オルアディア戦記

作者: マルク

 

 新王歴三五七年――。

 長らくオルアディア大陸に君臨し、栄華を極めたエルガディア王国に亡国の危機が訪れていた……。


 謁見の間、高貴なる白廊(ヴィランシール)にて――。


「報告ッ! 東部、ルマントール砦陥落! ガイエル将軍閣下が討死されました!」

 これで三人目。王国にこの人ありと謳われた名将がまた命を散らした。日付が変わって僅か数時間の出来事だった。開戦から数えたら一体何人に上ることか。

 普段は国王に謁見を賜ろうと賑やかなこの場所も、軍議の会場と化しなおかつ緒将の訃報を幾度となく聞かされれば自ずと静まり返ってしまう。

「ガイエルが、逝ったか……」

 高貴なる白廊(ヴィランシール)の最奥。広間の入口から長々とひかれている上質の紅いカーペットが到達地。更に数段を上った場所に置かれた深紅の玉座。そこに座る白髪の老人が憂うように呟いた。

 彼の名はルートヴィヒ=フォン=エルグランシル。エルガディア王国第三十五代国王にして国民から賢王と讃えられる名君である。

 今でこそ玉座に構え指揮を執るようになったが、かつては自らも剣を携え、兵を率い、敵を粉砕した戦士であった。そして今届いた訃報の主、ガイエル将軍はかつて共に死線を潜り抜けた戦友(とも)だった。更に言えば今日戦士としての本懐を遂げた他の二人もかつての戦友だった。

「まったく、儂になんの断りもなく先に逝くとは……馬鹿者どもが」

「――陛下」

 軍議に募った緒将の一人が心配そうに声をかける。しかしルートヴィヒは片手でそれを制するとおもむろに立ち上がり口を開いた。

「聞け……我が子らよ」

 高貴なる白廊(ヴィランシール)に重厚かつ玲瓏な声が響き渡る。軍議に勤しんでいた緒将は静かに耳を傾けた。

「……まずは、斯様な事態を招いてしまったこと――王として、この国の一民として、深く詫びる。すまなかった。しかし、それでも我らは戦わねばならない。それは今、この時のためではない。この国の未来(あす)のためだ。我らが守らねばならない者達のために、エルガディア王国がこの大陸に存在し続けるために戦わねばならない。

 おそらくは激戦となろう。力尽き、命果て、身は滅び、生き残ることは能わぬかもしれん。それでも、そうであっても、希望は捨てるな。逃げず、諦めるな。退路を断たれたとて勝機を見出だせ。戦い続けるのだ。

 ハハハ、そう暗い顔をするな。敗れたとて皆で大神(ファルス)が御元へ馳せ参ずまでのこと。恐れることはない」

 言ってルートヴィヒは悪戯に微笑んだ。途端、広間に漂っていた暗憺とした雰囲気は払拭され、募った者達に僅かな笑顔が戻ってきた。

「して、現況を今一度整理したいのだが――」

 王が段を下りつつ緒将の輪に加わる。すると若い兵士が急ぎ長机一杯に王都近辺の地図を広げた。そして隣に立つ初老の将が説明を始める。

「現在我が国は周辺六ヶ国による大連合軍の侵攻を受けています。北部はナハトジーク要塞まで、西部はレグルス平野まで進軍を許し、東部は先程報告のありましたようにルマントールを陥とされ、南部に関しましては既にラインマイル城まで攻略されております」

「フム、各方面の戦力はどうか」

「北はヘンデル将軍が二万の軍勢をハーマート山地に展開。東はダース伯爵が一万二千の兵と共にウェイリエス河にて敵を迎え討っており、また西ではヴォルケン、ザンデ両将軍が兵二万五千を以てレグルス平野にて応戦中とのことであります。そして……」

 と、ここで流暢な説明が澱んだ。同時に他の将もまた顔を俯かせる。それは誰しもが口にしないだけで、理由は同じであった。ルートヴィヒもわかってはいたが、それでも王として事実は受け止めなければならない。

「――構わん。続けなさい」

「ハ、ハッ――南はシャーレン公爵麾下、清風騎士団が壊滅……最終防衛戦を突破され、敵は王都を目指し今もなお進軍中であります」

「フゥ……わかった」

 一通り説明を受けたルートヴィヒは立派に蓄えられた髭をそっと撫でた。これは何かを考える時の彼の癖である。賢王は戦においても賢く、その慧眼は他国にとって脅威だった。王を囲む将達はその様子を見てこの逆境を覆す秘策が生まれるのではないかと密かに胸を弾ませる。

 何度か髭を撫でたところでその手が止まった。答えが出たのだ。

「へインツェルとラムセスを呼んでくれ」

「ハッ」


 しばらくして高貴なる白廊(ヴィランシール)に二人の初老の男がやって来た。カツカツと靴音を広間に響かせ、他に目をくれることもなくルートヴィヒの前に参じる。二人共決して若くはない。しかしその身に纏う雰囲気は衰えている様子はなく、凛とした佇まいは他の将兵を圧倒していた。二人は玉座の前に辿り着くと無言のまま片膝をついた。

「待っておったぞ」

 しかし二人は答えない。無言を貫く。しばしの沈黙の後ルートヴィヒが続ける。

「どれだけ動かせる」

 すると二人居並ぶ内の一人が静かに口を開いた。

「五千が限度に」

「フフフ、それだけおれば十分であろう――のう、我が兄弟」

 言ってルートヴィヒは快闊に笑った。普段は見せない表情に緒将は驚いた。しかし二人の老将は動じない。それどころか頭をもたげ鋭い視線を王に送った。

「……決心されたのですな。王」

 対してルートヴィヒは静かに首肯する。

「ああ、これしかあるまい――この戦を終わらせるには、な」

「かしこまりました。では、後ほど――」

 言って二人の老将は立ち上がると踵を返して広間を後にしたのだった。軍議に募った将達は何が起こったのかわからないと言った様子で王を見る。それに気付いたルートヴィヒが口を開いた。

「彼らが何者かは皆も知っておろう。我が近衛騎士団にして王国が誇る至高の騎士団――聖天騎士団が団長のへインツェルと軍師長ラムセス。今余はあの者達に秘策を授けたのだ」

「秘……策? それは一体――」

「フハハハ。まだ教えるわけにはいかんな……なんせ秘策だからのぉ」

 ルートヴィヒは再び笑った。快闊に、何かを振り払うかのように。臣下は皆その姿を訝しむものの深く言及することはなく、胸の裡にしこりを抱えたまま軍議を終えたのだった。

 そして誰もいなくなった高貴なる白廊(ヴィランシール)に王だけが残った。先程までの慌ただしさや焦燥感が嘘であったかのように静寂に包まれている。

 ルートヴィヒは玉座に深く腰掛け天を仰いだ。脳裏に浮かぶはかつての華やかな記憶、若かりし頃の爽やかな記憶、戦に明け暮れた時代の猛々しい記憶――思えば濃密な人生を送ってきたようであった。後悔は無い。思い残すことも……。

 フゥ――と一人回想を終えた王はゆっくりと立ち上がった。段を下り、歩き出す。真紅のカーペットを踏み締めながら、力強い足取りで前に進む。そして広間の入口の前に立ったところで瞳を閉じた。目に浮かぶのはこの戦いで命を落としていった家臣の顔。一人一人の顔を眺める。沸々と心に力が漲ってくる。ルートヴィヒは静かに瞼を持ち上げた。そこにあったのは普段の柔和な瞳ではなく、既に戦人のそれであった。

「――行こう」

 言って扉を開く。振り返るようなことはしない。ただ前を見据え、再び力強い足取りで歩き始めた。そう、これから彼は自ら戦場に赴く。そして華々しく――否、泥臭くてもいいから散る覚悟であった。

 この戦はこの国が滅ぶまで終わらないだろう。和平の道などとうに終えている。しかし王として、この国を愛する者として、それだけは絶対に阻止せねばならない。守らねばならない。そう考えた上での答えがこれだった。元来、戦とは敵国の王を討ち取ることが目的である。つまりは討ち取ることで戦は終わる。

 ならば、これ以上被害を拡大させる前に自らが死ねばよい。しかし、自ら命を絶つことはしたくなかった。別に死を恐れているわけではない。これは最後の我儘だ。最後はかつて戦場を駆け抜けた者として、一矢報いるためにも戦場で死にたかった。それをわかっていたからへインツェルは、ラムセスは、諌言の代わりにあの様な視線を投げかけてきたのだろう。それでもこの行動を理解してくれるのは彼らもまたこの国を愛しているからに外ならなかった。

 城外へ出ると既に聖天騎士団の面々が待ち構えていた。ルートヴィヒは甲冑を纏い用意されていた愛馬に騎乗する。ようやく事情を理解した数人の将達が止めに入ってきたがもう遅い。今からは王ではなく一人の戦士である。するとその決心に観念したのか、もう誰も余計なことを言う者は現れなかった。

 ルートヴィヒは兵の前に姿を見せると鞘から剣を抜き高々と天に掲げる。

「余はエルガディアが国王、ルートヴィヒ=フォン=エルグランシル! 王国を蹂躙せし逆賊共を誅す者! よいかッ! この戦いで全てを決す! これ以上奴らの好きにはさせんぞ! 汝らの忠誠は我が剣と共にあるッ!」

「オォッ!」

「汝らに大神(ファルス)の加護があらんことを……」

 ルートヴィヒは剣を構え、遥か地平線の向こうに翳した。未だ見えぬ敵を射殺すように……。


「閣下! 前方に敵勢力が現れました!」

 目下王都へ進軍中の大連合南方師団の本陣に報告が入った。あとは王都を陥落させるだけと高を括っていた首脳部に僅かな緊張が走る。

「兵力は?」

 中でも最も綺羅びやかな鎧を纏った男が問いかけた。

「ハッ、情報によれば敵兵力はおよそ三千とのことです」

 三千? 誰が呟いたかはわからないがその数字を聞いた瞬間緊張は一瞬にして消え去った。それも無理はない。なにせ自分たちの軍勢は三万もいるのだ。攻城戦ならまだしも野戦で十倍の兵力に挑むことはおよそ勇ましい行為とは言えず、焼け石に水――単なる蛮行でしかない。

「フ……フハハハハハッ! とうとう奴等も血迷ったか! たかが三千で何をしようというのだ! 笑わせてくれる。ん? それともこれは出迎えか何かか?」

 おそらくは軍のトップであろう男の言葉に、その場にいた誰もが大口を開けて笑った。

「い、如何なさいますか?」

「ククク――ん? フン、捨ておけ。我らが覇道を塞ぐならば容赦をしないまでのこと。全軍にそのまま進めと伝えろ」

「ハッ!」

 男は漆黒のマントを靡かせ、遥か地平線に姿を見せた王都を見遣る。列国の脅威であった王国の心臓が目の前に――手を伸ばせば届くかもしれない距離にあった。自然と笑みが溢れた。

 南方師団は一時もしない内に先程の報告にあった、王国軍の残党とも言える僅かな軍勢と衝突した。王国軍は鋒矢の陣形を取り突撃を仕掛けてきた。予想通り――少ない兵力で、しかも決死の覚悟で挑むとすれば自ずとそれを選ぶであろうことは予想していた。

「如何なさいますか?」

「左右の軍を鶴翼に展開――挟み込んで擦り潰せ」

「ハッ!」

 男の指示に従い軍が陣形を変え始める。訓練をされた兵達は迅速に動きものの数分で王国軍を左右から攻撃し始める。全てが自らの描いた物語(シナリオ)通りに進行する。またしても笑みが溢れた。

 しかし――。

「か、閣下!」

 突然伝令の兵が顔色を変えて本陣にやって来た。

「――何事だ?」

「て、敵が――」

「ん? 敵がどうした」

「敵の進軍が……と、止まりません」

「何だと?」

 報告を受けるや否や本陣から抜け、敵がいるであろう方角に目を向ける。そこには信じられない光景が広がっていた。あろうことか僅か三千の部隊は三万もいるはずの軍勢の中腹辺りまで侵入していたのである。

「こ、これは……」

 彼は知らなかった。今自分が対峙している相手が、ルートヴィヒ麾下の聖天騎士団であることを。そしてその団員一人一人が皆一騎当千の猛者であることを。

「閣下!」

「えぇいうるさいッ! わかっている!」

 言って男は爪を噛んだ。事態の対応策を練るが、如何せん自らの物語を書き換えられたことに腹が立つ。煮えくりかえる。冷静になどいられるわけがない。

 そして暫しの沈黙の後、ようやく結論をだした。

「最低限の兵力を残して全軍で総攻撃をかけろ! 何としても全滅させるのだ!」

「し、しかしそれでは王都決戦で――」

「うるさい! 奴らは王国軍の残兵だ! 奴らさえいなくなれば後はどうにでもなる! わかったらさっさと行けッ!」

 男は不機嫌な様子を隠そうともせず、そのままずかずかと元いた場所に帰って行った。

 しかし彼はまたしても過ちを犯した。それは取り返しのつかない決定的なものだった。確かに聖天騎士団は王国最後の部隊と言っても過言ではなく、そこに関しては間違っていない。が、残兵はまだ他にいたのだ。

 最後の指示を出して一時もせず再び伝令が本陣を訪れた。今度は顔面を蒼白にし、唇を震わせ、肩口から大きな斬り傷を携えての参陣だった。

「な、何事か!?」

 男を含む首脳部の面々にかつてない緊張が走る。そして次の伝令の言葉に、その場にいる誰もが絶句する。

「て、敵……しゅ……う……」

 言って伝令は息絶えた。

「な、何だとぉぉぉおッ!」

 首脳部は慌てて本陣を飛び出す。するとそこには先程の光景を遥かに上回る驚愕の光景が広がっていた。

 蹂躙されている兵。重なる死屍――そこにあったのは紛れもなく死だった。戦勝を祝うはずの陣営が一変、地獄絵図となっていたのだった。

「こ……これは……」

「閣下! ここは危険です! 早くお逃げ下さい!」

 男が状況を理解する間もなく配下が逃亡の支度を始めた。


「見えましたぞ陛下! 奴がこの軍の司令です!」

 背後でへインツェルが叫んだ。ルートヴィヒは答えることもなく近くにいた馬に跨り、一陣の風の様に駆け出す。愛馬はここに辿り着くまでに死んだ。すぐ追い付くと声を掛けて自ら止めを刺した。ルートヴィヒ自身もまた満身創痍である。体の節々が悲鳴を上げるようだ。それも齢六十を超え、しかし一端の兵以上の活躍をした代償だと納得した。とは言え歳は取りたくないとつくづく思う。

 作戦は見事に嵌った。部隊を二つに分け、片方が敵を引き付けている間にもう一方が敵本陣を叩く。簡単な作戦だが、敵の心情を察すれば成功すると確信していた。あとは敵の頭を取れれば御の字である。ルートヴィヒは最早王としてではなく、一人の戦士として死地に赴こうとしていた。

 敵司令への道は険しかった。元々数的に不利であり、多勢に無勢なのはわかっていたが。それでも一人の老兵は先へ進む。幾人もの敵を斬捨て、幾つもの矢傷を負いながらも、ただ前を見据えて。

 そしてやっとの思いで追い付くことができた。

「その馬待てぇぇぇぇッ!」

「ッ!?」

 ルートヴィヒの声に男が恐怖に打ち震えた表情で振り返った。敵の襲来に僅かな近衛兵達がすかさず護衛に回る。

「お命頂戴つかまつる!」

「ヒッ――ええええ衛兵!」

 老兵の圧倒的な迫力を前に男は震え上がった。近衛兵は男の指示でルートヴィヒに襲いかかる。

「邪魔するでなぁぁぁぁいッ!」

 ルートヴィヒは最後の力を振り絞る。自らの血で滑りやすくなった剣を今一度握り直し、襲い来る敵を一人、また一人と返り討ちにしていく。

 白金の美しかった甲冑は返り血で紅く染まり、老兵の形相と相まってまるで地獄からやって来た悪魔のように男には見えた。そして気付けば近衛兵は全員返り討ちにされ、いつの間にか周りに誰もいない――自分一人となっていた。

 こんなはずではなかった。こんなはずではなかったのに。ほんの少し時間を遡れば頭の中では悠々と王都へ入る自分の姿が見えていた! あれは夢か幻だったのか――今はもう何も見えない。浮かばない。あるとすればどす黒い赤――血色に染まったキャンバスだけだ。

 男は手綱を握り、その場から逃げようと襲い来る老兵に背を向けた。

 しかし――。

「――うぁ!?」

 何が起きた!? 突然天地がひっくり返る様な光景が見えたかと思うといつの間にか地に倒れ伏していた。足元を見ると乗っていた馬に剣が刺さっていた。倒れた意味がわかった。そして恐る恐る背後に振り返る。

「――ヒッ」

「クハハ、ハハ。詰みじゃ」

 ルートヴィヒは出来るだけ快闊に笑って見せた。しかし本当は血を流しすぎたせいで視界が霞んでほとんど何も見えていない。ただぼんやりと、そこに敵司令がいると感じているだけだ。

「くくく来るなぁぁぁぁあ」

 男は外聞を捨て、剣を振り回して老兵を牽制する。

「フン、今更遅いわい」

「だだだ黙れ爺ィ!」

「ホ、爺とは――いくら何でも敵国の王に爺はなかろう」

「な……に?」

 老兵は男に剣を向け、気高く、声高々に名乗りを上げた。

「我が名はルートヴィヒ=フォン=エルグランシルッ! これ以上好き勝手はさせんぞッ!!」

 言ってルートヴィヒは己が剣を、男の胸に深々と突き立てた。皮を斬り、肉を抉り、骨を砕く音が聞こえる。

「お……王みず……から……だ、と」

「フン、理由は向こうに行ってから教えてやるわい」

「ば、かな……」

 男は口から血を吐くとそのまま息絶えた。

 勝った。終わった。やるべき事は全て――するとその安心感からかふと足の力が抜け体がグラリとよろける。踏ん張ることも出来ずに体が地に引き付けられる。しかし、突然何かにつっかえるようにして止まった。それが誰かに支えられていると気付くのに数瞬を要した。

「お見事でしたぞ、陛下」

「お、おぉ……そこにいるのはへインツェルか。ハハハ、情けない。これしきのことで疲れるとは……歳は取りたくないものだな」

「陛下――御目が」

「ハッハッハ……もう、何も、見えん。しかし暗くはない。むしろ、眩いばかりじゃ」

 ルートヴィヒの胸には敵司令の剣が突き立てられており、そこから夥しい量の血が吹き出していた。しかしへインツェルは問わなかった。何故あの時敵の剣をよけなかったのか、と。何故自ら刺さるように仕向けたのか、と。それこそが王の策、最後の締めとわかっていたからだった。

「へインツェルよ……」

「――ハッ」

「後事は、お前と、ラムセスに託す。これからも、国を――儂が愛したこの国を……頼んだ、ぞ」

「…………御意」


 斯くしてエルガディア王ルートヴィヒ=フォン=エルグランシルは戦場に散った。熱い情熱を以て国を愛した男が逝った。

 この訃報は一夜にして大陸を駆け巡った。王国の民人は皆涙し、愛すべき賢王の崩御を途方もなく嘆き悲しんだ。

 連合国も国王の死を知ると南方師団の空中分解もあってこれ以上の戦は無益と判断。各々軍を引き、王国からの和平を受け入れた。


 新王歴三五七年、初夏――。

 後世『オルアディア戦役』と呼ばれるこの大戦は、多くの命を犠牲にしながらも開戦から僅か半年で決着した。

 最後は全てルートヴィヒの思い描いた物語(シナリオ)通りだった。

 初の短編です。読んで頂けたら幸いです。感想もお待ちしております。