星空に架かる虹

作者: 七宝

 レーテはまた、うんちをしていました。そこに隣の家のおばさんが出てきて、マキちゃんに言いました。


「また放置するんじゃないでしょうね! 飼い主の責任でしょ!?」


「でもうんちしちゃったのはこの子ですから。文句があるならこの子に言ってもらわないと」


 リードを持っていない左手の小指を耳に入れ、ゴソゴソしながら答えます。


「あのね、それでも飼い主が責任を持って回収するものなの。マキちゃんもう高校生よね? 常識無いと社会出たら困るわよ。こっちだっていつまでも我慢出来る訳じゃないんだからね」


「はいはーい」


 レーテのうんちが済んだので、家に帰ります。


「ちょっと待ちなさいよ!」


「待ちません」


 スタスタとその場を去りました。


「まったくあの子は⋯⋯」


 困った顔をして、おばさんは家にスコップを取りに行きました。


 マキちゃんは家に着くとレーテを犬小屋に押し込み、そそくさと家の中へ入っていきました。


 近所の住人は皆迷惑していました。しかし、あまり強く言えずにいました。

 マキちゃんのことは小さい頃から可愛がってきましたし、彼女の両親は2年前に交通事故で亡くなっており、たいへん気の毒なのです。


 夜が来て、朝が来ます。


 また、レーテはうんちをします。少ないご飯を食べて、少ないうんちをするのです。


 そして近所の誰かが注意します。その繰り返しの日々でした。


 ある夜、レーテが鳴いていました。野良猫と睨み合いでもしているのか、近所中に聞こえるような絶叫でした。

 時刻は深夜2時。明日も学校のマキちゃんは当然眠っていましたが、レーテの声で起きました。


「なんなのよ⋯⋯」


 またおばさん達に言われるな、と思いました。


「うるさいなぁ⋯⋯」


 それでもマキちゃんは「私のせいじゃないから」と聞こえないふりをして、再び眠りに就きました。


 翌朝、レーテが散歩に行きたがりませんでした。いつもはこの時間にうんちタイムなので、うんちをするためだけに散歩に行っているのです。


「じゃあ学校行ってくるから、帰ってくるまでうんちしないでね」


 そう釘を刺して、マキちゃんは登校しました。


 10時間後、壊れたリュックに濡れた制服姿のマキちゃんが戻ります。


「散歩行くよ」


「くぅん」


 その場を動こうとしません。


 無理やり引っ張ると、レーテが叫びました。今まで聞いたことの無い、いや、昨晩の絶叫に似た鳴き声でした。


「レーテ、どこか怪我してるの?」


 身体を触ります。


「ギャイン!」


 左のうしろ足でした。

 マキちゃんはすぐにタクシーを呼んで、動物病院へ向かいました。


「折れてますね。ポッキリと」


「ポッキリ、ですか?」


「どこかの遊具で遊ばせたり、飛び跳ねたりしましたか?」


「いえ、最近は近くを散歩するだけで、家でもずっと犬小屋にいますし⋯⋯」


「はぁ⋯⋯」


 それを聞いた先生は困ったような顔をして、ため息をつきました。


「ショックを受けるかもしれませんが、聞いてください」


「はい⋯⋯」


「この子は老犬で骨も脆くなっていますが、今回の骨折は普通に生活していてなるようなものではありませんでした」


「と、言いますと?」


「⋯⋯誰かに折られた可能性があります」


「そんな!」


「恨みを買うようなことはありませんでしたか?」


「それは⋯⋯」


 マキちゃんは答えられませんでした。


「まぁ⋯⋯くれぐれも、お気をつけて」


 足は切断になりました。


 それから、マキちゃんとレーテは散歩へ行かなくなりました。

 三本足になったレーテは歩くのが大変そうですし、なによりうんちが上手く出来なくなってしまったのです。


 マキちゃんが手伝ってしまうと、「この子が勝手にやっているだけなので」と言えなくなってしまいます。


 家の庭にうんちが増え続け、レーテのお尻も日に日にうんちまみれになっていきます。

 その度に、マキちゃんのレーテへの当たりが強くなるのでした。


 数ヶ月後、ついに右足まで悪くなってしまったレーテは、前足だけで身体を引きずってうんちをしていました。それでもお尻についたうんちのせいで犬小屋は悪臭にまみれていて、劣悪な環境の中にいました。


 そのうち、マキちゃんはレーテを叩くようになりました。レーテはショックでした。彼女だけは何があっても味方だと思っていたからです。


 今日もマキちゃんがなにやら怒鳴っています。学校で何かあったのでしょう、そのストレスをレーテにぶつけます。


「お前のせいでうちはうんこ屋敷って呼ばれてるのよ!」


 踏み込むと確実にHPが減りそうな庭でマキちゃんが叫びます。

 蹴られたレーテはその場に倒れ、うんちの臭いで気絶します。


 そんな日々が何日も続いたある日。


 雲ひとつない、とっても綺麗な星空が現れました。それを見たレーテはなんとなく「今日、自分は死ぬんだな」と思うと、ポロッと1粒、涙を流しました。


 その時でした。

 空に大きな虹が現れたのです。


 レーテが見とれていると、突然身体が輝き出しました。あまりの眩しさに目を瞑ると、次の瞬間、彼は二本足で立っていました。


「足が⋯⋯って、えぇ!?」


 喋れるようにもなっていました。


「もしかして僕、人間になった!?」


 なぜかうんちが消え去っていた庭を走り抜け、大きな窓の前へ来ました。


「こ、これが僕⋯⋯?」


 そこに写っていたのは、栗色のフサフサの毛に包まれた、ムキムキの男⋯⋯ではなく、犬でした。顔だけ犬のムキムキ異形です。


「ムキムキ犬マン⋯⋯」


 思わずレーテはそう呟きました。


「なんでも出来るぞ⋯⋯!」


 さて、あたりは真っ暗。みんな晩御飯を食べている時間です。

 レーテはまず、走ることにしました。


「気持ちいい〜!」


 ここ数ヶ月走っていなかった彼は走り方を忘れかけていましたが、この体は「走りたい」と思うとそのように動くのです。


「キャー!」


 突然、女性の悲鳴が聞こえました。


 レーテは振り返り、人間の臭いを探ります。


「近くに人間がいる! こっちだ!」


 走ります。


「ぐふふ、お前のメロンパンを食べてやる!」


「私のメロンパンを返してー!」


 緊迫しています。


「え? メロンパン⋯⋯?」


 微妙に疑問に思いながらも、声のした場所に到着しました。そこには大学生くらいの女性とチンピラ男がいて、チンピラ男の手には子犬が握られていました。


「食ってやるぜ!」


「メロンパンを離してー!」


 必死に叫ぶ女性。


「犬の名前かよ!」


「なんだ!?」


「なに!」


 レーテのツッコミに振り返る2人。


「ムキムキ犬マン、参上!」


 ボディビルのポーズを決め、さっき決めた名前を名乗るレーテ。


 レーテはチンピラ男を殴り飛ばすと、女性に子犬を返してあげました。


「おおきに、おおきにな、イッヌ」


 女性はそう言って子犬を肩車して帰っていきました。


「いいことしたなぁ〜」


 レーテはウキウキでした。人生(いぬせい)で初めて人助けをしたのです。


「ギャース! めっちゃギャース!」


 今度は男性の悲鳴(?)です。


 声の場所まで行くと、血まみれの男性が倒れていました。


「ムキムキ犬マン参上! どうしたのお兄さん!」


「ドラキーにやられて⋯⋯ぐはっ!」


「それは大変だ! ザオリク!」


「いや死んでねーよ! ⋯⋯ああっ! 身体がなんか気持ちいい! ああっ! ああっ! ああーーーーーーーーーっ!!!!!!!」


 ものの数秒で男は復活しました。


「ありがとうムキムキ犬マン!」


「当然のことをしたまでです」


 レーテはまたウキウキでした。人の役に立てて嬉しいのです。


 ドカーン!


 向こうの方で大きな音がしました。


「今度はなにかな?」


 レーテが駆けつけるとそこには巨大なウサギが二匹いて、巨大な杵と臼でお餅をついていました。


「ほいさ!」ドーン!


「はいさ!」ぺたっ


「ほいさ!」ドーン!


「はいさ!」ぺたっ


「ほいさ!」ドーン!


「はいさ!」ぴたっ


「君も食べる?」


 手返しをしていたウサギがお餅をちぎってレーテに差し出しました。


「ありがとう」


 お礼を言って受け取ると、すぐに口へ運びました。


「なにこれ!!!!!」


 ふわふわもちもちで、あま〜い味がするのです。


「お砂糖入れてるんだぁ〜」


「すごーい!」


「良かったら君もお餅つきする?」


「うん!」


 仲間に入れてもらったレーテは、お餅をついたり、手返しをしたり、あんこを包んだり、ババ抜きで25連敗したりして過ごしました。


 夜が明けた頃、レーテは突然ホームシックになりました。


「二人とも今日はありがとう。とっても楽しかったよ」


「ぼくらも楽しかったよ!」


 さよならをして家に向かいます。


 家に。


 ⋯⋯家に?


「あれ、ここどこだろう⋯⋯」


 分からなくなったレーテでしたが、歩いていればそのうち着くだろうと思い、歩き出しました。


 なかなか家に着きません。


 レーテは歩きます。


 家に着きません。


 レーテは薄々気づいていました。

 普通、巨大なうさぎなんて有り得ませんし、立て続けに事件が起こったのも不自然ですし、なにより自分がムキムキ犬マンになったことがおかしいのです。


 レーテはここが別世界であると確信しました。この世界には、レーテのおうちはないのです。


「帰りたい⋯⋯マーちゃん⋯⋯」


 レーテは怒っていませんでした。最初の頃は痛くて辛かったのですが、マキちゃんはマキちゃんで辛かったのだと気づいたのです。本心をぶつけられる相手が自分以外にいないのだと分かったのです。


「マーちゃん⋯⋯」


 マキちゃんのいる家にはやく帰りたい。そう思って何日も歩き続けました。されども着きません。


 ついにレーテはその場に倒れ、泣きました。


「もう会えないのかな⋯⋯マーちゃん⋯⋯」


 その時でした。

 明るかった空がぱっと暗くなり、建物の明かりも全て消え去り、あたりが真っ暗になりました。


 次の瞬間、けたたましい声と音がして目を覚ますと、レーテは知らない場所にいました。小さな部屋に、犬がたくさん(うごめ)いています。


 何匹かの犬は力なく横たわり、それ以外は叫びながら壁を引っ掻いていて、外からゴオォという大きな音がしています。


 お腹に何かが当たったのを感じて見てみると、レーテの半分くらいの大きさの仔犬がいました。


 そして、自分の足がありません。ムキムキ犬マンではなくなっていたのです。


 バタッ


 バタッ


 周りの犬が次々に倒れていきます。


 何が何だか分からないレーテはとりあえず、隣の仔犬をお腹の下に隠しました。ムキムキ犬マンとして、小さな命を守ってあげないと、と思ったのです。


 しかし、レーテの身体もいつのまにか動かなくなっていました。強い眠気がレーテを襲います。遠のいてゆく意識の中、レーテは必死に仔犬に被さりました。


 絶対にこの子は死なせない。そう思いながら。

















「母さん、ビール持って来てくれ」


 お父さんの声が聞こえました。


「もう89本目ですよお父さん」


 お母さんの声も聞こえます。


「こんな嬉しい日にそんな事言うなよ〜」


 うんちの落ちていない庭で、空になった瓶を片手に左右に揺れるお父さん。今日はマキちゃんの誕生日なのです。


「はいはい、持ってきますね」


 サンダルを脱いで、家に上がるお母さん。


「レーテ! あーん!」


 振り返ると、あの日のマーちゃんがいました。


 ひとつだけ塩をかけずに焼いた牛肉を、ふーふー冷ましていたのです。


「アン! アン!」


 喜びの舞いを踊りながら、マーちゃんの手にあるお肉にかぶりつきます。


「おいしい?」


「アン!」


「お前はかわいいなぁ! よーしよしよし!」


「アン! アン!(食べにくい〜〜〜〜〜!)」


 それでも、レーテは顔をくしゃくしゃされるのが大好きでした。


 ドシャン!


 大きな音がしました。


「痛たたた⋯⋯」


 小さなキャンプ椅子に座っていたお父さんが、後ろのプールに落ちたのです。お尻がびしょびしょです。


「お父さんビール持っ⋯⋯もう、何やってるのよ! 風邪ひくわよ!」


「大丈夫大丈夫、網の上に座れば乾くから!」


 そう言ってお父さんは本当に網の上に乗ろうとしてバランスを崩し、またプールにドボンしました。


「もう、だから飲み過ぎないでって言ったのに! この千鳥足の茹でダコめ!」


「あはははは〜!」


 激怒するお母さんと爆笑するマーちゃん。


 レーテにとって、生涯で最も楽しい日でした。


 レーテは幸せでした。


 このままずっと、


 幸せでした。
















「レーテ!」


 レーテは大きな声で目を覚ましました。


「止めてください! レーテを出してください!」


 マーちゃんの声でした。

 すぐに機械が止まり、扉が開きました。


「レーテ!」


 マーちゃんはレーテを抱え上げると、思いっきり抱き締めました。


「ごめんねレーテ! 本当にごめんね!」


 何度も何度も謝って、泣いて、抱き締めました。周りにおじさんがいましたが、ずっとずっと泣きました。


 しばらくして泣き止んだマーちゃんがレーテを連れていこうとすると、レーテが前足で踏ん張りました。


「どうしたの?」


「くぅん」


 部屋の中から出てきた仔犬の頭をレーテが舐めました。


「この子も連れていくの?」


「イェア」


 レーテの希望とあっては断れないので、マーちゃんはその子も連れていきました。施設を出る時に、マーちゃんはおじさんになにやら謝っているようでした。


「よし! 今日はいいお肉を食べよう!」


 施設の前でそう叫んでいると、知らないマダムに声をかけられました。


「その子どうしたの!? ここで貰ってきたの!? 可愛い〜〜〜〜〜!!!」


 やたらテンションの高いマダムで、仔犬に一目惚れしたようでした。


「絶対絶対幸せにするから! もし良かったら譲ってくださらないかしら!」


「いいですよ」


「ンマァーーありがとーーー!」


 マーちゃんはすんなりと引き渡しました。

 マダムがマーちゃんに「なにかあげるから」ではなく、「絶対に幸せにするから」とアピールしたのが刺さったのです。


「ごめんねレーテ、勝手に決めて。でもあの子には1番良いのかなって思って」


「ワン!」


 嬉しそうに吠えました。


「それにしても、喉かわいたね。レーテもあんま飲んでないでしょ」


「ワン」


「確かそこの路地に自販機が⋯⋯あった!」


 抱いていたレーテを一旦下ろし、水を買いました。


「おまたせレーテ⋯⋯あれ!?」


 レーテがいません。水を買っている一瞬の間にいなくなってしまったのです。


「えっ、どこ!? どこ!?」


「犬ならこっちだぜ」


 路地裏から明らかに怪しい男の声が聞こえました。

 行ってみると、金髪にピアスだらけの若い男がレーテの首輪を掴んで持ち上げていました。


「レーテを離してください!」


「やだね」


「警察呼びますよ!」


「その前にこいつ殺すよ」


「なんでそんな⋯⋯」


「お前、この辺りじゃ有名なんだよ。この犬がうんこばら撒いてっからな」


「それはごめんなさい、これからはちゃんとしますから! だからレーテを返してください!」


「うちの母親はノイローゼでおかしくなっちまってな、この間なんて道端でうんこ食ってるのを近所の人が見つけて大変だったんだぜ」


「多分それ時期的にレーテのうんちじゃないです⋯⋯」


「あ? 元はといえばオメーだろうが」


「はい⋯⋯」


 マーちゃんは困っていました。今のこの状況は120%自分のせいだからです。


「てことで、こいつ殺すから」


「え」


「こいつ殺せばフン害なくなるだろ?」


「もう何ヶ月も他所でうんちしてないんです!」


「んなこと信じられっかよ」


「うちにうんちたくさんあります! 見に来てください!」


「うるせぇよ。こっちはもう家庭崩壊しちまったんだよ。それに、こんな足のない犬、殺してやった方がこいつのためだと思わねえか? このまま生きてても辛いだろ」


「私も1度はそう思いました。だから保健所に連れて行った⋯⋯辛かった。人に家族を殺してくれだなんて⋯⋯。でも。諦めきれなかった! 足がなくて生きるのが辛かったとしても、私が一生支えて一秒でも長く一緒にいたいと思ったんです!」


「ハッ、クズのくせに⋯⋯改心したつもりかよ。1回捨てた時点で飼い主失格なんだよ。まぁお前の場合はもっと前から失格だったがな。なぁ犬っころ」


 レーテはずっと震えていました。


「そういうわけだ、こいつはこれから保健所へ連れていく」


「あの⋯⋯」


「なんだ」


「⋯⋯なんでもするので、レーテを返してください」


「なんでも?」


「はい、なんでも⋯⋯」


 男はマーちゃんの身体を上から下まで見回すと、「ハッ」と笑いました。


「こんな髪ボサボサのブス、誰が抱くかよ」


「じゃあ、どうすれば⋯⋯」


「そうだな⋯⋯どうしてもこの犬を殺したくないなら、お前が死ぬか? そうすればこいつも出歩けなくなる」


「そんな!」


「じゃあこいつを殺す」


「⋯⋯分かりました、煮るなり焼くなり好きにしてください」


「おれは何もしねぇよ、捕まりたくねーからな」


「えっ、じゃあ⋯⋯」


「自分で死ね」


「そんな、どうやって⋯⋯」


「息止めて死ね。そうすれば事件じゃなくなる」


「分かりました⋯⋯」


 マーちゃんは覚悟を決めて、息を止めました。


 しかし30秒後、苦しくなって息をしてしまいました。


「何やってんだよ。こいつの前足折ってやろうか?」


「止めようとしてもなかなか止められなくて⋯⋯」


「なかなかじゃねーんだよ。死ぬ気でやりゃ出来んだろ。死ぬ気で死ぬんだよ、こいつのために」


「分かりました」


 再び息を止めます。


 1分が経ち、5分が経ち⋯⋯


 230分が経った頃。


「お前化け物かよ! もう真っ暗だぞ!」


「⋯⋯⋯⋯」


「どっかから抜けてんじゃねえか? やっぱ息止めて死ぬなんて出来ないんだな。もう見たいアニメ始まるから、こいつ殺して帰るわ」


「やめて!!!!!!」


「はい息した〜! 前足折りまーす!」


「やめんしゃい!!!!!!」


 掴みかかるマーちゃん。しかし、男の力には敵いません。簡単に振り払われてしまいます。


「もういい、殺す。殺して帰るから」


「やめてください⋯⋯うぅ⋯⋯」


 マーちゃんの流した涙が、地面に落ちました。


 するとレーテの身体が光り出し、みるみるうちに大きく逞しくなりました。


「くらえ! ムキムキパンチ!」


「ぐぼあ!」


 パンチ一発で男を倒したレーテは、マーちゃんをお姫様抱っこしてその場を離れました。


「マーちゃん、大丈夫?」


「喋った!? レーテ、この姿は一体⋯⋯」


「ムキムキ犬マンだよ」


「ムキムキ犬マン!? 名前ダサっ!」


「えっ」


「あ、いや、あの⋯⋯助けてくれてありがとね」


「うん!」


「あと⋯⋯今までずっと、ごめんね」


「大丈夫だよ!」


 レーテはそのまま家まで全力で走りました。ずっと帰っていない我が家にはやく帰りたかったのです。


 家に着くと、マーちゃんが冷蔵庫にあった野菜セットとうどんで焼きうどんを作ってくれました。


「どうぞ、レーテ」


「いただきます!」


 箸を使って焼きうどんを頬張るレーテをマーちゃんが不思議そうに見ています。


「まだ信じられないわ⋯⋯」


「だよね」


「ちょっと私のほっぺたつねってみてよ」


「いいよ、ムキムキ〜」


「いや、技はやめて。抉れるから」


「分かったよ」きゅっ


「痛っ」


「僕のほっぺたもつねってみて」


「んっ」きゅっ


「痛い⋯⋯てことは、正夢なんだ⋯⋯」


「おりゃ」


 マーちゃんがレーテの顔をモフっと掴みました。


「くらえー! もしゃもしゃもしゃもしゃ〜!」


「ぎゃーーー! 食べにくいよ〜〜〜〜!」


「やめる?」


「もっとやって!」


「おりゃーーーーーーーー」


「もっともっと!」


「おりゃーーーーーーーーーーーー」


「もっともっともっともっと!!!」


「おりゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー一生やってやるーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー一生可愛がってやるぅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

 おしまい。