ボクらの特撮VR

作者: 極振り大好きおじさん



「ライダー!」


「戦隊!」


「ウルトラマン!」


通話しながら叫んでいる。

VR技術が発展し、民間でも自由に使えるようになったからだ。

いや、正確に言えば少し違う。


誰もが自由にVR世界を創ることが出来るようになったからだ。


技術が公開され、自分達で好きな世界が創れる。

そうなれば誰だって自分達だけの世界が欲しくなる。

今通話をしているメンバー全員同じ気持ちを持っている。


特撮の世界を創り、自分だけの特撮作品を創りたい。

出来れば自分が主人公で。


「戦隊は5人分キャラを考えなきゃいけないから却下!ウルトラマンも人間とウルトラマンの2パターン街を設計する必要があるから却下!よって今回はライダー採用です!」


「今のライダーだって複数のフォーム持ってるからデザイン大変だろ!その点こっちは色違いに少し変えるだけだから余裕だぞ!」


「黙れよお前ら!デザインの話を出すならウルトラマンが一番楽だろ!それに街はそこら辺のデータ拾うなり実際の街を再現するなりすればいいだけだろ!」


「うるせぇよ!色違いだから余裕?はっ!笑わせんな!お前らには合体ロボがあるだろ!あの機構はどう考えても手間が多い!同じようにウルトラマンもだ!何かよく分からん人間の部隊が持ってるだろ!」


「合体はロマンだろ!それに人間サイズでの戦闘と巨人サイズでの戦闘を同時に見せれるんだぞ!そのくらいの手間は問題無いだろ!」


「中途半端に2、3分しか戦わないのに調子に乗ってんじゃねぇぞ!合体はこっちだって出来るわ!」


こんな感じで半日近く議論と言う名の口論をしていた。

誰も自分の主張を譲らず、自分の意見を曲げず、押し通そうとした。

最終的には全員が疲れ、技術的な問題を探っていた技術班からの要望でライダーに決定した。

実機を触っていない以上、どうしても不確定要素が多い。

それを許容できないと誰よりも大きな声で言われては通さざる得ない。






このメンバーは全員が特撮好き。

一番好きなのは違っているが、順位が違うだけで好きと言う気持ちは一緒だ。

だから、


「初代リスペクトで昆虫型改造人間!」


「古い!今の時代はたまたま力を手に入れて悩みながらも進む主人公!」


「いやいやいや!ここは未知の生物に対抗する為に作ったライダーシステム式だろ!」


だったり、


「メインカラーは赤!」


「黒系の落ち着いた色!」


「爽やかな青!」


とか、


「主人公は無職!これ常識!」


「うるせぇ働け!」


「学生にすべきだ!学園ドラマも出来るぞ!」


など、まったく進まない。

それぞれが一番好きな作品の要素を推す。

先程と同じか、それ以上に曲げず譲らない。


それでも、


「テーマは成長!だから偶然手に入れた力で戦う事に決定!」


「初期フォームで戦う理由は身体への負荷が大きい事に決定!」


「序盤はへっぴり腰で性能頼りの勝利に決定!」


譲歩する理由が他の部分を譲歩させる為だったり、技術的な理由だったり、動画映えやストーリー展開の難しさなど、裏や汚い理由がありつつも少しずつ進んでいる。

その情熱の炎は消えることなく、話が進む度に燃え盛っていった。






『20XX年』


『突如として現れた地球外生命体はこの星、地球に宣戦布告を行った』


『地球は多くの犠牲を出しつつもなんとか撃退に成功』


『したかと思われた』


『今までの戦いは全て遊びであり、戯れであり、手抜きだったと思うほど熾烈な攻撃が始まった』


『人類は、地球は滅ぶ』


『そう誰もが思った』


『しかし、何の戯れか攻撃は止んだ』


『そして』


『生存を掛けたゲームが始まった』






「いいじゃんいいじゃん!凄いじゃん!これしばらくOP前に流れるアレでしょ?最高の出来じゃん!」


「ナレーションの声もうちょっと低くて渋い声に変えない?」


「どっちかと言うと棒読み加減を修正すべきでしょ」


話し合いと言う名の叫び合いが始まってから幾日も経過した。

かなり雑なプロットは完成し、プロローグの作成に手を出した。


「戯れで変身ベルトを渡された主人公は必死に戦い、足掻き続ける!」


「それを笑いながら見ている地球外生命体!」


「武術なんてやったことないのに世界を、地球を守る為に練習する!」


「その成長を見越したぎりぎり勝てる敵を用意され!」


「毎回ボロボロになりながらも勝利をもぎ取る!」


「そうやって少しずつ前進して遂には奴らにも届く!」


どんな作品にも突っ込みを入れたくなるような設定はある。

例えばお約束の変身中や名乗り中は攻撃しない。

例えば勝ち確BGMが流れたら必殺技は避けない。

例えば主人公がいる街にしか敵が現れない。

挙げ出せばキリが無いほど出てくる。


この作品はそれらをなるべく排除した。

舐めプをしているから、お約束は守るし必殺技は基本的に受ける。

主人公が居ない場所で暴れさせる意味は無いから敵が出る街は固定。


戯れで始まったゲームだから人間に合わせている。

それで説明が付くようにしている。


「不自然な山や森へ移動はいらないでしょ!」


「あれは様式美だからいる!」


「いつもの場所が出ないと特撮じゃないでしょ!」


「そうだそうだ!シリアスやってるこの場所は別作品だとギャグやってるとかシリーズで見てると笑っちゃうポイントは残すべきだ!」


「あー………確かに」


「街が壊れると主人公の生活にも影響出るからなるべく人がいない所に移動するとかは?」


「それなら毎回呼び出せばよくねってなるよ。街で暴れなきゃダメでしょ」


「でも暴れる理由ないじゃん」


「作った怪人の性能テストとかどうよ」


「街で暴れて性能チェック。主人公が来たら戦いつつ移動ってこと?」


「悪くない……むしろ、幹部組に解説させたりすれば視聴者にも優しい!」


「ここで解説や助言で視聴者への説明と難易度調整!これだ!」


「そうだ!不自然な移動は幹部組が見辛いから強制移動させたとかよくない?」


「いいね!それで行こう!」


少しずつ、少しずつ進む。

お約束や様式美をどうするか悩みつつも自分達だけの新しい作品を目指す。

リスペクトを忘れずに、だけど自分達の色は確りと出す。

とても難しい調整だけど、彼らの目はどこまでも輝いていた。






『あがっ……ぐっ…』


『強大な力が何のリスクも無く手に入るとでも?』


『ねー。こいつ面白くない。殺そうよ』


『まぁまぁ。いつでも殺せるんだしもう少し観察しようよ』


1人の青年が苦しみ、それを5人の人間が観察している。

いや、正確に言えば人間に擬態した地球外生命体が5体だ。


『ぐっ……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛』


『お?………やるじゃん。上部にある穴にこのクリスタルを嵌めろ!そしてボタンを押して変身だ』


『ふーん…………耐えるんだ』


『へん゛……しん゛』


青年は苦しみながらも変身した。

その姿は白を基調とした全身鎧を纏い、人間とは思えない存在感を放っていた。


『それじゃ、チュートリアルってことで』


男の1人がそう言うと地面から化け物が生えてくる。

それは―――






「ちょっと待って」


「ん?なに?」


「順番変えよう。やっぱり痺れを切らして雑魚召喚。そこで少し殴られてから立ちあがって変身」


「でもそれグロ系入らない?子供大丈夫?」


「純粋な子供なら俺達が作る特撮動画見ない」


「正論過ぎて言い返せない」


「撮り直しいけそう?」


「いけるー。変身は解除して………あ、変身してすぐ1発殴ってくれる?ちょっと変身出来たことに驚いて隙を見せてる体でいくからさ」


「おっけー……あ、いや、アレだ。1カメ2カメ3カメやってる間は待つよ」


「はいじゃー本番入りまーす」


撮影は全て手探りだった。

台本は用意してるしセリフはきちんと覚えている。

けど、1シーン撮れば誰かがほぼ毎回アイデアを出す。

そして、軽い話し合いの後に撮り直す。


そうやって1歩ずつ進み、動画が作られていく。


もちろん、


「ちょっ!このフォームの変身エフェクト仕様書と違くない?」


「ねー!俺らのアジトもう少し物を置かない?生活してる感が無いんだけど」


「殴られた時の声ってどうすればいいの?喘ぐ?」


「VR空間だし演技じゃなくて普通に殴られて声出せばいいだろ」


「ちょっと待て!大量に湧く雑魚役の人はどうするんだよ!?殺すのか!?」


「そこはNPCでいいじゃん。全部俺達がやる必要はないぞ?」


などなど、小さな問題や大きな問題も常に発生している。

誰も止まらない、誰も諦めない。

全員が完成を目指して突進む。






『うわああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛』


白い鎧を纏う青年は叫びながら化け物に体当たりを繰り出す。

そこには技術も経験も何も無い、ただの我武者羅なモノだ。

それでも、その白い鎧は圧倒的な力を持っていた。

稚拙な攻撃であっても、化け物を倒すのは余裕な程の力を持っていた。


『ひゅ~……泥臭いけど、まぁ……悪くないかな?』


『んふふふ……死に掛けてるじゃん。でも、ああやって足掻くのを見るのは悪くないね』


『一番負担の無いあの姿でこれだけ辛いってのはどうなの?人間ってのは弱過ぎない?俺らの星じゃすぐに死ぬことになるよ?』


『だからこうやって制圧されたんだろ?あぁ、お前。次までに戦い方を学んでおけよ?毎回そんなつまらない終わりは飽きるからな』


『チュートリアルクリアおめでとう。さぁ、地獄の始まりだよ』


素直に称賛する声であったり、壊してもいいオモチャを見付けた声であったり、本番を告げる声であったり。

5体の化け物はそれぞれ声をかけた。


『……………』


青年は何も答えず、変身は解け、そのまま倒れた。

目立った外傷はないものの、体内は酷く損傷していた。


『次は戦闘終了時に気絶しないようにしてもらわないとね………治してやれ』


『は~い』


人間の、少年の姿をした化け物の1体が近付くと、手をかざす。

白い光の様なものが現れたと思えば、倒れている青年の傷が消えていく。


『これで傷は治ったかな?あぁ……早くボクが壊して遊べるくらいには強くなってね』


その笑みはどこまで残虐であり、どこまでも歪んでいた。


『さぁ、50体の手駒を倒せばゲームクリア。この星は救われる。俺達を楽しませてくれよな』






「はい、カァ~ットォ!」


「おつかれ~」


「おっつー。どう?映像確認進んでる?」


「早送りで確認したけど特に問題無いかな?後はゆっくり全員で意見出しながらの確認すれば終了!」


「ふぅ~!遂に1話の完成か!なんか感慨深いな!」


漸くの完成。

あの始まりの日から半年以上経過している。

たった30分に満たない動画を撮影する為だけに半年以上掛けた。

手探りで何度も失敗しながら少しずつ完成させた。

だからだろう。

全員の顔は喜びに満ち、誰もが幸せそうな表情をしている。


「最終チェック完了!投稿するぞぉ!」


「「「「「おぉ!」」」」」


そうして、努力の結晶であり、想いの結実でもある動画は投稿された。

まだ、誰の評価も受けていない。

全員がドキドキしながら待っていた。





















「やっべ東映の商標に引っ掛かるって怒られた」


「申請忘れとか死ねよ!」


「申請通ったら再投稿するんで許して!」


熱中し過ぎたからこその小さなミス。

はたして、彼らの熱意は、想いは受け入れられるのだろうか。

それはその時が来るまで誰にも分からない。






                            to be continued

何?ライダーが5人組みで巨大ロボを使って戦っている?

そんなバカな話があるか。

仕事に戻れ。


みんな…疲れているのか?




個人的には電車をバイクで運転するが一番理解出来なかったです。