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第84話 新しい友人

 恥ずかしがっている悠を見て微笑ましげに笑った後、美桜は嫌がらせの話を思い出したのか、眉を八の字に下げた。


「いつか克服して、紗奈ちゃんの彼氏って言えたらいいね」

「うん……。ありがとう。利用するみたいでごめんね」

「気にすんなよ。紗奈ちゃんの彼氏なら、うちらにとっても友達みたいなもんだし」


 みんなが快く悠を受け入れてくれるので、悠も、もちろん紗奈も嬉しいと感じる。


「良かったらチャットのID、交換しない? 小澤って普通に良い奴っぽいし。友達になりたい」


 と春馬が言えば、千恵美もバッと悠の方に身を乗り出してきた。


「ずるい。うちも!」

「じゃあ、私も。紗奈ちゃんの事、沢山聞かせて欲しいし」

「えっ!?」


 チャットIDを交換して、悠はスマホの画面を見つめてはにかんだ。普段から地味な格好をしているせいで、友達がほとんどいなかったのだ。


 増えた友人の欄を見つめているとニヤけてしまいそうになるので、悠は照れくさそうにスマホを傍らに置いた。


「ねえねえ、合宿の時の紗奈ちゃんの写真、あげよっか? パジャマだよっ!」

「えっ」


 思わず「欲しい」と声が漏れそうになったが、紗奈が真っ赤になって狼狽えているので、遠慮した。


 その変わり、ニヤッと笑ってからかうように言う。


「今度直接撮らせてもらうから」

「ゆ、ゆゆ、悠くんっ!?」


 遠回しに今度お泊まりをする。と宣言され、紗奈は更に顔を真っ赤にして狼狽えた。


 美桜と千恵美は「きゃあー」と興奮気味に肩を抱き合っていて、悠はくすくすと笑う。


「ごめん。紗奈」

「もうっ!」


 これ以上笑ったら拗ねてしまう。悠は無理やり感情を押さえ込んで、お得意の演技で誤魔化した。


「ごめんね、紗奈。機嫌直して?」


 悠がこてんと首を傾げて、甘えるような声を出すものだから、春馬が「すげえ」と感嘆の声を漏らす。


 紗奈も複雑そうにしているが、コロッと許してしまうので、悠の演技は効果覿面こうかてきめんだった。


。。。


「そう言えば、二人っていつから付き合ってるの?」


 ご飯を食べ終えた後も、すぐに動くのは良くないという事で、まったりと座りながら談笑している。


 気になったのか、美桜がふと、そう聞いてきた。


「去年の十二月からだな」

「十二月! もしかして、クリスマスで告白とか?」

「その前。終業式の日に、イルミネーションに誘って」

「ロマンチックで素敵だね……」


 あの時の事を思い出すと、悠は今もドキドキしてしまう。その前からお互いを好きだと分かっていたのだが、どうしても悠には自信がなくて……でも、初めて自分を真っ直ぐに見てもらえて、嬉しかった。


 あの時から、少しでも変わることが出来ただろうか。悠はそう思った。


「イルミネーション。リベンジしたいなあ」


 そして、口からつい思っていた言葉が漏れた。


「え?」

「あ、えと…実は、俺が人混み駄目で……。イルミネーション、ちゃんとは見られなかったんだ」

「そうなんだ……」

「だから、今年は見たいなって思って」


 悠はそう言うと、ふわっと笑う。


 紗奈の事を大切に思っているのだ。そうひしひしと伝わってきて、三人は悠の努力を見守りたい。二人の恋を見守っていたい。と強く思った。


「今年は見れたらいいね!」

「うん、本当に! 応援するし、小澤が人への苦手意識、克服できるように協力するよ!」

「そうだね。二人には穏やかでいて欲しいし」


 三人が口々に言葉にすると、紗奈と悠も嬉しくて、ニッコリと満面の笑顔で肩を寄せあった。


「「ありがとう」」


。。。


 大分座ってお喋りを楽しんだから、レジャーシートをしまい、紗奈達は公園内を歩き回る。


「うわあっ! 綺麗!」


 噴水の周りを花が飾っていて、とても綺麗な光景だった。春らしく、蝶々も疎らに飛んでいる。


「ねえねえ、せっかくだから二人で写真撮りなよ」


 と言って、美桜がカメラを構える。紗奈と悠は少し照れくさそうにしながらも、厚意に甘えて撮ってもらった。


 きっと素敵な思い出になるだろう。そう思いつつ、悠は今日できた新しい友人に感謝をした。

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