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第67話 新しい制服

昨日は設定をミスしてしまい、投稿出来なかったこと、申し訳ありませんでしたm(_ _)m

同時刻に、昨日投稿するはずだったお話も投稿しております。

 四月。桜が舞い始める季節。


 紗奈は新しい制服に身を包み、胸には悠から貰ったネックレス、頭にはシンプルな黄色のカチューシャを身につけると、リビングに顔を出す。


「おはよう」

「「おはよう。紗奈」」


 両親は既にダイニングにいたが、弟の義人はいない。


 義人は小学生になるお祝いに自分の部屋を貰ったので、きっと今日も中々部屋から出てこないのだろう。


 というのも、小学校の入学式は紗奈達の入学式よりも三日ほど遅いのだが、買ってもらったランドセルがたいそうお気に入りで、最近はよく一人で眺めているのだった。


「制服、どう?」

「うん。似合ってるよ。紗奈達は赤学年なのよね」

「うん! リボンと上靴が赤」


 紗奈はリボンをキュッと締めて、笑う。その胸元のシャツの間からちらりと覗くチェーンは、悠から貰ったクマモチーフのネックレスだ。


「髪型もいいね。なんだか大人っぽく見えるよ」

「ありがとう!」

「義人が来たらご飯にしましょ。私呼んでくるわね」

「あ、うん。分かった」


 義人はやっぱりランドセルに夢中だったようで、由美が無理やり引っ張ってきた。


「おはよう。義人くん」

「ねーね。おはよー!」


 ランドセルから離されて少しだけ不機嫌だった義人も、紗奈の顔を見ると明るくなる。そんな可愛い態度に朝から癒されてしまった。紗奈は頬を押さえて、緩く笑っている。


「ふふ。仲良いなあ」

「うん!」

「パパもおはよー!」

「おはよう。義人」


 朝から和やかな団欒を過ごして、紗奈はマンションのエントランスに降りる。


 エントランスには既に菖蒲がいた。せっかく同じ高校だから、待ち合わせていたのだ。駅では、あおいと悠とも待ち合わせている。


「おはよう」

「おはよ! やっぱり新しい制服だと新鮮だね」


 ベージュのブレザーに、女子はリボンで男子はネクタイをつけている。スカートもスラックスもグレーと黒のタータンチェックという、少々明るめな雰囲気の制服になっている。


 紗奈はこの制服を気に入っていて、というより、この制服が目当てのひとつでもあったので、今日までずっと楽しみにしていたのだ。


「そうだな。紗奈なんか髪型もガラッと変わったし」

「ふふ。悠くんが可愛いって言ってくれた髪型なんだー!」

「はいはい。朝から惚気やがって」

「えへへ。菖蒲くんも、好きな人が出来たらちゃんと協力するからね!」

「おう。ありがとな」


 新しい制服に、新しいスクールバッグ。それを持って、二人は待ち合わせの駅に向かう。紗奈のスクールバッグには悠に貰った兎のぬいぐるみキーホルダも着いていて、歩く度にゆらゆらと揺れる。


 駅には既に二人とも来ていて、談笑しているところだった。


「おはよう」

「お待たせ。二人とも」

「そんなに待ってないよお」

「大丈夫だよ」


 悠は相変わらず目元を見せない髪型だ。眼鏡は完全に辞めたらしいが、こうして見ると確かに少し地味に見える。と言うのも、紗奈とのデートの時はいつも髪を上げているので、実は最近は瞳が見えた顔の方が見慣れてしまっているのである。


「なんだか、悠くんのそのスタイル久々に見たかも」

「そうだっけ?」

「やっぱり、高校でもまだ隠しておくの?」


 あおいが首を傾げてそう聞いた。

 

「えっと……」

「そうだね。もうちょっとだけ、悠くんを独り占めするんだー!」


 答えたのは、歯切れの悪い悠ではなく、紗奈だった。悠の腕に自分の腕を絡めて、にこにこと笑みを浮かべている。


「ごめんね。紗奈……」

「ふふ。いいんだよ」

「学友として話すくらいは出来るよな? 同じ中学出身だった。って言えばそんなに不自然でもないし」

「お昼はみんなで食べようねえ」


 今日は入学式なのでまだ先の話になるが、先に約束だけしておいた。


「そうだな」

「早くみんなでお昼、したいなあ」


 楽しみで浮かれている紗奈は、周囲の注目を集めるほど可愛らしい笑顔を浮かべている。


 悠がその視線にいち早く気づいて、少しだけ不機嫌そうに眉を寄せた。


「お前…これからも苦労しそうだな」

「紗奈がモテるのは分かってるし」

「だよなあ」


 菖蒲とこそこそ話していると、紗奈がむぅっと唇を尖らせて菖蒲を睨んだ。無理やり訳すと、「私の悠くんを取らないで」ということだろう。


「ある意味では、顔隠してて良かったかもな」

「なんで?」


 悠としては早く克服して、堂々と本来の姿で歩きたいのだが、菖蒲にそんな事を言われてしまった。悠はまた少し、眉を寄せる。

 

「小澤がモテたら紗奈が面倒くさそうだから」


 絶対にヤキモチを妬く。そして拗ねることだろう。悠は基本的にヘタレなので、押しに弱い部分もある。紗奈にベタ惚れなのはわかっていても、上手く対応できなくて怒らせてしまいそうだ。と菖蒲は思ったのだった。


「分からなくはないかも」


 あおいも同じ意見なので、苦笑しつつ控えめにそう言った。


「えー…紗奈以外には別にモテたくないなあ……」

「むむむ。隠したいような公表したいような」


 二人して悩み初めてしまったので、菖蒲もあおいも顔を見合せて困ったように笑うのだった。


 。。。


 学校に着くと、早速クラス分けの表を見る。


「えっと……」


 みんなで同じクラスになれたら最高だ。そう思っていたのだが、残念ながらクラスは分かれてしまった。

 

 紗奈と菖蒲が一組で、悠とあおいが二組だ。離れてしまったが、隣のクラスである事だけが幸いだった。


「綺麗に二分しちゃったね」

「残念だけど仕方ねえな」

「みんな同じクラスはやっぱり難しかったかあ」

「来年があるし、隣ならまあ。合同授業もあるから」


 そんな会話をすると、四人は気を取り直して教室のある階へと足を進める。

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