウは魔人とどうやって戦ったの?」



 そう訊ねる母上の表情には半ば脅迫めいた色が浮かんでおり、「本当の事をさっさと言え」と言いたげだ。



 

 母上の威圧的な態度に俺は……俺は……





「……ぱ、パンチやキックで応戦しました」



 逆らえなかった。



「へぇ……そうなのね……なんでユウは魔人と戦えたの? こう言っちゃ難だけどユウって弱かった……わよね? いつもリファにくっついていたし……私は勝手にユウは全く戦えないと決めつけていたのだけれど」



 俺に向かって責めるような眼差しを尚、している母上の質問攻めという名の猛攻は止まる気配が一切無い。

 そんな母上に俺は茶目っ気を少し出し、



「き、き、急に力に覚醒しちゃって!!」



 冷や汗をだらだら流しながらも言い切った。

 そんな茶目っ気たっぷりの出鱈目な言葉を聞いた母上は急に鬼の様な形相に変わっていっていたので俺は慌てて撤回した。



「嘘!! 嘘でした!! 嘘ついて本当にすみませんでしたッ!!!」



 唯一動く首を急いで下げ、心をかなり込めた謝罪をした。

 10歳の子供では母親に勝てませんわ……



 俺は謝罪した後に、一度わざとらしく咳き込んでから口を再度開いた。



「……お、お散歩に行っていた時に……き、鍛えてましたっ!! こ、これは本当だよ!! 今回は嘘ついてないよッ!!」



 母上は俺の言葉に疑う様な目をしていたので俺は慌てて、後付けで嘘じゃないと言いまくった。



 あぁ、腹芸が出来ないって辛いよ……



「お散歩と私達に嘘をついて、いつもユウは体を鍛えてたのね? 一応、それは納得してあげる。でもユウは何で鍛えてたの? 意味なく鍛えたりはしないでしょう?」



 母上は、嘘、という部分だけ妙に強調していた気もするが気にしたら負けだ。

 その発言はスルーだ。突っかかってはいけない。



 何で鍛えていたか? 待ってましたぁ!! この質問に対しては良い言い訳があるんだよ!!



 姉上にいつか付くかもしれない害虫(男)を駆除する為です!! とか言ったらまずいからな。これは何としてでも嘘をつき通すしかないんだよッ!!



 そして俺は満面の笑みを浮かべながら予め用意しておいた言葉を……



「ヒーローに憧れてたんです!!!」



「嘘ね「なんでっ!?」」



 即座に否定された。



 母上は何を当たり前な事を、といった表情を浮かべながら



「ユウが本当の事を直ぐに言うわけが無いじゃない。ユウが本当の事を言うのは二回か三回聞き直した後ね」



 と言ってきた。



 あっるえぇー!? 俺ってそんな嘘つきだった!? 一応これまで猫被りまくってたと思うんだけど!! そんなに信用ないの俺!?



 頭の中で考えを巡らせていると、母上がさっさと言いなさいと急き立ててきた。



 俺はそんな母上の言葉を聞くと一度下唇を噛み、いつの間にか緩んでいた顔を引き締め、少し前に捨てた守ってあげたくなる系弟キャラで母上に疑問を疑問で返した。



「理由を知れば、母上は僕を軽蔑するでしょう。母上はそれでも……それでも……聞く覚悟がお有りですか?」



 母上は俺の言葉に冗談など一切ない事を感じ取ったのか、母上は神妙な顔になっていた。母上は一切の迷いなく、ええ、と肯定した。



 俺は、少しは迷えよ!! と心の中で突っ込みながらも、もうどうにでもなれッ!! と思いながら本当の事をぶちまけた。




「実は………美人で可愛い姉上に付きまとう害虫()を発見したら直ぐに駆除出来るように、と思って鍛えてました!! 最近は性根の腐ったクズが多いと耳にしたので、貴族ならば、連れている護衛の騎士もろとも駆除出来るようにと日々鍛練に励んでましたぁ!!」



 俺は屈託の無い笑顔でぶっちゃけた。




「……………えっ!?」



 たまたまユウの様子を見に来ていた、姉であるリファもその言葉を聞いていた事に気がつかずに……



 俺の言葉を聞いて素っ頓狂な声をあげたリファを見た俺は



「……え? ……ぇぇぇぇええええええええええ!?」



 大声で叫んだ。


前へ次へ目次