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第69話 ヤバいライバル?

 入学式が終わると、後は簡単な連絡事項だけで、今日は解散になった。


 両親達がまた集まっているので、紗奈達もみんなで一緒に、『ほしのねこ』に行く事を約束をしている。


 今日はあおいとも一緒に行けるので、紗奈は浮かれた様子で帰り支度をしているところだ。


「北川さん。どうだい? これからみんなで親睦会を兼ねてランチに行くんだけど」

「あ、ごめんね。今日は親と食べに行こうねって約束してるの」


 紗奈は手を合わせて申し訳なさそうに断りを入れる。


「それは残念だね」


「また今度」と眉を下げて笑う桐斗は、紛うことなきイケメンだった。美男子の憂いを帯びた表情は周囲を惹き付けている。


 ……紗奈には効かないのだが。


「うん、またね。行こ。菖蒲くん!」

「おう」


 教室の入口でずっと待っていてくれていた菖蒲が、軽く返事をして、ドアにもたれていた身体を起こした。


 紗奈は菖蒲を振り返ると、やはり浮かれた様子で教室を出ていこうとする。


 しかし、菖蒲は桐斗にジッと睨まれて、立ち止まってしまった。なので、当然紗奈も立ち止まる。


「君は?」

「まだ自己紹介とかしてねえもんな。俺、白鳥菖蒲。こいつの幼なじみなんだ。うちの両親と紗奈んとこの両親、仲良いから。俺らも一緒にご飯」

「ふーん……。よろしく」


 彼は笑顔でそう言った。一見すると、普通の笑顔。しかし、菖蒲の背筋には確かにゾワっとした感覚があった。


 菖蒲の目には、彼の笑顔がとてつもなく冷えたモノに見えたのだ。


 菖蒲は顔を引きつらせつつ、「よろしく」と返すと、そそくさと教室を出ていく。


 紗奈は置いていかれてしまったので、菖蒲の後を急いで追いかけて去っていく。


。。。


 みんなでご飯を食べている間、こそこそっと菖蒲が悠に耳打ちをする。


「ヤバいライバルがいんぞ」

「はあ? 急に何?」

「多分、紗奈の事狙ってる。イケメンで、なんか手強そうな奴なんだよ」

「紗奈がモテるのはわかるけど……」


 紗奈はちゃんと自分を好きでいてくれているし、紗奈への愛情もきちんと伝えている。簡単に乗り換えられるとも思っていない。


 しかし、やっぱり悠には自信がなかった。紗奈が美味しそうに料理を口に運ぶところをチラッと見つめると、肩を落とす。


「複雑……」

「紗奈があいつを好きになるとは思えないけどさ。一応、報告しといたから」

「ありがとう……。飽きられないように頑張るよ」

「性格は絶対お前が勝ってると思うから。問題なのは周囲なんだよなあ」

「ああ…味方が多いタイプね」


 と納得した悠は、一瞬眉を寄せた。


「なんのお話?」

「また内緒話して、紗奈ちゃんが拗ねちゃうよお?」


 と、あおいがからかい顔でそう言うと、紗奈はそれに便乗して、ぷくっと膨れ顔をして菖蒲を睨んだ。


「そうだよ! 悠くんは私の彼氏なんだからね!」

「ごめんね。紗奈」

「男同士なんだからいいだろ」

「私もいっぱい悠くんとお話したいもん……」

「内緒話もたくさんしようか?」


 悠が「ふふっ」と愛おしそうに笑えば、拗ねた表情をしていた紗奈の機嫌は、途端に良くなる。ぱあっと明るい、可愛らしい笑顔に変わった。


「うん。するー!」

「本当、ナチュラルにイチャつくよなあ」


 菖蒲はもう、目の前で何をされても驚かなくなったと思う。両親達も温かく見守っているだけので、二人の世界は誰にも止められないのだ。


「しーっ。だね!」


 いや、何も分かっていない義人だけは、二人の世界に侵入できる。ある意味戦士だった。


 ニコニコと笑っている義人を見て、みんなでくすくす笑い出すと、義人はきょとんとした後に、自分も楽しそうにケラケラとまた笑い出すのだった。

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