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10話 フェレナの過去

フェレナ視点

 私がユウ君と初めて会ったのは、リファちゃんの6歳の誕生日パーティーに呼ばれた時だった。



 私の家も伯爵家という事あって、歳は離れていたがリファちゃんとは直ぐに仲良くなった。そんなリファちゃんの後ろに隠れながら後を付いていっていた可愛い男の子。それが私のユウ君に初めて会った時に抱いた印象だ。



 私はそのパーティー以来、元々私に女の子の友達と言える友達が居なかったからか、何度もリファちゃんと会って話したりするようになった。勿論、リファちゃんも私の家に遊びに来てくれたりもした。


 

 そして、リファちゃんと会う度にユウ君も一緒に会いに来てくれた。



 だが、そんな日も長くは続かず、私は13歳にリファちゃん達よりも早くなり、王都の学校に通うことになってしまった。



 ずっと王都にいなければいけない訳ではないので、私は会いに行けるときはリファちゃんとユウ君に会いに行き、仲の良い友人という関係が消える事は無かった。



 私が14歳になったある日、通っていた王都にある学校の授業一環としてダンジョンに潜る事になった。生徒は6人でパーティーを組み、危険度の低いダンジョンに潜るだけ。そう言われていた――――



 私は男の子が3人、私を含む女の子が3人の男女比が同じグループに入れてもらった。



 私と同じパーティーにいた男の子の中には戦闘の天才、麒麟児などと呼ばれていたとある子爵家の長男や、将来王国の近衛騎士の団長にでもなるんじゃないかと噂されていた侯爵家の次男もいた。



 私は、そんなパーティーに入れて良かった。

 そう、ダンジョンに潜るまでは思っていた。



 基本的にダンジョンは1階、2階などと言われ、下へ下へと潜っていく。

 授業で潜る場所は1~10階の弱い魔物ばかり出現する場所まで潜る事となっていた。



 私のいたパーティーは天才などと言われていた子爵家の長男だった男の子がリーダーをしていた。



 その男の子は「このパーティーなら、10階よりも下に余裕でいける!! もっと下に行って先生を驚かせてやろうぜ」そう言って皆の同意を取り、私達は10階よりも下へ潜った。その時は皆その言葉を信じて疑わなかった。



 子爵家の男の子の言った事は本当で、18階までは全く問題なく進む事が出来た。

潜っている途中に私達のパーティーにいた男の子達が私を含む貴族の令嬢達に「俺が絶対に守ってやる!!」や「俺がいるから絶対に安全だ」などと頼もしい事を言ってダンジョンに潜りながら口説いていたりした。



 口説かれた事で頬を紅潮させていた女の子もいた。

 その時の私は、ああ、確かに自分を守ってくれる強い頼り甲斐のある男の子になら惚れても仕方ないね、と思いながら頬を紅潮させていた女の子を見たりしていた。私も口説かれたりしていたが、その時はまだ何も思わなかったが、自分が守られたりしたらその時は守ってくれた男の子に惚れちゃうんだろうな。と少し期待はしていたが。



 そんな会話をしたりしながら、私達はダンジョンの19階に辿り着いた。

 私達が10階よりも下へ行こう。と決めた際に20階まで潜ったら帰ろう。

 そう決めていた。あと少し、あと少しで戻るとこだったのに、あいつは私達の前に現れた。




 ――――――そう、魔人だ




 19階という浅い階層にいるはずのない魔人がいたのだ。

 その魔人は私達に気が付くと間髪入れずに攻撃をしてきた。

 初めに狙われたのは私達のパーティーで先程まで頬を紅潮させていた女の子だった。



 魔人は目にも止まらない速さで女の子との距離を詰めて拳を振るい、殴り飛ばした。



 私はそれを見て、殴り飛ばされた女の子を助けようと女の子の飛ばされた場所にまで駆け寄った。皆もこの子の治療を手伝って!! そう言ったが、私のように駆け寄った人は一人も居らず、一瞬で敵わない敵と判断して私と飛ばされた女の子を除いたパーティーメンバーは悲鳴をあげながら逃げ出していた。



 なんで? さっきまで守ってやるとか言っていたのに。そう口に出すが、誰の耳にも届かない。だが、私は運が良かった。魔人は逃げていったパーティーメンバーを追いかけて行ってくれたのだ。



 それを見て私は飛ばされた女の子におぶさってもらい、上を目指して走り出した。




 その後は魔人と会うとこは無く、ダンジョンの外にまで出ることが出来た。

 そして私におぶさっていた女の子を治療して貰うために先生達のいる場所にまで運んだ。



 女の子を治療してもらっている間に周りを見ると他の帰ってきていたパーティーなどもいたが酷い怪我をしており、先生達に治療をしてもらっていた人が4人いた。



 ―――――逃げていった私のパーティーメンバーだった。



 大怪我を負っていたパーティーメンバー達の治療を終えた後、私は侯爵家の男の子に聞いてみた。なんで逃げたの? 守ってくれるんじゃなかったの? と。



 男の子は答えた。俺の命の方がお前なんかよりも大事だ。名の知らない魔人だったが勝てないと一瞬で理解できた。逃げるのは当たり前だ盾にしなかっただけ有り難く思え、と。



 その日以降、私は男の子の言葉を信用出来なくなった――――





 そして時は止まる事無く進み、15歳になったある日、王都から家に戻ってきた時に私の父がそろそろ結婚相手を決めろと言ってきた。そして、自分で決めないなら勝手に決める、という言葉と一緒に。



 その時の私は平気で嘘を吐く男の人と生涯を共にするなど考えられなかった。

 だが、父の言葉は冗談では無い。その場しのぎだったが、分かりました。とだけ伝えて父から離れ、気分転換にリファちゃんに会おう。そうすれば気も晴れるだろう。 そう思い、私はリファちゃん達と一週間後に会うことになった。




 一週間後、私の提案で森にある綺麗な湖の近くでお話やお茶をする事になった。

 勿論、ユウ君も付いてきていた。あの日以降男の子とまともに接する事が出来なくなった私は、ユウ君だけには普通に接する事が出来た。



 ユウ君が幼馴染みだったから? リファちゃんの弟だったから? 男の子とは思えない位にか弱そうだったから? 10歳の子供だったから?



 恐らく今思った中の何かだろう。

 


 ユウ君の事を考えるといつも思ってしまう。

 ユウ君は男の子だけれど強くならなくてもいいのかな? と。



 私の周りにいた男の子は強く、強くなろうと皆必死だった。例外な人もいたけれど、殆ど全員が父に言われて、母に言われて、自分の意思で、男だから、などと理由は様々だったが、皆強くなろうとしていた。



 『人間は強くないと生きていけれない。男なら尚更強くならなければいけない』魔族と敵対関係にある私達人間の王国にある学校で真っ先に男性に向かって言われる言葉だ。適材適所という言葉はあるがまずは戦力を集めないといけないというのが現在の実情だ。



 だけれどユウ君はどうだろうか、リファちゃんにいつも引っ付いている。私が言ってあげるべきだろうか? 男の子なら強くならないといけないよ、と。




 そんな事を思っているとリファちゃんがユウ君に向かって言った。

 男の子なら女の子を守らなくちゃいけない、と。




 私は悩んだ。

 リファちゃんに言うべきだろうか? 男の子は守ってはくれない……と。

 ああ、気分転換にリファちゃんと会っているのになんでこんな事を考えなければいけないんだろうか。



 そう考えているとユウ君が言った。

 私とリファちゃんをユウ君が守る、と。



 思い出すのはあの時の記憶。

 守ることなく、いの一番に逃げる男の背中。

 だが、ユウ君はまだ10歳だ。子供の言葉だ。突っかかってはいけない。それに冗談に決まってる。

 でも返事をしないのは良くない、なら冗談でもお願いしておこうか。



 そう思って私はユウ君に守って貰える筈の無いお願いをした―――



 そしてその1時間後に魔人が現れた―――







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