第83話 素朴な疑問
「てか、山寺よりかっこよくね?」
まじまじと悠の顔を見つめていた千恵美が、ふとそんな事を言った。
悠本人は驚いてしまうが、春馬も美桜も、彼女だから当然とも言えるが、紗奈もそれに同意している。
「イケメンすぎてビビったもん」
「と言うか、山寺くんは性格に難アリだからねえ……。紗奈ちゃんにこんなに素敵な彼がいるなら安心だね」
千恵美達三人は和んだ様子で「うんうん」と頷きあっている。
悠にはその様子が疑問だったようで、首を傾げた。
「あの人、空気感を操るの得意みたいなのに、そうやって言う人もいるんだな……」
それを聞いた美桜が苦い顔をする。
「私は春馬と遊ぶうちに、性格も男の子っぽく成長しちゃって。かっこいい子にキャーキャー言う性格でもないのよね。と言うか、あの人の嫌な性格も結構目につくのよ」
「うちも、美桜の嫌な奴はうちにとっても嫌な奴だし」
と、千恵美も肯定した。
「そっか。だから紗奈も信頼してるんだな」
「え? 信頼してくれてるの!? 紗奈ちゃん!」
千恵美は嬉しそうに紗奈を見ている。また抱きついてしまいたくてうずうずしているようだった。そわそわと手をさ迷わせている。
「えっと、うん……」
「紗奈が信頼してるって言うから、全部隠さずに会いに来たんだよ」
「ふふっ」と悠が笑うと、紗奈が照れくさそうに俯いた。
そして、紗奈の可愛い仕草にやられてしまった千恵美が、我慢できなくなってまたもやハグを仕掛けてくるのだった。
。。。
場所を移動して、自然公園の中の、春の花が沢山並んでいる花壇のそばまで来る。そこでレジャーシートを広げ、持ってきたお弁当を広げた。
「うわあ。紗奈ちゃんのお弁当すっごーい!」
「うちのお母さん、お料理が得意なの」
嬉しそうにはにかんで、紗奈はお弁当を全部広げきる。
悠の好きな玉子焼きもあるし、お弁当らしく、タコさんウインナーや飾り切りされた茹で人参もあった。唐揚げも、時間が経っている今でもベチャッとした感じはなくて、美味しそうに箱に収まっていた。他にもスパゲティや、可愛らしい一口サイズのおにぎりも、全てが美味しそうだった。
入っているものは定番ばかりだが、それを色とりどりに飾っているので豪華に見える。
「凄いよね。俺、玉子がほしい」
「好きだよね。お母さんの玉子焼き」
「それ味付けが美味い」
まるで夫婦のようなやり取りに、乙女二人がうっとりと見とれた。春馬だけはあまり関心を持たず、「仲がいいなあ」と穏やかな表情で眺めている。
「ねえ。気になってるんだけど、聞いてもいい?」
「ん?」
玉子焼きを口に運んで、美味しそうに蕩けた表情を見せた悠に対し、美桜が首を傾げた。
「それだけの美貌を持って、なんで顔を隠したがるの?」
美桜がそう聞くと、他の二人も気になったのか、じっと悠を見つめてくる。
「ああ、えーっと……」
何をどう話そうか。と悠は迷った。聞かれる予想はしていたし、紗奈が信頼している人だから、素性を話したって構わないと思っている。
しかし、全てを話す訳には行かない。
悠が子役を辞めるきっかけになった事件は、実際は『悠が嫌がらせの主犯に、プールに突き落とされた』というものだが、ニュースになったのは『不注意な転落事故により、危うく溺死』というものだった。
世間では、あの事件は事故として処理されているのだ。
「…君達のクラスの山寺くん」
「うん」
「いつも女子に囲まれてるでしょ」
「そうだねえ」
「ああいうのが苦手で……。あと、妬みとかも嫌だし」
手探りに、核心は言わないが、本当の話を混ぜて軽く説明して様子を見る。
「妬めるほど自分の容姿が良くないからなあ。注目はされるだろうけど」
春馬に苦笑されてしまい、悠は小さな声で呟く。もう少し核心に近い部分を、口にした。
「昔、嫌がらせされてたから、それからずっと自信なくて、顔隠してた」
「え! 嫌がらせとか最低じゃん!」
情に厚い性格をしているようで、千恵美が憤る。
「今はされてないよ。紗奈と付き合ってから、ちょっとずつ自信をつけたくて。ずっと付き合っているのを隠したままなのも嫌だし」
「じゃあ、今日紹介してもいいって話になったのも……」
「うん。紗奈が藤瀬さん達に聞かれた事を教えてくれたから。紗奈が信頼してる人だし、是非会いたいって言ってくれたんだろ?」
にこっと控えめに笑うと、色々と聞きたがった千恵美と美桜が照れくさそうに頭をかいた。
「うん。まあ……」
「紗奈ちゃんを射止めた人だし、気になっちゃって」
そう言われると、今度はこちらの方が照れてしまう。悠は恥ずかしくて、誤魔化すように弁当の中身を口に含んだ。