前へ次へ
65/209

聖女コラボ企画*2

「対バンとかもそうだけど、複数の聖女が1つの会場で礼拝式をやるのはさ、会場費用の折半っていう効果もあるけど、他にも効果があるんだよ」

 澪はナビス向けに説明してみる。マルガリートとパディエーラは『たいばん……?』と首を傾げていたが、そちらはひとまず置いておく。

「知名度の低い聖女達が、名前を売る機会を得られる、ってことが一番大きいと思うんだ。例えば、ナビスはポルタナとメルカッタではもうすっかり知名度高い方だけど、レギナではそうでもないじゃん?でも、そこでレギナの聖女と一緒の舞台に出てたら、レギナの聖女を見に来た人にも知ってもらえるってわけ」

「成程……それでいて、マルちゃんやパディ様には、ポルタナやメルカッタでの知名度を上げて、互いに利のある関係とする……ということですね!」

「そうそう。そういうこと!」

 澪とナビスが頷き合っていると、マルガリートとパディエーラもまた、『ああ、そういうこと』と納得したように頷いてくれた。

「……ついでに、コラボ企画は『互いの所属はそのまま』っていうのが大事だと思うんだ」

 更に澪がそう説明すると、こちらは説明を続けるより先に、マルガリートとパディエーラは『成程』というような顔をしてくれる。

 ……今回の事件では、『レギナ外部の聖女』であることでナビスが役立った。

 レギナ内部の聖女であるパディエーラやマルガリートでは証言が水掛け論になろうところを、ナビスは『無関係』であったがために、証言台に立てばそれなりの効力を持つ証言ができる。

 ……そう。『仲は良くても、所属は別』という立場を捨てるのは、惜しい。

 だからこその、『コラボ企画』なのである。

 ユニットを作るのではなく、あくまでも時々、交流するだけ。ついでに、これを足がかりに他の様々な聖女とも交流していけば、『中立』の立場を持ちつつ、あちこちに干渉する能力を有することもまた、可能なのだ。

 そう!『コラボ企画』は、首突っ込み力と証言力、その2つを両立させるアイデアなのである!


「成程……概ね、理念は理解できましたわ」

「私達にも十分に利がありそうだし、それに何より、複数の土地の聖女が集まれば、その分多くの土地の人々に喜んでもらえるものねえ」

 コラボ企画への賛同を得られたところで、澪はひとまず安心する。マルガリートもパディエーラも、それなりに野心的であったり精力的であったりする聖女だ。反対はされないだろうとは思っていたが……やはりこの世界では『コラボ企画』などは馴染みがないらしいので、多少不安ではあったのだ。

「そうですね……複数の土地の聖女が集まるとなると、その地域の魅力を伝えることも、しやすいのではないでしょうか」

 だが、こちらは既に大分澪に慣れたナビスである。ナビスは早速、新たなアイデアすら出してくる。澪はこれを嬉しく思いつつ、『確かに、開拓地の人達にそれぞれの地方の聖女を見せてあげたら移住の検討してくれるかなあ』と考えてみる。

「私、ポルタナの魅力を伝えます!移住を検討して頂けるように!」

「た、逞しいですわねあなた……」

「あらあら。なら私も出身地の紹介でもしようかしらぁ」

 そして、ナビスの案もおおむね好意的に受け入れられる。マルガリートは慄いていたが、少なくとも、パディエーラは乗り気だ。

「あれ?パディってレギナの聖女様じゃないの?」

「あら。確かに私、レギナの大聖堂の聖女だけれど……出身はレギナじゃあないのよ?ジャルディンなの。果物が美味しいところでね?ふふふ……」

「えーっ、いいないいなあ。私も行ってみたいなあ」

 パディエーラが楽し気に故郷の話をしてくれるのを、皆で楽しく聞く。ジャルディン、というらしい町は、温暖な気候に恵まれた土地で、果物の栽培が盛んなのだとか。澪は『確かにパディはフルーツが似合うよなあ』と思う。甘くて瑞々しくて良い香り。そんなイメージである。

「ま、いろんな土地があるよ、って開拓地の人達に思い出してもらうのは、悪くないと思うなあ。彼らにも故郷のことを思い出してもらえるだろうし……」

「そうねえ。そうねえ。ふふ、なんだか楽しみになってきちゃったわ」

「……あの、パディ?よろしいかしら?あなた、レギナ近くの開拓地の民が故郷へ帰ったとして、あなたに利がありますの……?少なくとも私にはございませんわよ……?精々、地方に散っていった民が私達の評判をより広める役割を果たすかもしれない、という程度でしょうけど……」

 マルガリートは『折角集まっている人を帰してしまうのは勿体ない気もする』という考えもあるらしいのだが、それでも反対する気は無いようだ。……マルちゃんもなんだかんだ、民の幸せを願う聖女なのである!




 さて。方針も理念もある程度固まったところで、早速、澪達は準備に取り掛かることにした。

「マルちゃんの礼拝式を見てて思ったんだけどさ、マルちゃん、踊るの滅茶苦茶に上手じゃない?」

「な、なんなんですのあなた」

「いや、是非ともうちのナビスの歌に合わせて踊ってみてほしくて。あ、そういえばパディの礼拝は私、見たことがないんだよね。パディの得意分野は何かなあ」

「そうねえ。私も歌が得意よ。ナビスと一緒に歌ってみると面白いと思うわぁ」

「是非よろしくお願いします、パディ様!」

 相談しながら、ああでもない、こうでもない、とアイデアを紙に書き連ねていく。

 物事の計画を立てている時というのは、なんとも楽しい。3人の聖女と1人の勇者は、それぞれに楽しくアイデアを出し合っては、笑い合い、そしてよりよいものを生み出そうと瞳を輝かせる。

 ……さて。

 そんな少女達の様子を見守っているのかいないのか、戸口に立っている存在が、澪には少々、気になっている。

「えーと……そちらの勇者さん達は、マルちゃんとパディの勇者さん、だよね?」

 そう。

 レギナの聖女2人には、それぞれ勇者が付いているのである。


「紹介が遅れましたわね。こちら、私の勇者であるエブル・スカラですわ」

 マルガリートが立ち上がって、勇者の1人をそっと示す。マルガリートが示した勇者は、マルガリートと同じような色合いの金髪に、濃い青の瞳をしている。そして『勇者』であるだけのことはあり、顔立ちは非常に整っていた。これもマルガリートによく似ているが……。

「スカラ……えっと、マルちゃんの親戚?」

「弟ですの」

 そう。どうやら、こちらの勇者エブルは、マルガリートの弟であるらしい!

「ええーっ!弟だったんだ!似てると思ってたんだよね!」

「成程……姉弟で聖女と勇者、となると、確かに諸々の問題が起こらない関係ですね……」

 姉弟で聖女と勇者であれば、『聖女と勇者が恋に落ちてしまうかもしれない問題』を解決できる。澪は『こりゃあすごい戦略だ!』と感嘆し、ナビスも『この手がありましたね』と感心する。

 澪とナビスとで見つめていると、勇者エブルは、ぺこ、と少々気まずげに姉の横で一礼した。


「こちらは私の勇者。ランセア・アルマよ。同郷なの」

「ランセアという。パディエーラ様の勇者だ。……よろしく」

 続いて、パディエーラが紹介したのは、彼女の勇者である。鈍色にも見える銀髪を後ろに撫で付けた髪型の、こちらもまた大層な美丈夫だ。

「えーと、勇者ランセア?よろしくね」

 澪が手を差し出すと、ランセアは少し戸惑うような素振りを見せた。だが、横からパディエーラにつつかれて、そっと、躊躇うように澪の手を握った。

「……えーと、ランセアさん、あんまり私みたいなのは、得意じゃないかんじ?」

 何か違和感があるよなあ、と思って澪が聞いてみると、ランセアは少々気まずげな顔で、ちら、とパディエーラを見る。するとパディエーラはくすくす笑って、『仕方ないわねえ』と言いつつ、澪に教えてくれるのだ。

「ごめんなさいねぇ、ミオ。この人、女性の勇者は初めて見るから、戸惑ってるみたい」

 ほえ、と澪がランセアを見返すと、ランセアは尚、気まずげにしている。

「……女の勇者って、やっぱ珍しいの?」

「ええ。珍しくってよ。私はあなた以外に女性の勇者なんて見たことがありませんもの」

「私もないわねえ」

 澪はナビスの方を見るが、ナビスも頷くばかりである。成程。澪はレアキャラであるらしい。まあ、女性勇者は珍しい、というのはある程度は知っていたので、特に気にしないが。

「私も、ミオが実際に戦っているところを見ていなければ、女性の勇者なんて、と思ったでしょうし、実際、そう思っていましたけれど……あなた、私なんかよりずっと強いんですもの。なら女性であっても構わないんじゃなくって?」

「うん、まあ、そのあたりは特に気にしてないけどね」

 澪は内心で『そっかー、マルちゃん、女性勇者ってことで私に対してのあたりが強かったのかー』と納得しつつ、ふと、思う。

「……思ったんだけどさ」

 澪自身はともかく……ランセアも、エブルも、それぞれに美形である。そして開拓地には、きっと女性もいることだろう。美男子に心ときめかせる彼女らを想像し、ついでに、澪は当初の自身の目標も思い出しつつ……この際だから、ということで、提案してみるのだ。

「勇者も舞台に乗るのって、どう?」




 ……さて。

 その日の内から、開拓地でのコラボ礼拝式の準備が始まった。

 最早、トゥリシアの査問会などどうでもよい、とばかりに聖女達が動くものだから、大聖堂の様子も次第に、『まあ、トゥリシア様のことは無かったことにして忘れよう……』という風に変わっていく。

 翌日には査問会も開かれ、大聖堂の一角、裁判所のような場所でトゥリシアについてのやり取りがあり、そこで澪とナビスも証言台に上ったり、マルガリートが生き生きとトゥリシアの犯行を非難したり、パディエーラがおっとりと、しかし強くトゥリシアに反省を促したり……色々あった。

 だが、色々あってもそれまでである。トゥリシアには特に反省の色が無いようで、『私は無実です!魔物を操った証拠などどこにありますの!?』と主張を続けていたが、流石にゴブリンロードの群れに聖女2人、そのうち1人は信仰心不足の状態の者を置いていった、ともなれば、それだけでも心証は悪い。

 ……そして何より、開拓地の者達からの証言も、あった。

 村が魔物に襲われてから聖女トゥリシアが来るまでが、妙に早かった、と。狙いすましたかのようにやってくる聖女を、開拓地に集まってから少しずつ不審に思うようになった、とも。

 ……そして、トゥリシアのお付きの神官がマンドレイクの種を違法に所持しているのを見つけてしまった、という決定的な証拠が挙がってしまったことで、トゥリシアはいよいよ追い詰められた。

 トゥリシアは神官をトカゲのしっぽ切りで始末したかったようなのだが、裏切られるとなった時、その神官もまた、トゥリシアを裏切って諸々の証言を始めたものだから、大変なことになった。

 ……結局、査問会はそんなこんなでてんやわんやに終わり、トゥリシアと彼女のお付きの神官数名、それからトゥリシアの勇者3名が罪に問われ、それぞれ監獄に送られたり、罰金刑に処せられたりすることが決定したのである。

 だが。


「よし!査問会も終わったことだし!コラボライブで慰問するには丁度いいよね!」

「はい!開拓地に集められた皆さんを、少しでも励ませるよう頑張りましょう!」

 ……澪とナビスにとっては、査問会など至極どうでもよく、彼女らが目指す『慰問コラボ礼拝式』のことで頭がいっぱいだったのである!




「とりあえずお揃いのグッズ作ろうか」

「ぐっず……ええと、免罪符や聖水ではなく、ということね?」

「ええ、そうです!……折角ですから、夜光石のぺんらいとを何種類か作ってみてはどうでしょうか。或いは、それぞれの出身地の名物などを……」

「ぺ、ぺんらいととは何のことですの!?」

 早速、澪とナビス、そしてマルガリートにパディエーラ、という4名は、楽しくグッズの話をすることになった。

「あっ!出身地の名物を集める、ってなったら、開拓地に居る人達に協力してもらえばいいんじゃない!?彼ら自身も自分達の地元のいいものを再確認できるし、生産元を確保できるし!」

「あら、それはいいわねえ。だったら、ジャルディンの果物の加工品か何か、上手く仕入れられないかやってみようかしらぁ……」

「ですから!ぺんらいとって!何ですの!?」

 ……若干、マルちゃんが置いてけぼりの感は否めなかったが。

 それはそれとして、次第にマルちゃんもまた、『ならば寄付という形で一定数のグッズを納めてしまってもよいのではなくて!?』などとアイデアを出し始め、皆が楽しみながら意見をぽんぽんと出していき……。

 そうして、着実に、『慰問コラボ礼拝式』の計画は進んでいったのである。




「……姉上があのように笑っておられるのを久しぶりに見た」

「私もだ。パディエーラ様が昔のように無邪気に笑っておられる」

 そして、そんな少女達を、男の勇者2名は少々遠巻きに眺めていた。

「女人の集まりというものは、こういうものか」

「……ここが特別このようになっているだけでは?」

 ……少女4人は、妙に楽し気である。そしてそれを見ている勇者2名も、戸惑いながら着実に、その楽しさを感染させられていく。

 それも致し方ないことだろう。何せ、アイドルというのは皆を惹きつけてやまない存在なのだから!

前へ次へ目次